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春になると
おれが春先の
暖かい日に
駅で電車に乗ろうとして
停車中の電車の
車内に飛び込んだ
そこでおれは
同じ電車の中に
気違いがいるのを
発見した
それは若い男で
そいつの目つきは
明らかに病的だった
そいつはデカい声を
張り上げて
同じ車内の人たちから
珍奇なモノを見るような
眼差しで
見られていた
「ウォーっ、君の名前は
ウツヌキタカシ君だね!
ウツヌキあタカシ君!
人の話を聴くときは
ちゃんと前を見て
話を聴けよ!」
おれほその野郎の
耳をつんざくような
デカい声を
聞かされて
ただ口を閉ざした
おれが電車内の席に
座っていると
おれの隣には
その気違い野郎の
彼女らしい女が
黙って座っていた
その女は
見た目は全然
可愛くもないし
美人でもなかった
ただその女の目つきも
野郎と同じく
病んでいた
「君がウツヌキタカシ君だろ?
アーッ!ワーッ!ウォーっ!」
その気違いは
おれが電車に
乗った時から
降りる時まで
休むこと無く
叫び続けていた
春になると
必ず頭が変で
おかしなクルクルパーを
見かけるようになる
狂った天国
陽気な地獄とは
まさにこのことだ




