表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セシリアと革命前夜の王国  作者: まつがえ小飴
5/6

母の秘密を求めて 4


 ノックして部屋に入る。


「し、失礼します。」


 薄暗い部屋の中に、男の人がいる。


「やあ。よく来たね。」


 近づいてくる。この人は誰なんだろう。暗くてよくわからない。


「君がシャロンの娘かい?」

「シャロン……?」

「とぼけなくてもいい。ほら、明るいところで顔をよく見せおくれ。」


 その人は手を私の腰に回し、ぐっと顔をろうそくの灯りの方へと寄せた。


「あぁ、初めてあった時のシャロンにそっくりだ。特に目と口元が似ている。なんて懐かしい。あの頃に戻ったようだ……」


 私の顔をべたべたと触りながら、そう言っている。


「やめてください……」

「嫌がらなくてもいいじゃないか。ほら、力を抜いて。」


 その人は私をベッドの方へと押し倒した。この後されるであろうことが頭に浮かぶ。怖い。逃げ出したい。でも体がこわばって動くことができない。顔を背けるだけで精一杯だ。

  

「やめてください…… シャロンって誰なんですか……」


 その男がふっと笑いながら答える。


「君のお母さんの名前はシャーロットだろ? シャロンは僕が彼女につけたあだ名さ。彼女のことをシャロンと呼んでいいのは僕だけなんだよ。」


 こいつが何を言っているのかさっぱりわからなかった。


「……何なんですか……?」


 すると、その人はきょとんとした表情で言った。


「おや、君は何にも知らないのかい?シャロンの娘が女官に入ったと聞いたから、てっきりそういうことだと思ったんだが。」

「……? 何をおっしゃっているんですか。」


 その人は私の腕を掴む力を少し弱めた。


「僕は国王のラッセルだ。」

「え……?」

 

 この人が国王?あの国王陛下……?


「シャロンと僕は愛し合う関係だったんだよ。」


 与えられた情報の多さに戸惑い、頭が一瞬真っ白になった。でもすぐに、そんなことはありえないと思った。


「バカなこと言わないでください。母には父がいます。」

「うん。でもそれは表向きだよ。君の父とシャロンが出会う前から、僕たちは運命に導かれていたんだよ。」


 男が語り始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あれは20年前の冬だった。僕はまだ国王に就任し、1年経ったか経っていないか頃だったと思う。

 その日は公務でノセルの街を訪問していた。


「国王陛下、今晩の夕食会ですが……」

「すまない、連日の訪問でとても疲れているのだ。明日からの旅に備え、休ませてはくれないか。」

「陛下、お疲れの気持ちもお察しいたします。しかし、ノセルは前国王時代に反乱が起きた場所ですし、そこで夕食会に参加しないというのは、彼らに何と思われるかわかりません。今日は村の女たちも歌を歌ってくれるそうでし、参加される方がよいかと……」

 

 訪問した地方で、その地方の女どもが夕食会で歌う、というのには見飽きている。どこを訪問しても代り映えがしないので、乗り気はしない。でも、それは断る理由にならない。


「わかった。会が始まるまで部屋にいる。そして夕食会はできるだけ早く切り上げ、明日からのレノール訪問に支障が出ないようにする。」


 国王という立場に自由はない。常にその立場を意識しなくてはならず、時には休息することも憚れる。


 先代国王である父が治める時代、王国としては100年ぶりに市民反乱が起きた。反乱はなんとか抑えられたが、父はその後の対処もままならないまま病に倒れてしまい、それ以来、現国王である僕が、その処理に駆り出されている。反乱の第一人者を処刑するのは容易いが、今後二度と反乱が起きぬようにするのが難しい。今回、地方を巡っているのはそのための目的が強い。


「陛下、ご夕食会の準備が整いました。」


 芋臭い地方のオッサンどもとの食事が、楽しいわけがない。とりわけノセル地方の料理は味付けが薄いものが多く、好みに合わない。やはり夕食会を切り上げて部屋に戻ろうか、そう思った瞬間だった。


「陛下、本日は村の女たちによる宴をご用意しました。どうぞご覧ください。」


 僕は、一人の女性に釘付けになった。


 どこか儚さを備えた優し気な笑顔、美しい歌声、ゆるくカールしたブラウンの髪に白い肌。彼女が歌えば田舎臭い民謡も、讃美歌のように聞こえた。


 なんて魅力あふれる女性なのだろう。僕は宴が終わった後、彼女を個別に呼び寄せた。


 





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ