プロローグ
私の母が亡くなった。
この知らせを受けたのは、一週間前のことだった。
母は王宮の女官だった。
私達はもともと祖母、父、母、兄、妹の6人家族で住んでいたが、ある日、漁師である父が行方不明になってしまった。荒波に船が流されたのか、理由はわかないが父は一向に帰ってこなかった。
それにより一家の家計が傾き、母は王宮で勤め始めることになった。
これは3年前のこと。私15歳、妹はまだ10歳だった。
私たちは貴族階級ではない。王国の北限、ノセルの街で暮らす農民だ。
なのに母はなぜ、都の王宮で働くことができたのだろう。母は「街の貼り紙で見つけた」と言っていたが、私は王宮の女官募集の貼り紙など見たことはない。私は母が何か隠しているように感じたので、本当の理由を聞きたいと思っていた。しかし、手紙で尋ねるのは気が引けて、後回しにしていた。もう金輪際、本当の理由を知ることはできないのか……
母の葬式は王宮で行われたので、私を含む家族全員、母の最期の顔を拝むことはできなかった。
私達が母の姿を見たのは、王宮へと送り出した日が最後だ。
母と会えなくなり寂しい気持ちはあったが、筆まめな母は毎月手紙を書いてくれた。しかし、勤め始めて1年経ったころから手紙は届かなくなり、仕送りの金額も減っていった。家族みんなで、仕事が忙しくなってしまったのか、給料が減ってしまったのかと心配していた。
なのになぜだろう、母の遺品として王宮から預かったものは、みんな高価なものばかりだった。
ダイヤの輝くネックレスに、上等なドレス、カメオのブローチ。「質素倹約」が口癖だった母の遺品とは思えない。
これは母の遺品ではないのだろうか。それとも、母は私たちの知る母ではなくなってしまったのだろうか。
私は今、母と同じように王宮で働くために都へ向かっている。
王宮での勤めで家族を支えるとともに、母の王宮でのどんな様子だったのか、知りたい。