転生先の異世界を選ぶ話
来年からのNISAがどうなるのか不安です。
「やれやれ、やっと目覚めたか。」
目を覚ますと、そんな老人の声が聞こえた。
辺りを見回すが誰の姿も見えない。
見知らぬ天井。ここはどこだろう。
「早速で悪いんじゃが、一つ確認したいことがある」
寝起きって分かってるのにこのジジイぐいぐい来るな。こっちの心の整理がつくまで待てよ。
「お主はワシが呼び寄せた転生者か?」
知らねーわ。なんでそれをこっちに聞くんだよ。
黙っていると老人は通じてないと思ったのか、身振り手振りを交えて再び問いかけてきた。
「アイ・・・アム・・・カミサマ・・・
ハウドゥユゥライク・・・ウェンズデー?」
全く状況が分からないが、こんなみっともない英語を聞かされてはさすがに答えないわけにはいくまい。
「そんな怪しい英語使わなくても通じてるんで日本語で大丈夫です。
ていうかその英語の後半、『水〇どうでしょう』じゃないですか。
そもそもここはどこなんです?転生って何のことですか?」
老人、もとい自称神はふうと息を吐くとこちらに鋭いまなざしを向け語気を強めた。
「質問を質問で返すんじゃあない!」
そんなこと言われても答えるための材料が無いんだが。
「つまり、あなたが神で、死んだ私を異世界に派遣するために
いったん神様の世界に呼び寄せたということですね。」
「さすが日本人。理解が早くて助かるわい。」
もしかして日本人以外も担当してるのか?あの英語力で?
まあ、そんなことはどうでもいい。
「神様、すみません。なぜ私が選ばれたのでしょうか。」」
自称神は驚きの表情を浮かべる。
「えっ!?転生者って選べるの?」
お前こそ質問を質問で返すな。
「え~、というわけで」
自称神は日本の政治家のように手元の原稿のみを注視し、顔を上げることなく原稿を棒読みし始める。
「みなさんには転生先の世界を選んでいただきます」
みなさんってなんだ。こっちは1人だぞ。原稿丸読みしすぎだろ。
「いくつかの異世界にお試しでちょっとだけ転移させますので
自分に合った世界がどれかをご自身で判断してください。
コメジルシ、質問が出た場合は、質問は後で受け付けます、と回答して話をすすめること」
最後の一文は読んじゃダメなやつだろ。
「派遣先の世界はすべて何らかの問題を抱えています。
みなさんの仕事は、救世主として世界を平和に導いていただくこととなります。」
それにしてもこいつ原稿ばっかりで全然こっち見ねーな。
「前世で目立たなかった人でもステージの真ん中に立てるチャンスです。
それでは皆さま素敵な異世界ライフをお楽しみください。
コメジルシ、半分以上は失敗し無残な結果となるが、不安を煽るだけなので絶対に伝えないこと。」
おい、ふざけんな。成功率5割未満かよ。
説明、もとい原稿の読み上げを終えると、自称神は久々に顔を上げた。
「念のため、もう一回同じ内容を説明しようかの?」
説明直後に同じ説明するか尋ねるとか、ドラ〇エでしか見たことねーわ。
「さて始めるとするかのう。
最初の世界に送るので頑張るのじゃぞ。
24時間ほどでここに戻すが、
もしも途中で、もういいや、と思ったら右手を挙げるのじゃ。」
何だそのシステム。歯医者かよ。
「手だけだと気づかないこともあるので大声で"タイム"と叫んでくれると助かる。」
自称神は部屋の中央へと歩を進める。
部屋の中央の魔法陣的な模様の中心に立つとこちらをまっすぐ見る。
「・・・念のためもう一回ルールを説明したほうがいいかの?」
うるせえ、黙れ。
「では、いくぞい。転移スタート!ニャンニャンニャー!!」
その恥ずかしい掛け声やめろ。
気が付くと、見知らぬ荒野に立っていた。
どうやらうまく異世界に転移したようだ。
しかし、見渡す限り荒野でどこに行けばいいのか分からない。
周囲を見渡していると、自称神が頭の中に語りかけてきた。
「まずは南に向かうのじゃ。」
なるほど、南か。
周囲を見回してみる。どの方向を見渡しても同じような殺風景な荒野が延々と続いている。
・・・どの方向が南だよ!
結局どこに行けばいいか分からないのでまっすぐ進んでみる。
しばらく進むと、謎の生命体の群れにでくわした。
イソギンチャクのような見た目の生物だ。
円筒部分が1mぐらい、触手部分が50cmぐらいある。
言葉は通じるのだろうか。
まずは挨拶をしてみる。
「こんにちは。みなさんはこの辺にお住まいの方でしょうか。」
だが、住人達は何の反応も見せない。聞こえなかったのだろうか。
もう少し大きな声で語りかけてみる。
「すみません、私の声が聞こえておられますでしょうか。」
しかし、住人達は一切リアクションしない。
ふむふむ。なるほど、なるほど。
右手をまっすぐに上げる。
「ターーーイム!!」
気が付くと、自称神がいる元の空間に戻ってきていた。
自称神はマニュアルから顔を上げずに棒読みで語りかけてきた。
「今回の世界はいかがだったでしょうか。」
言いたいことはいくつかあったが、とりあえず一番の疑問をぶつけてみる。
「現地の言葉を自動翻訳する能力とか無いんですか?」
自称神は手元の書類をめくって答える。
「翻訳は・・・ついておるの。」
「いや、全然話通じてなかったんですが。」
「ほっほっほ。あの世界の生き物はコミュニケーションをとる能力を持っておらんからのう。」
ええ・・・。
自称神はマニュアルを棒読みし始めた。
「ここまでを踏まえて次の世界に対する要望はございますでしょうか。」
そんな短文ならマニュアル見ずに暗記しておけよ。
でもまあ、せっかくなので要望を伝えることにする。
「そうですね。最低限、コミュニケーション能力がある生物の住む世界でお願いします。」
「うむ。心得た、しばし待つのじゃ。」
と言うと自称神はタブレット端末を取り出して何やら打ち込み始めた。
「セレクト アスター フロム イセカイマスター ウェアー イシデンタツ イズ トゥルー」
SQL文か?データベースで管理してるのかよ。
「ふむ。なるほどのう。全体の99.9%が該当するのう。」
コミュミケーション能力無しは少数派なのか。
なぜ最初にそれを選んだ?もっと一般的なやつからスタートするのが定石だろ。
「では次の世界への転移をやるとするかの。」
そのマニュアルにはこっちの了承を得るという手順は無いのか。
「では、いくぞい。転移スタート!」
恥ずかしい掛け声なくてもいけるんかい。どうでもいいけど。
気が付くと、見知らぬ砂漠に立っていた。
辺りを見回すと、右ナナメ前の遠方にいくつか物体が見えるほかは一面が砂漠だった。
「まずは南西に向かうのじゃ。」
なるほど、右ナナメ前が南西か。
砂漠を歩いていくと、先ほど遠くに見えた物体がだんだんハッキリ見えてきた。
物体は、円筒部分が80cmぐらい、触手部分が40cmぐらいの
イソギンチャクのような見た目の生物だ。
イソギンチャク型ってポピュラーなのだろうか。
今回は言葉を交わすことが出来るはずだ。
挨拶をしてみる。
「こんにちは。みなさんはこの辺にお住まいの方でしょうか。」
イソギンチャクたちは急に激しく触手を動かし始めた。
ひとしきり触手を動かすと、触手の先端から小さな玉を放出し始めた。
緑の綺麗な玉7つと青の綺麗な玉2つがきれいに一直線に砂の上にくぼみを作った。
ふむふむ。なるほど、なるほど。
右手をまっすぐに上げる。
「ターーーイム!!」
自称神の空間に戻ると、向こうがしゃべりだす前にクレームを入れる。
「全然、自動翻訳されてないじゃないっすか!」
自称神はマニュアルを棒読みし始めた。
「今回の世界はいかがだったでしょうか。」
マニュアル人間め。
仕方ないのでもう一度同じクレームを入れる。
「全然、自動翻訳されてないじゃないっすか!」
自称神は笑いながら答える。
「ほっほっほ。自動翻訳は口から出た音にしか機能せん。
あの世界は触手から出した玉の色と数と順番で会話するのじゃ。
ちなみに色は64種類、玉の数は1つの単語で最大32個じゃぞい。」
それ全部で何パターンあるんだよ。覚えるだけで寿命が尽きるわ。
それにしても異世界って人間型がメインじゃないのか?
なんでイソギンチャクばっかり出してくるんだ?
自称神はまたマニュアルの棒読みを続ける。
「ここまでを踏まえて次の世界に対する要望はございますでしょうか。」
こいつに任せていると、ずっとイソギンチャクしか出てこなさそうだ。
「要望・・・そうですね、メインの住人がイソギンチャク系以外であること、ですかね。
できれば人間型で自動翻訳が機能する世界でお願いします。」
自称神はまたタブレットで検索を始める。
「ふむ、イソギンチャク系以外か。該当するのは・・・全体の3%って所じゃな。」
イソギンチャク型ってそんなにメジャーなタイプなのか。
「人間型となると、ぐっと少なくなるのう。
血の池地獄世界、針山地獄世界・・・」
このままだとロクでもない世界に飛ばされそうだ。
「すみません、普通の地面の世界はありませんか。まともな衣食住が揃った世界なら、なおいいのですが。」
自称神はタブレットを操作する手を止めると、静かに語り始めた。
「条件に合う世界は一つだけある。だが、そこは非常に難易度が高いのじゃ・・・。
これまで幾千もの英雄たちを送り込んできたが、誰も平和をもたらすことはできなんだ。」
何千人も送ってるのに未だにマニュアル棒読みなのかよ、このジジイ。
「この世界は気象が不安定で、世界のいたるところで自然災害がたびたび発生しておる。
自然が厳しいだけではない。人間同士による争いも激しい。
人間はいたるところに暮らしておるが、言語や文化の違いにより200近い数の国が乱立していて、
資源の奪い合いなどによる紛争が絶えることがないのじゃ。」
何やら大変そうだ。
「じゃが、悪い点ばかりの世界かというと、決してそうではない。」
自称神はタブレットに保存された画像を見せながら続ける。
「昔この世界に潜入した時に食べた、この富士宮焼きソバという食べ物はとても美味しかった。」
地球じゃねーか、いい加減にしろ!
そろそろNISAの具体的な仕様を提示して欲しい。