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セシリアと革命前夜の王国  作者: まつがえ小飴
4/6

母の秘密を求めて 3

コーデリアが続ける。


「とはいえ、お母さんはこんな下っ端部屋にいなかったけどねぇ。」

「下っ端…?」

「そう。女官の仕事は4つに分類されていて、部屋もそれによって分かれているの。第一業務は、国王・女王・王女様に深く関わる方で、王女様の教育係とかもそれに当たるかな。第二業務は第一業務ほどではないけど、国王ご家族にお仕えする方。それぞれの衣装係とかがそれに当たる。第三業務は宮殿の来客対応とか、宮殿の運営に関わる方。そして最後、私達の第四業務は共用部分の清掃とか、女官たちの食事を作ったりする、一番下の仕事なんだよ。」


 目まぐるしい説明に少し追いつかなかったが、女官長が女王に言っていた「第四業務」が何なのかは分かった。


「私達は出身階級が低いから、第四業務しか任せてもらえないの。ちなみに私は貴族じゃないよ。」

「え、そうなんですか?」


 私は目を見開いて、コーデリアに視線を送った。宮殿内に、自分と同じ貴族階級出身ではない人がいるというのが嬉しかった。


「うん。実家は宮殿に家具や調度品を献上してるの。それで、うちの家と宮廷の結びつきアピールのために、私は女官として勤め始めたんだ。まぁ第四業務しかさせてもらえないんだけど、親は我が物顔で『我が商会と宮廷との結びつきは強く、娘が女官として働いているほどです!』なんて言ってるよ。」

「へぇー……凄いですね。」


 貴族出身ではないとはいえ、農民だった自分とはかけ離れた存在であることに驚いた。


「ポーラは貴族出身だね。」

「貴族じゃないですよ、没落貴族です。」


 ケラケラと屈託のない笑顔でポーラが答える。


「私の一族は、父親が国王の兄君と揉めたおかげで領地を減らされたんですよー。それで、人質みたいな感じで女官になったんです。」

「そんなこともあるんですか……」


 笑顔が印象的なポーラだが、やはりそのしぐさや立ち居振る舞いからは、貴族出身の気品を感じることができる。


「ウィニーに関しては占い師だよ。」

「占い師?!」


 確かにウィニーは独特なヘアスタイルや化粧など、他の二人とは明らかに違う文明の中で過ごしていたのが推測できる。


「ラッセル国王は若いころから占いがお好きでね。私は国王の専属占い師としてそばで仕えていたんだけど、ある日それを快く思わないガーネット女王から追放されちゃって。でもアタシはここを追い出されたら明日からのおまんまが食べられないから、なんとか第四業務の女官に降格、という形で置いてもらっているのよ。」

「えー…。」


 ウィニーの口から語られた女王陛下は、今さっき私に温かく接してくれた陛下とは別人のように感じ、少し戸惑った。


「女王陛下怖いからねー。さすが鋼の女って感じがする。」

「でも実質この国が成り立っているのはガーネット様のおかげですもんね。」

「そんなこと宮殿内で話すことじゃないよ。」

「あ、そうですね。気を付けないと!」

「まぁうちらは業務で関わることはないから、そんなに怖気づかなくても大丈夫だよ、セシリア。これから一緒に頑張ろうね。」


 コーデリアはそう言って、私の肩をポンポンと叩いた。するとそれまでピンと張りつめていた緊張がほぐれていくのが分かった。


「はい、よろしくお願いします。」


 女王陛下のことは少し引っかかるが、それよりもこの人たちの笑顔に癒された。


 なんだかいい人ばかりでうまくやっていけそう。

 このことを早く家族に知らせたいと思った。


 それから夜になったが、私は新しいベッドに緊張し、なかなか眠れずにいた。このベッドは一女官が使うためのものだが、それでも私が実家で使っていたものよりもずっと上等でふかふかなのだ。なんという好待遇なのだろう__


 目を瞑ってそんなことを考えていたら、部屋の扉が開いた。


「セシリア、起きてください。お呼びです。」


 薄目を開けると、そこにはまだ会ったことのない女性が立っていた。着ているドレスから、女官なのだということはわかる。

 今呼ばれたのは本当に私なのか。こんな変な時間なのに呼ばれるなんてことがあるのだろうか。もしや幻聴ではあるまいか。

 一度横に倒した体を、朝になる前に起き上がらせるのは容易いことではない。私はもう一度目を閉じようとした。


「早くしてください。」

「あ、はい……」


 どうやら幻聴ではなかったようだ。私は重い体を起こして、ベッドから這い出た。

 こんな時間に、いったい誰が私を呼んでいるのだろうか。


「ノックをして、この部屋にお入りください。」


 連れてこられた部屋は、昼間に訪れなかった場所だった。女官の部屋から遠い位置にあり、そこへ行くまでには多くの警備の兵とすれ違った。目の前に佇む大きな扉は、暗い宮殿内の雰囲気と相まって不気味であった。本当にこの部屋に入るのかと疑いたくなったが、女官は早く入れと言わんばかりに見つめてくる。息をスッと吸い込んで、私はその部屋に入った。


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