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電子世界のVtuber  作者: 片倉優樹
第一章
2/9

豆狸、森へ入る

 平原をどれくらい歩いただろうか、30分だったかもしれないし、1時間だったかもしれない。

考え事をしながらというのもあったし、時計がないので正確な時間はわからなかった。

ただ太陽の位置を見る限り、そろそろ昼頃だろうか、と予想がつくのみである。


「時計をつける習慣があれば、時間もわかったのかなぁ…」


 今は人間の姿に変化しているとは言え、あまり体に装飾をジャラジャラとつける趣味はなかった。

ボクは現状を嘆いても仕方ないと嘆息すると、目を背けていた光景を見やる。


「森…だよね」


 そう、今ボクの眼前に広まっているのは森であった。

平原の境目を歩いてみたが、どこかに道がありそうな気配はない。


「うーん、森に入るのはちょっとなぁ…」


 森は怖い。

かつて住んでいた里の周辺であればともかく、土地勘もなく、先の見えない森に入りたいとは思わなかった。

ただ現状、先に進むには森に入るしかないのだろうな、と漠然と思う。


「食料や水も探さないとだし、どうしたらいいかなぁ」


 現在持ち歩いているものは特にない、本当に着の身着のまま放り出された状況だ。

山歩きは子供時代からしていたので慣れているが、もし遭難したらと思うとゾッとする。


「虎穴に入らずんば虎児を得ず、か…」


 そろそろ空腹にもなってきたし、少し喉も乾いてきた。

動けるうちに食料と水の確保をしなければならないだろう。

食料はしばらくなんとかなったとしても、水がないのは致命的だ。

どんな生物も、例えそれが豆狸という妖怪であっても水は必要なのである。


「こういう時、幽霊系の妖怪なら不便しなかったのかな?」


 そう独りごちるが、自分が生きるために水が必要なのは変わらない。


「昔はよく入ったものだけど…うん」


 まだ迷いはあるが、残された時間を考えると多少の無理は仕方ないかと考える。


「ふうむ…獣道っぽいものはあるかな、まさかこんなことでサバイバル生活を経験することになるなんてなぁ」


 たはは、と元気無く笑って、ボクは足を踏み出した。

動物の痕跡があるのであれば、それを辿っていけば水場を見つけることも可能だろう。


「とにかく水、それから食料、それを確保しないと行き倒れちゃう」


 森の歩き方はどうだったかな、と思い出しつつ、ボクは森へと踏み入れた。


───


 森に入ったボクは先程見つけた獣道をゆっくりと進んでいく。

焦りは禁物、なるべく大きな道は歩かず小さなものを辿っていく。

こんなところで熊にでも会ったら大変なことになる。

ボクは鼻をスンスンとさせながら、慎重に先へ進んでいた。

元が獣であるからか、鼻は良いのである。


「それにしても…」


 ボクは自分の周りを囲う樹木を見やる。


「これは杉…かな、果物のなってる木でもあれば助かるんだけど」


 ただ杉は針葉樹であり、実がなるタイプの木ではない。

むむむと唸りながら、恨めしげに杉を見る。


「ないものはない、先にすすも…」


 空腹を主張するお腹を撫でながら歩を進めていく。

その時ふと空気が変わったように感じた。湿り気のある空気に変わったのである。


「ん…これは川でもありそうかな?」


 次は耳をピクピクと動かして音をよく聞いてみる。

だが川の流れるような音はまだ聞こえない。


「うーん、何も聞こえない。とは言え先に進まないって選択肢はないよね…」


 ため息をついて、少しでも湿り気のある方角へ向かう。

ある程度思考をまとめて気分的には落ち着いたが、わからないことだらけだ、というのが正直なところである。


「このまま遭難なんてごめんだよぉ、リスナーも待っててくれるっていうのに」


 Vtuberとしての活動の数々を思い出し、少しでも楽しい気分を維持する。

そうすると、不思議にも頑張ろうという気持ちになる。

大きな獣道を避けながらしばらく慎重に歩いたボクだったが、ある地点で足を止める。


「…この辺に水場がありそうかな」


 音がしないので、池か水たまりかまだわからないが、水場があることは確かなようである。


「もっと進んでみよう」


 よし、と気合いを入れると改めて水の気配が多い方向へ進む。

しばらく歩いているとようやく水場を見つけた。


「うーん、池…とは言えないけど、水は水だね」


 小さめの水たまりを見ながら、さてどうしたものかと考える。

水は澄んだ色をしているが、そのまま飲むには抵抗がある。


「ろ過とか消毒しないと飲めないよね…」


 しかし手持ちがないので、道具を作ることも難しい。

どうしたものかと思案していると、ふと思いつく。


「これだけ湿り気があるなら、露くらいは取れるかな?」


 ボクは池から少し離れたところでキャンプをすることにした。

途中で生えている植物から大きめの葉をとり、うまいこと木の上に配置する。

真ん中に窪みがくるように調整し、ボクは登ったままの木に腰かける。


「凶暴な動物とかいたらやだなぁ…」


 だが木の上にいればある程度安全かな、とも思う。

後は気配を殺して何事もないように祈るだけである。


「水の次は食料か…でもその前にちょっと休憩しよ」


 ここまで歩き通しだったのだ、流石に疲れてしまった。

眠るまではいかないものの、目を閉じて木の上で足をぷらぷらとさせる。

こんなに歩いたのはいつ以来だろうか。人里に住んでからはない経験だ。


「誰かとおしゃべりしたいなぁ」


 元来より寂しがり屋のボクである、喋る相手がいないというのは苦痛だった。

どこかで腰を落ち着けることができたら本格的に探索をしようと思い、ぐっと拳を握る。


「こんなところで遭難なんて真っ平ごめんだもんね」


 決意を新たにすると、ボクは木の上で寝転がる。


「ま、何にしてもとりあえずは休憩かな」


 こうしてボクは慣れないサバイバル生活を始めることとなった。

サバイバル系の知識はやや怪しいかもしれないので、補足があったらコメントをしていただけると助かります!

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