闖入者
─兎は前歯をギラつかせるとボクに飛びかかってきた
普通に避けるには間に合わない。
ボクは咄嗟に後ろへ倒れ込み、首元めがけて飛びかかってきた兎の攻撃をかわす。
少々みっともない形にはなったが、なんとかなった。
ただ準備も何もしなかったので、したたかに打ち付けた腰が痛い。
そして肩透かしを食らった兎は再びボクに飛びかかろうとしているのがわかった。
「どどどどうする!?」
ボクは兎の体勢が整う前に慌てて立ち上がる。
頭がクリアになっている状況は続いている、加速した思考の中、ボクは必死に考えた。
手に持った木の棒で応戦する?しかしボクの細腕でこの凶暴な兎を止めることは可能だろうか。
打ちどころが良ければあるいは…
ボクは当てられることには疑問を抱いていなかった。
相手が次にどうやって動くのか、手に取るようにわかるのだ。
何故か、と疑問を覚える余裕はなかったが。
兎が再び飛びかかってくる。
ボクは頭部に木の棒が当たるように腕の少し上げる。
だが兎は目の前に障害物が来たとわかったのか、頭をくいと下に向けると木の棒に食らいついてきた。
その動きもわかってはいた、しかしわかっていても自分の体が思う通りに動かせる訳では無い。
兎がガジリと顎を噛みしめると、それは容易に木の棒を削り取り大きく歯型が残った。
折れこそはしなかったが、何度か噛みつかれればすぐに使い物にならなくなるはずだ。
「ヤバいヤバいヤバい、どうにかしなくちゃ…」
今でこそ攻撃を防いでいるが、防戦一方ではこちらの得物がなくなってしまう。
この兎は思ったよりも俊敏だ。逃走を試みても逃げられないとわかってしまう。
─逃走確率は7%です
─この戦闘での勝率は13%です、演算を続けます
あまりにも低い確率にボクはゾッとする。
ここでボクは何も知らないまま死んでしまうのだろうか。
「やりたいことがまだまだ沢山あるのに…!」
しかしアナウンスの告げる確率は絶望的だった。
「それでも…博打するしかない、の?」
死ぬのは嫌だ、やり残したことが沢山ある、考えている間にも兎は止まってくれず、それを全て防ぎながらボクは考える。
─武器の損傷度が70%を超えました
─勝率が9%に低下します
しかし告げられる勝率は無慈悲だった。
諦めたくない気持ちがあっても、現実は非情である。
もうやるしかない、低くとも確率はあるのだ、ならばそれに賭けるしかない。
覚悟を決めて兎へ攻撃するか、と思った時。
─人影を確認、暫定個体名「黒兎」へと攻撃準備
─射撃武器の所有を確認「拳銃」と判断
え?と思ったときにはプシュッと気の抜けた音が響いていた。
アナウンスによると拳銃の銃弾は衝撃を持って黒兎の横腹にぶち当たる。
兎は茂みへと吹き飛ばされ、一瞬の間が空いた。
「ゆっきー、大丈夫か?」
その声には聞き覚えがあった。もちろんその姿にも。
「く、クマさん!」
それは黒いスーツに身をつつんだクマウサギ、ボクの友達のVtuberだった。
何故ここにと思う前にボクは叫んだ。
「まだ終わってない!気をつけて!」
茂みから黒兎が姿を現した、血こそ流れているものの、闘志は薄れていないようだ。
「しっかり当てたはずなんやけど、おかしいなぁ」
クマさんは不思議そうな顔をしながらも、拳銃の引き金を続いて引いていく。
それは正確に黒兎へと着弾し、黒兎をどんどん吹き飛ばしていく。
そうして何度目かの着弾で、ついに黒兎は動かなくなった。
「ありがとうクマさん、助かったよ…」
バクバクと激しく鳴る心音を感じながら、ボクはクマさんに向き直る。
クマさんはいつものスパイ然とした格好をしながら、破顔した。
「なんなんあれ?銃で撃っても死なん兎とか初めて見たで」
クマさんは疑問をボクに投げかけてくるが、その答えをボクは持っていない。
「わかんない、ただボク達が知ってる兎とは別物みたいだね…」
─こうしてボクは、クマウサギと出会うのであった。
クマウサギさんは友達のスパイ系Vtuber!
チャンネルはこちら!
https://www.youtube.com/@KUMAUSAGI