母の秘密を求めて 5
「君、名前は?」
その少女は大きな瞳で僕をじっと見つめて、言った。
「シャーロットと言います。」
「シャーロット、歳は?」
「17です。」
「そうか…… シャーロット、僕は先程の君の姿を見て一目ぼれした。今まで数々の女性と接してきたが、こんな気持ちになったのは初めてなんだ。」
彼女の頬がぽっと赤くなっていく。
「僕の妃になってもらえないだろうか。」
僕は昔から、冷え切った関係の両親を見て育った。
だからこそ、自分が好きになった人との結婚を求めていた。
しかし、貴族社会の中で僕に近づいてくる女性は、僕と結婚することで得られる社会的地位を欲しがっていて、僕自身のことを愛してくれる人はいないし、僕もそんな女どもを愛せなかった。
シャーロットは突然のことに、少し戸惑っているように見える。
「なんという光栄でしょう…にわかに現実のこととは信じられません。」
「本当だよシャーロット。君を宮廷に招待したい。僕と人生を共にしてほしい」
「でも私は、ただの農家の娘です。不釣り合いすぎるのではないでしょか。」
「身分が何だ。そんなことは気にする必要はない。僕がいる限り、そんなことはさせない。」
「陛下…」
それから僕たちは一晩を共に過ごした。
本当はこのままシャーロットを傍に置いておきたかったのだが、僕も馬鹿ではない。
農民出身のシャーロットを妃にすると言うと、宮廷内で大反乱が起きるのは目に見えている。
その反乱の中に、シャーロットを巻き込むわけにはいかない。
この地方巡検が終わり、宮廷に戻ってから、シャーロットを迎える準備をしよう。
そして準備が整ったら、シャーロットを宮廷に招き入れよう。
僕はシャーロットに再会を誓い、家に帰した。
この判断は当時の自分としては賢明で、まっとうな判断だったと評価する。
しかし今振り返ると、それは間違った判断だった。
宮廷に戻ると、執事プルートが走り込んできた。
「陛下!隣国の王女・ガーネット様との縁談が持ち上がりました!」
僕は雷に打たれたような衝撃を受けた。
どうやら僕が宮廷を空けている間に、縁談が進められていたようだった。
僕の声は虚しく、国中に「国王陛下の結婚」が大々的に発表されるまで、時間はかからなかった。
数日後、シャーロットから手紙が届いた。
「親愛なる国王陛下、ご成婚おめでとうございます。
やはり農民の娘より、王女様の方が陛下の妃にふさわしいかと思います。
私も、同じ身分の男との縁談がありました。
私は私の身分にあった方法で、幸せになります。
陛下、どうかお元気で シャーロット」
僕は諦めきれなかった。
ガーネットとの結婚後も、月に1度は手紙を書き、彼女を宮廷に迎える方法を試案していた。
彼女からの返信が来ることはなかった。
しかし、運命の歯車は止まっていなかった。
最後の手紙から15年ほど経ったある日、彼女からの手紙が届いたのだった。
「国王陛下、大変ご無沙汰しております。
いつもいつも、お手紙ありがとうございます。
お返事ができておらず申し訳ございません。
陛下への気持ちにフタをするため、私はお手紙に返事をしないようにしておりました。
無礼をお許しください。
この度ご連絡したのには、理由がございます。
先日、私の夫が音信不通になりました。
街に出稼ぎに行っていたのですが、そこから消息がわからなくなったのです。
我が家は彼の稼ぎによって成り立っています。
このままでは一家が露頭に迷ってしまいます。
娘を売春宿に売りに出すなど、したくありません。
久しぶりの連絡に金の無心など、失礼極まりないこととは存じます。
どうか、お助けください。 シャーロット 」
無視できるはずなどなかった。
すぐに彼女のところへ使いをやり、彼女に宮廷で仕えることを提案させた。
彼女はすぐに承諾し、僕のもとへやってきた。
もしかしたら、だまされているかもしれない。
シャーロットではない別人が、なりすましているのかもしれない。
そんな不安はあった。
しかしそこにいたのは、あの時のままのシャーロットだった。