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異世界魔神と神々の籠  作者: 水樹悠
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春雷

「現時点でこの世界に上層世界から落ちてきたヤツは五柱いる。ただ、召喚されたのが五柱って意味じゃない。そもそも最初に初代ディエンタール王が呼び出したヤツはもう残ってない」

「殺された…? 貴様がやったのか?」

「とんだ言いがかりだ。ディエンタール王が呼び出した当初の術式は魔術に近いもので、上層世界の住人の力だけをまるごと持ってこようとした。が、どうしてもそれだと帯域が足りない。結果的に力の塊のような不安定な存在を呼び出すことになった。まぁ、そのかわりに完全に従属させることができたようだけども。とにかく、ディエンタール王はその力で覇道を成し遂げたものの、召喚した神はそのまま消滅してしまった。そしてディエンタール王は上層世界とのゲートを作って帯域を広げ、神そのものを召喚する方向に変えた。まぁ、理由はわからないけど、築いた国を守るためとかそんなところだろ。

 けど、その術法は留めきれず、結果的に神を召喚する方法が流通することになった。そして魔術に対するロフコニア王子兄妹が別世界の人間の魂を同時に呼ぶことでその術を成功させた。それが俺だ。

 俺は俺を従属させようとしたロフコニア王族と対立し、要求を飲ませた。だが、その戦闘に伴ってロフコニアの弟が国境を越えて逃げ出した。まぁ、俺が矛を収めるとは思わなかったんだろう。俺としては満足な結果になったが、弟のほうは亡命先で随分後になってから召喚を成功させた。

 俺は新たな国を興し、そっちに移った。その数年後、ロフコニアでも新たに召喚がなされた。俺はそれを許さなかったし、敵対的な行為だと見做してロフコニアと戦争になった。結果、今ロフコニアも俺の支配下にある。

 もう一柱はどういう経緯で召喚されたのかわからないが、ディエンタール王の由来の地と思われる場所で召喚された。

 問題は、俺達の存在と、この世界の存在にある」

ただ、説明だけが続き、その状況が何を意味するのかは全くわからなかった。しかし、タケルは一度言葉を切ると何度か深呼吸をして、続けた。

「この世界自体、三千世界の端っこにあって、神によって雑に作られた世界だ。俺達の元いた世界を模してな。雑に構築された世界は世界を構成するための法則が整っていない。だから、短命に終わるしかない。そんな実験的な箱庭にいるのが俺達……神々に異端として狩られる立場だった連中だ」

ディアボロスもネルラも、説明に不穏な気配を感じていた。何を言っているのかはよくわからない。だが、嫌な予感で埋め尽くされるようだった。

「三千世界の端っこで、この世界を消し飛ばしても他の世界に影響が出ない。あんたは上層世界でも最強で、俺だって一騎当千だ。けどこの世界に送り込んだ後、この世界もろとも消し去ってしまえば連中の勝利ってわけさ」


誰も言葉を発しなかった。この世界が消える。それはどうすることもできない死の宣告であった。

「けど、実際にはこの世界を消し飛ばすためにはゲートを広げて、消し飛ばせるだけの帯域を確保しなくちゃならない。そこで連中との戦闘がもう一回あるってわけだ。まぁ、できればゲートを広げるってところ自体を防げれば何よりなんだけどな。 有力なゲートだったディエンタールはあんたが離れたから当面は問題ないだろ。けど問題は、ロフコニアの弟が支配してるタン・トルリオ王国だ。ロフコニアで召喚されたのはラッキーなことに元々俺と仲の良かったヤツで、協力関係にある。けど、タン・トルリオにいるのは炎の魔神で、敵対関係にある上に俺だと相性が悪くて勝ち目がない」

「なるほど。だから協力せよというわけか」

「あんただってこの世界が神々に蹂躙されるのは困るだろ?利害は一致してる」

タケルの言う内容は確かに有無を言わせないほどに正論であり、拒否する余地がないように思われた。だからこそディアボロスはタケルの言葉を素直に信じるべきかどうかという点で訝しんだ。

「悪い話じゃないはずだ。あんたからすればリスクも比較的少ない。もちろん、敵との戦闘があるにはあるが、交渉事や準備はこっちでやる。これでももう八十年は研究してるんだ。調べものはこっちでやったほうが早い」

「八十年?」

タケルはそれほど老いているようには見えない。というよりもむしろ若いくらいだ。

「そうは見えないってことか? そりゃそうだろう。神なんだから人間よりは長寿だ。まぁ、俺の女たちも抱けば長生きする。エリスはともかく…他の女はそうしなければ俺を置いて逝っちまうからな。それは、あんたも避けられない宿命だろ」

考えたこともなかった。だが、確かにディアボロスが神であるというのなら、寿命が違うというのは考えてみれば当たり前ということでもあった。ネルラたちは先にその生を終える、と聞いてディアボロスはやりきれない気持ちになった。一瞬、タケルに抱かせるべきだろうか、という考えがよぎった。絶対にない、とは言い切れない。それが長く共にいるために必要だと言うのならばそうするかもしれない。だが、タケルは抱けば従属させるのだと言った。そのようなことは避けて真っ当にその天寿を全うすべきなのだと自らに言い聞かせた。

「しかしそうすると、貴様は元は俺よりもずっと老人ということか」

「…………ん?」

タケルは軽く首をかしげ、引きつった笑いを浮かべた。

「なるほど? つまり、あんたは俺からすればずっと未来の人間ってわけだ。生まれた時にはスマホはもうあった、ってことか」

「スマホ?いや」

ディアボロスは首を横に振った。

「スマホは……いつ頃かは覚えていないが、もう大人になってからだったのは間違いない」

「おかしいな……スマホが出てきたのは俺が十代のときだった」

タケルは考え込んでトントンと机を叩いた。

「時空がねじれていて、召喚時の元の世界がいつだったかは関係ないのか? いや、そもそも同じ世界だった、って保証はないか。違う世界…あるいは、平行世界? くそっ、あんたが元の世界のことを覚えてれば検証できるのに。少なくともスマホはあったわけだし、同じ世界である可能性は高いな。平行世界であるとしてもかなり近似か……あんた、スティーブのことは知ってるか?」

「スティーブ?」

「有名なカリスマさ」

ディアボロスは考えこんだが、また首を横に振った。

「人の名前は……ほとんど思い出せないな。歴史上の名前ならいくらかは」

「そうか……まぁ、それはいい。とにかく、俺達はこの世界もろとも神に蹂躙されないために戦う必要がある。それはお互い様だから協力しようってことさ」

「……断ったら?」

「あんたがどうするのか次第さ。ただ、あんたの協力なしには炎の魔神に対する勝算は低い。あんたが戦死する可能性よりも、あんたが戦わずにこの世界が滅びる可能性のほうが間違いなく高い」

「…………」

ディアボロスは考え込んだが、タケルの言葉を検証する方法がなく、断ることはできないように思われた。

「いいだろう。どうすればいい?」

「賢明な判断に感謝するよ。とりあえず、今すぐは特にはない。俺と、ロフコニアのジャンは、不明の神との交渉をしなきゃならない。だからあんたはシトラスで女たちと過ごしていればいい」

「不明の神?さっきディエンタール王由来の地で召喚されたといっていた者か。俺はいいのか?」

「戦闘にいくわけじゃない。相手は俺達とも、あんたとも、そして体制側の神々とも違う中立の立場だ。別にいきなり戦闘になるようなことはない」

「どんな神なんだ?」

「あぁ、軽く紹介しておくか…… イチから行こう。まずあんたは脳筋型の巨人だな。力を発するとでかくなる、って特徴があるくらいで、あとはひたすら膂力だ」

「…………」

なんとなく愚弄されているような気がしてディアボロスはイラッとしたが、事実なのだろうとおとなしく受け入れた。

「俺は迅速の剣の神だ。速度と、あとはいろんな能力があるから小器用で手数で攻めるタイプだな」

「空を飛ぶのもそうか?」

「あぁ、いや、あれは空を飛んでいるわけじゃないんだ。跳躍力と反射速度があるから、小さな力場の壁を作ってジャンプしてるのさ。ちょうど、水泳の飛び込みみたいにな」

「ほぅ……」

確かに小器用だ、とディアボロスは思った。跳躍力と速度で突撃してくるし、それが凄まじい威力であることはディアボロスは身を以て知った。そこに「壁をつくる」という能力があれば、足場にすることも、防御に使うことも、あるいは相手自身の突進を利用した攻撃に使うこともできるだろう。

「ジャンは賢神テユコナだ。魔術師だけど、あくまで研究者だからな。戦闘は無理だ」

「うむ……」

この世界の魔術は制約が厳しく、実用的には使えない。だが、神の魔術ならば便利な能力たりえるのだろうか。

「中立なのはステンルヒアに住んでいるナナミだ。神秘の女神イリュシオスだな。戦闘的な魔術が使えるし、予見能力がある。ステンルヒアは北極みたいな場所だぞ」

「そんな場所に人が住んでいるのか?」

「この大陸は北極圏まで地続きだし、大陸といってもそんなに陸地は広くないからな。で、問題の敵が炎の魔神カルヨソだ。奴自身、カルヨソと名乗っているらしいから、元がどんな人間だったかはわからない。世界をまるごと焼き尽くしたことがあるくらい危険な相手だ。しかも残虐で好戦的。下手するとあいつによってこの世界が滅ぼされるかもしれない。元々体制側だし、あんたを追い出した張本人でもある」

「待て。それは俺が勝てるのか?」

「今のままじゃ無理だ。あんたは今は随分小さいし、力を上手く発揮できてない。ナナミとの交渉がうまくいったら、なんとかするつもりではいる。本来の力を取り戻すことと同時に、できればあんたの装備を見つけたい。俺が使っているのは俺の本来の武具だが……あんたは自分の武具をみつけていないようだからな。場合によっては、ディエンタールに行くことになるか……」タケルは少し考え込んだ。

「結局、俺はどうすればいい?」

しびれを切らしてディアボロスが聞いた。

「いや、別にこれといったことをする必要はないさ。とりあえず、俺はまずナナミを説得してくるから、それまでは女たちと領民と好きに過ごしていればいい。いやでもそうだな……できれば力を取り戻してほしい」

「だからどうやって?」

「思い出すことが大事なのさ。あんたは今まで自分が何者かすら知らなかったワケだろ? だったら元の上層世界のことを考えてみなよ。それを思い出せれば、あんたの力についてもわかるはずだ」


結局のところ、タケルの目的はあくまでもディアボロスに共闘を持ちかけることにあったようだった。結局ひたすらにディアボロスたちに情報を与えた形であり、多くを払ったにも関わらず要求したのはあくまでカルソヨを倒す、ということに過ぎなかった。

当然にディアボロスはタケルの真の意図を疑った。だが、少なくともタケルの今日の行為がディアボロスに対する奸計の類であると読むことができる材料は何もなかった。そうなると、タケルの動機として考えられるのは、言葉どおり世界の崩壊に対する危機であった。タケルはこの場に女をふたり同席させた。ディエンタールに襲来した際にはもっと多くの女を従えていた。ディアボロスとしても、自分が見初めた女たちに囲まれ、日々生きることは十分に幸せで守りたいと思えるものだった。その守りたいものが、世界の崩壊という形で奪われるということが解っていたならば、なりふり構わず抗おうとするかもしれない。飄々とした様子に見えるタケルだが、その実かなり切実なのかもしれない、と思えばディアボロスとしても納得できるところだった。

もちろん、この場で拒否する余地はなかったが、別れてしまえば別だ。言を覆して協力しない、ということは十分に考えられた。だが、そうしたところで、タケルが攻め込めばその戦力差は明らかであり、ディアボロスとして許容できる被害には留まらいなことは明らかだった。

(俺はもう、これ以上愛する女を失いたくはない)

その感情には、愛の真偽などどうでもよかった。

ディアボロスには依然として不信感があった。女たちを従えているのは力である、と考えるほうが、ディアボロスとしてはずっと納得しやすいし、思い悩むこともないように思われたからだ。だがそれは、愛に、男と女の関係に思い悩むことから逃れたいという思いと、愛を信じて裏切られることへの臆病さに過ぎなかった。そしてそんなことはディアボロスとて解っていたし、それでも尚、できることならば真実愛されているからこそ日々共に過ごすほうがずっと良いのもまた事実であった。むしろ、それが真実でなければとても許せないような気持ちさえあった。

だが、その真偽がどうあっても、ディアボロスは女たちを失っても構わないという気持ちには到底なれなかった。偽りの愛を語る女たちに騙されながら共に過ごす日々と、彼女たちを失って孤独に生き延びる日々のどちらかを選ぶのなら、偽りに気づかないフリをしたほうがずっとマシだった。それは、例え己がたやすく焼き殺されるような恐ろしい相手との対峙と引き換えるのだとしても、あるいはそれさえもが甘言に過ぎず実のところ世界の崩壊などというものがないのだとしても、世界と共に失ってしまうと言われればそれを座して待つことなど到底できそうにないのだった。


必要なことを告げるだけでタケルは席を立った。去り際、タケルは一言

「エリスが憎いか?」

と訊ねた。

「今すぐ殺してやりたいほどにはな」

ディアボロスは答えた。

「やるつもりか?」

タケルはまるでどこか遊びにでも行くかと訊くくらいの気安さだった。

「そのつもりはない。アルセエリス以上に……俺は俺が憎い」

ディアボロスが答えると、タケルはそれ以上何も言うことはなく女たちを引き連れて立ち去った。


ノイラル公は怒涛の展開に放心状態だった。

「本当にすまなかった。本当に何も知らなかったのだが」

「別に疑ってはいない」

ディアボロスもため息をついた。いなくなってわかる、凄まじいプレッシャーだった。牙を剥けばどうなるかということがあまりにも分かりすぎてしまう。ディアボロスと対峙したディエンタール王の心境がわかるようであった。

「今まで経験したことがないほど生きた心地のしない時間だったが、収穫は大きかった」

げっそりと疲れ果てたノイラル公だが、その顔には充足感も見えた。

「公爵、貴様はなぜこの件に首を突っ込む?目的はなんだ?」

「目的、か……」

ノイラル公は手を組んで少し考え込んだ。

「一番は、この世界の真理を知りたい、という好奇心だよ」

フッ、と笑って口にした。

「それでも建前を取り繕うなら、この世界に蔓延る不穏な空気の正体を知ることだ。ディエンタール王の台頭はこの世界の歴史の中でもあまりにも唐突で奇異な出来事だ。そしてそのディエンタール王が到底人とは思えぬ者を呼び出し猛威を振るった。この世界の根幹を揺るがすような何かがある。そう思っていたのだが……」

ノイラル公は言葉をつまらせた。嫌な予感が現実になってしまった、というより他になかった。

「確かに、もう夢だ妄想だと笑うことはできなくなってしまいましたね」

ネルラが言葉を継いだ。そして、そこでは終わらなかった。

「でも大丈夫です。我が君はどんな神にも悪魔にも、運命さえも敵ではありませんから」

不安など、まるで見えない妖艶な笑顔だった。


扉をくぐり、長い山道を下り、見送る騎士の姿が見えなくなると、ネルラはその場で膝をついて頭を垂れた。

「申し訳ございません!」

ディアボロスはその姿を睥睨し、沈黙に沈んだ。ネルラは肩を震わせ、ただただ頭を垂れた。どれほどの刻が経っただろう。ディアボロスはネルラの体を抱え上げ、まるで赤子のように抱きしめた。

「嘘はついてくれるな。隠し事はしてくれるな。今この場で誓え」

体を震わせていたネルラは、ぎゅっとディアボロスに抱きつき、そしてしがみつくように力を込めた。

「はい……はい、閣下…! どのようなことも、私の知る限り、私の生きてきた限りの全てを、お伝えします。私の全ては閣下のもの。そこに一切の嘘偽りはございません…!」

ネルラの悲壮さに反して、ディアボロスは悲嘆に暮れてはいなかった。何を感じていたのか、そしてどうすべきなのか、ということを、何も言うまでもなく共有できている相手との未来を嘆く必要などどこにもないと思えたのだ。劇的に何かが動き出すかのように感じられたノイラル公への謁見であったが、実際にはそのようなことはまるでなかった。あれ以来、タケルからは何ら接触はなく、ディアボロスはただ領地を守り、反映させることに勤しむ日々が続いた。

退屈と思えるほどに繰り返される平穏であったが、実のところそれはディアボロスにとって新たな日々でもあった。旅の途中、いくらか話すことはあっても自分の女たちとすら悠長に過ごす時間はなかったのだし、民との交流というのも今までになかったことであった。

当初、民はやはりディアボロスはその容貌から、いくらか恐れられもした。臣下は早々に見せたディアボロスの差配に感服し、非常に友好的な姿勢を見せていたが、穏やかで民思いのフォランタ公の後を継いだのが見るからに武闘派のディアボロスであったために困惑と恐怖が民の間にはいささか広がったのは否めなかった。

ディアボロスは急激に近代化を進めた。組織的な統治制度を構築したのは近代化の足がかりにするためであった。テクノロジーの進歩には段階が必要であり、ディアボロスには現状からテクノロジーを飛躍させるための知識はなかった。だが、幸いなことにシトラス領には国益を守護するためにあらゆる人材が保護されている。つまり、国の中でも粋といえる頭脳が集結しているのだ。ディアボロスは、彼らとも積極的に話をした。彼らに自分が知っている世界の知識を伝え、彼らの意見を取り入れた。従来以上に厚遇し、研究の自由を与えた。

開発されたテクノロジーを、ディアボロスはなによりも衛生と医療に費やした。ディアボロスはそれを徹底するため、不浄は悪であるという考えを宗教的なニュアンスを混ぜて流布した。ディアボロスが神であるということは、人々にとって容易に察せられるものであることもあり、この手法は非常に上手くいった。そして公衆衛生を実現するためには何よりも清潔な水が必要であった。ディアボロスは浄水技術の確立を最優先とした。さらに幸いなことに、シトラス領は東西を険しい山に囲まれており、領内に川が流れ込んでおり、湧き水を組むこともさして難しくない。北方にあるが故に水の供給変動が比較的安定してもいた。潤沢に水を使うことが難しくないのはディアボロスにとっては非常に幸いなことであった。

この世界にも医療技術は存在していたが、やはりいささか宗教的で誤った医療も少なくないようであった。そのため、医術という概念の定着もはかった。

こうした成果は目に見えたもので、病の平癒や健康の増進という形で全体的に暮らしが上向き、ディアボロスは民からの支持を獲得していった。

そして、熱機関と電球の発明に成功したことで、ディアボロスはもはや生ける伝説と言ってよいほどの名声を得た。


「寒くてやってられん」

帰るなりディアボロスはぼやいた。このぼやきはいつものものであり、誰より早く迎えるルシカには聞き慣れたものであった。科学者達との白熱した議論。ディアボロスの目下の目標は内燃機関の実用化であった。ディアボロスは2ストロークエンジンが最も簡単に実現できる内燃機関であると踏んでいた。構造が単純で、製造も容易だ。だが、問題は燃料であった。熱さえ得られれば良い外燃機関と違い、内燃機関を実現するためには燃料が必要になる。ディアボロスはこの世界で日常的に油脂が使われていることは確認できたが、内燃機関に使えるような液体燃料は発見できていなかった。石油精製となれば必要とされる技術が随分と上がってしまうし、そもそも石油があるかどうかがわからない。燃料要件の低いディーゼルエンジンも検討したが、ディーゼルエンジンの設計に関してはディアボロスの知識の範疇を越えていたし、たとえディーゼルエンジンが製造できたところで燃料がなかった。

内燃機関の実用化という夢にディアボロスは夢中になっていた。一方で戦闘訓練にも精を出し、女たちは「一緒にいられる時間が少ない」とぼやく有様であった。

「今日はいかがでしたか」

にこやかにルシカが聞く。

「ダメだった。試しに作ってみた模型はぽんっと情けない音を立てただけだ」

落胆をにじませるその声に反してディアボロスの顔は緩かった。それを見てルシカは笑った。

「ご主人さまは本当にお可愛い方です」

そう言ってルシカはディアボロスの腕に抱きついた。

「あっ!ルシカずるい!」

そんな声をあげて駆け寄るのはティシャであった。そのまま勢いをつけて抱きつく。甘えたがりでべったりのティシャは、相変わらず恋人というような甘さよりも姪かなにかのように感じることが多かった。

「お帰りになられたのですね」

声をかけたネルラは迎えたというよりはたまたま通りかかったという感じであった。

「ネルラはまだ仕事か?」

「はい。交易品のチェックをしなければなりませんので」

「すまない、俺も行こう」

「いえ、これさえ終われば今日の仕事はありませんし、先にお二人と戯れられていても」

ルシカとティシャは察し良くディアボロスの腕を離した。ディアボロスはそんな二人の頭を撫で、ネルラに近づいて耳元に口を寄せた。

「俺が行って早く終わればそれだけネルラといられる時間が増える。その方がいい」

ネルラはうつむいてしまったが、緩んだ頬はティシャにバッチリ見られていた。


季節をふたつほど越えてそれぞれの関係にも少し変化がもたらされていた。思えば、ここにきたときにはまだ何日という程度にしか一緒にいなかったのだから当然であった。それでもなお、ディアボロスは十日にも満たなかったマリーとの日々が重くのしかかっていたが、それぞれがいて当たり前になるほどの時間ではあった。

気弱でいつも発言を躊躇っていたルシカは随分積極的になったし、明るくもなった。そして、ディアボロスに対しては気安く話せるようになったし、女三人とも仲良くなった。

大きく変貌したのがティシャで、教えたことは二度と言わなくとも覚えているという特技を持ち、理解も早い。その圧倒的な理解力、記憶力と洞察力から、女たちの中で唯一人、ディアボロスと学者たちとの会話に加わることができる才媛振りを発揮した。そして、まだ子供のようだが、営みの中ではアオカナ以上の色っぽさを見せることもあり、底知れぬ逸材であることを思わせた。

アオカナはいくらか直情的なところを見せるようになり、いかにも裏のありそうな含みをもたせた振る舞いばかりではなく、怒ったり拗ねたりといった感情も見せるようになった。クールで、情緒に欠ける面もあったアオカナも、ディアボロス以外のことや機微に揺れるようになり、表情豊かになった。

ネルラはあまり変わらないかもしれない。だが、より気安くなったネルラは茶目っ気を見せるようになり、笑顔もかつてよりだいぶ柔らかくなった。

「アオカナはどうした?」

「セルオラと一緒に帝国の商人の相手をしてるよ。任せといて大丈夫だと思うの」

セルオラ、というのはフォランタ公から送られてきた増援人員の女騎士である。非常に鋭利な雰囲気を持ち、実際腕も立つので護衛としては相当に役立っている。

「後でアオカナも労ってやらなくてはな。さぁ、日が暮れる前に点検を済ませよう」シトラス領は寒冷地ではあるものの平地への降雪は少なく、農業も割と盛んな土地柄である鉱物資源に関しては未知数ではあるが、国としては資源が豊富で、交易を重視している関係上、シトラス領としてもどのように交易を行うかは重要なことであった。

もちろん、交易のほとんどは商人によって行われる民間のものであり、物品税があるわけでもないのでそれらの検品は基本的に行わない。だが、国として購入するものや、他国との間でやりとりするものに関しては別であり、今回は帝国の商人から買い付けたものの確認であった。

「おまたせしました」

ネルラが商人に声をかけると、商人は慌てて膝をついた。ディアボロスは苦笑して軽く手を振った。

「面を上げてください。本日お持ちいただいたものを確認させていただきます」

ネルラは非常に手慣れた様子で物品を確認していく。ディアボロスはネルラが読み上げたアイテムをリストで確認していた。ディアボロスとしては手伝いになれば、と思ったのだが、実際には邪魔にならないようにするので精一杯であった。

「ちょっといいか」

「は、はいっ、なんでございましょう」

ディアボロスが声をかけると商人は腰を低くして答えた。

「様々な種類の木を持ってくることはできるか」

「木……でございますか? それは苗木でございましょうか」

「いや、違う。枝で良い。個々の量は枝数本で構わぬが、種類が欲しい。特にこの周辺にはないものの枝が欲しいのだ。できるか」

「は、はいっ、必ずお持ちしてみせますっ」

「期待しよう」

商人との会話を終えると、ディアボロスは無造作に台車を引いた。

「ご主人様、木ってどういうことなの?」

「電球に使うフィラメント用の木に良いものがないのだ。今のものでは持ちが悪く、松明の代わりにはならない。それよりネルラ、悪かったな。むしろ邪魔をしてしまった」

ディアボロスの言葉にネルラは首を振り、顔を近づけようとしたが、さすがに歩きながらでは難しく、すこしむくれながら離れた。

「そんなことはありません。閣下がいてくださったおかげで随分早く終わりました」

ネルラは至って上機嫌であった。

「ネルラはよく働いてくれる。むしろネルラは職務ばかりで寂しいくらいだ」

「あら、そんなに高く評価してくださるのですね。それは今夜は私を存分に愛でてくださるという意味ですか?」

「……そうしたつもりはないが」

もとを言えば恐れられて当然、愛されることなど夢にも思わなかったディアボロスだが、実際には日々をすごすうちに民には慕われ、女たちには代わる代わる求められる有様で、この変化を当のディアボロスはいまだ受け止めきれずにいた。

后としての仕事をネルラとアオカナが率先してやっていることは国の運営にとってとても大きなことであった。王としての公務があまりにも国のすべてにまつわるものであり、無論ディアボロスが統治制度と役職を整えることで改善されつつはあるのだが、結局は関わる物事があまりに多いという事実は変わらない。

だが、この世界の政に疎いディアボロスに代わり、実質的な執務は大部分をネルラが引き受けている。そして体外的な部分はアオカナが引き受け、ディアボロスは運営、決定、そして改革に集中することができていた。それにあたり、身の回りのことはすべてルシカがやり、最近はティシャも大いにディアボロスの助けになっていた。

ディアボロスにすれば自分はお飾りではないかと思うほどのネルラとアオカナの有能ぶりなのだが、実際にはディアボロスも多忙には違いなく、民がついてこれる改革を実施しつづけることに苦慮していた。

「いや、先にアオカナだ。最近アオカナには随分無理を強いているにも関わらず、まともに労ってやれていない。ネルラ、疲れていると思うが、もう少し付き合ってくれ」

「お心のままに」

ネルラは疲れなど微塵も見せない微笑みを返した。


アオカナを迎えに行こうとした一行だったが、そこまでたどり着くことなく、ぷんすかと腹を立てるセルオラとそれを宥める騎士のダンダルガル、それを後ろから苦笑いで眺めるアオカナに遭遇した。

「どうしたセルオラ。そんなに憤慨するなど珍し……くはないか。だが、何があった?」

「閣下!聞いてくださいよ!今日来てた帝国の者が、あまりにもおかしな値ばかり言うものだから、なんのつもりかと問い詰めたら、女に価値がわかるものなど、せいぜい香水か宝石くらいのものだろうなんて言って!」

「む……?」

「アオカナ様のことを『側室におかれましてはこのような品を定められますより、そんな色気のない服などお脱ぎになって閣下のもとへ行かれたほうがよろしいのではないですかな』などと言って!」

セルオラは素直に怒っているし、ダンダルガルもそれを微笑ましく宥めているという感じだが、ディアボロスはそれとは違う反応を見せた。

「その者、本当に商人か?」

ディアボロスの言葉にセルオラとダンダルガルがぴたりと固まった。アオカナは笑顔のままだった。

「もう既にあの者の動向は監視させています。もっとも、間者ということはございませんでしょう。あまりにも不自然にありますし、品は確かでごさいましたから、大方、商人を襲って奪った者が、その荷を捌こうとしたというところではないかと思うのでございます」

「なるほど。ネルラ、聞いたな?」

「はい。アオカナ、今の指揮は誰に?」

「アルダンに指示しました。見つからぬようにと注意はしておきましたが……」

「アルダンですか……まぁ、あれで頭の良い男ですから問題を起こすようなことはしないとは思いますが、一応、私が見ることに致しましょう」

ネルラは当然のように言ったが、ディアボロスは顔を曇らせた。

「すまないな、ネルラ。無理はしてくれるなよ。俺もネルラの帰還を待とう」

「いえ閣下、機にせず休まれてください。これは私の仕事ですから」

「そうはいくものか」

ディアボロスはなるべく優しく微笑み、ネルラの頭をなでた。

「ネルラだけに辛い思いをさせるわけにはいかない。俺は待っている」

「閣下……はい。すぐに済ませて戻ります」

ネルラは心地よさそうな顔を見せ、そして顔を引き締めると踵を返した。自室に戻るとディアボロスは深くため息をついた。タケルから戦いを聞かされてから、ひどく心は昂ぶり、戦いに対する恐れと緊張を抱きながら暮らしている。だが一方で、あまりにも多忙であり、女たちとの日々を楽しむ余裕もあまりなかった。

「なにもかもが違いすぎて困る」

この世界には日の出と日没があり、一日がある。そして、三六〇という日を数えて一年としている。だが、それ以上の時間単位がなく、時間、分、秒という概念がないし、月、週という概念もない。結果的に定期的な休みという概念がなく、「耐え難くなったら休む」でしかない。

さらに、季節はあるにはあるのだが、季節に周期性がなく、寒くなったり暑くなったりを繰り返しているようで、民もいつごろ暖かくなるのか、寒くなるのかはわからないままであり、一年後に同じ気候であるとは限らない。

こんな日々が着実にディアボロスをすり減らしていた。

特に気になるのはネルラとアオカナであった。女たちは皆が献身的に尽くしてくれているが、ネルラとアオカナは明らかに負担が大きすぎた。

「なんとか労いたいが……」

ディアボロスは椅子に深く体を沈めた。


「閣下を休ませる方法、ですか……」

ルシカの声かけでルシカの部屋に女たちが集まっていた。それを世話するのは、リアナというメイドであった。リアナは若いが礼儀正しくしっかりとしていて、ルシカが気に入り、ルシカの希望でこの居館でも世話をしていた。居館にはもうひとり、イモサという初老のメイドもいたが、彼女はその役を日中のみ勤めることとなっていた。

やはり付き合いの多い相手とは仲良くなるもので、この気の休まるときに共にいるリアナとイモサ、それに護衛につくことが多いセルオラは女たちと仲が良く、特にリアナに関してはディアボロスをひどく敬愛していることもあって、ルシカにはいっそリアナも抱かれてみてはどうかと言われるほどであった。

そしてリアナを含めた五人で語り合う議題は、ディアボロスが心労をためている、ということであった。

ディアボロスの身にどのようなことがあったか、ということは、アオカナ、ルシカ、ティシャについてはネルラから聞かされていた。そして、アオカナとルシカに関しては、ディアボロスが巻き添えを恐れ、うまく戦うことができなくなったその時に側にいた。戦うことを強いられ、それがまた彼女らにとって身に危険が及びうるもので、懊悩することはよく理解していた。女たちはいずれもそうした機微に敏かった。ディアボロスのことを思い、気遣うからこそ表に見せない苦しみが彼女らにもひどくのしかかるものであった。

彼女らはもちろん、当初からディアボロスの力になろうという意思はあったが、当初、ディアボロスの支えになろうという考えで、出しゃばらないほうが良いとすら思っていたのだ。しかし、こうした経緯があって、少しでもディアボロスの負担を除きたい、できることならディアボロスを余計なことで苦しませたくないという思いから、アオカナはディアボロスが抱える公務をできるだけ肩代わりすると言い出した。もちろん、ネルラは補佐として公務を担う身であったが、この宣言通りアオカナは驚くほどの勤勉さで政を支えた。一方、ルシカとティシャはディアボロスが抱えるものを少しでも癒そうと決めた。

そうしてできる限りのことをしてきたつもりだったが、当のディアボロスはアオカナやネルラが公務を肩代わりすることをむしろ心苦しく思っているようだった。それでもそれによっていくらか負担は減っているように見えたから彼女らもそれをやめることはしていないが、マリーのことで思い悩んだときと、振る舞いは違えど、一人抱え込むようなところはまるで変わっていない。アオカナは特にそれを嘆いた。

「私、気づいたんです。私とアオカナさんがご主人さまと出会ったときには、もう傍にはマリーさんがいました。そのあとマリーさんを失ってからは、ティシャと、ネルラさんも一緒にいましたけど、ご主人さまはマリーさんのことで心を痛めて、私たちとの間には壁がありました。ここで暮らして、少しはその壁も薄くなったかもしれませんけど、まだご主人さまは心は許されていないのではないかと!」

普段は言葉少ななことが多いルシカの熱弁に一同は少し驚いた。一番冷静だったのはアオカナだ。

「旦那様と体のつながりはあっても心のつながりが弱い、ということでございますね。確かに、旦那様は体はお求めになられても、心をお求めになることには少し遠慮がある、いえ、率直に申し上げれば怯えているように感じられます」

「確かに、閣下は私たちをあまり頼ってはくださりません。心を許していないから、とすれば、大変寂しいことではありますが納得はできます。ティシャはどうですか?」

「あたしには、ディアボロス様は冷たいわ。というより、距離を置いてる、という感じかしら。ルシカやアオカナみたいに気軽に抱いてくださらないし、頼ってももらえない。大事にしてくださっているのはわかるけど、時々、私はお人形さんじゃないのよ!って言いたくなる」

「そうなのですか?」

「旦那様の元の世界では、ティシャくらいの齢は女として適齢ではない、幼子のようなものであるという見方であるそうなのです。恐らくは、そうした理由によるものでございましょう」

「ふむ、確かに幼子に頼ったり、抱いたりするのはいささか躊躇われるのかもしれませんね。かといって、閣下がティシャを大事にするのは、幼子のように物に対するものとは異なるように思えるのですが」

「わかってる。お人形というのはあくまで例えよ。リトルレディとして大事にしてくれているということはわかっているわ」

「あの、お后様」

リアナがおずおずと切り出した。非常に言いづらそうにしながら、妙に覚悟のありそうな様子であった。

「これは、お后様が閣下にもっと構ってほしい、もっと愛されたい、というお話なのでしょうか……?」

長い沈黙が支配した。何かを言い出そうとする者もあったが、言い淀んで口を閉ざした。

「……そうね」

口を最初に開いたのはティシャだった。

「それもあるわ」

それを聞いたリアナの表情は、気性の荒い后であったならばその場で首を刎ねそうなものであった。

「いえ、それでも間違ってはいないのでございましょう。旦那様とわたくしたちがもっと心から愛し合い、信頼するようになれば、ものごとは良くなる、とわかっているのですから」

リアナもそれに否はなかった。実のところ、リアナこそが誰よりもディアボロスが人に心を許さず一人懊悩していることを知っているのだ。ディアボロスはひとり鍛錬をしている。戦闘に向けたものである。そのことは皆が知っているが、巻き込むことを恐れたディアボロスによって、決して近づくことのないよう厳命されている。だから、その姿を見た者はいない。ただひとり、リアナを除いては。

リアナは、帝国からの使者がきたとき、ネルラはおらず、待たせるのもまずいということでリアナが呼びに行くことになった。戦闘訓練中は激しい衝撃波が飛び交い、大地が揺れ、そうそう近づけるような感じではなかった。一息ついたところを見計らって近づいた。そして見たのは、ひどく追い詰められた様子で懊悩に悶えるディアボロスの姿であった。

隠れるつもりはなかった。だが、吠えながら再び拳を振るったことによって衝撃波から逃れるため、リアナは木の陰へと避難した。

――こんなものでは守れない――

そう吠えるディアボロスの拳から雷が立ち上った。何度も、何度も拳を振るう。やがてがっくりと項垂れたディアボロスに、リアナは恐れず声を上げた。

「閣下!」

リアナの声は美しく、よく通ることで知られている。その声はディアボロスに届いたが――

「ここには近づくなと言っただろう!」

ディアボロスの怒声が地を揺らした。さらに揺らし震わせながら近づくと屈みこみ、リアナの両肩をがっしとつかんだ。

「お前になにかあったらどうする。お前は俺の大事な家臣だぞ。メイドだから身を粗末にして良いなどということ、あろうものか…!」

そう怒鳴るとディアボロスはリアナを抱きしめ、静かに涙を流した。リアナは普段からは想像もつかないディアボロスの姿に困惑しながらも、これほどまでに臣下を思い遣る君主の心にまた涙した。

リアナはこの後、口外するなと申し付けられ、ディアボロスの苦悩はリアナのみが知ることとなった。


「閣下はひとりで抱え込まれる方ですから」

リアナは色々なものを飲み込んで、そう答えた。その言葉を聞いてルシカは少し驚いたように見たが、察したように微笑んだ。

「けれどそうですね、お后様方と閣下は情熱的に愛し合っておられるのに、閣下は悩み深くお后様方を遠ざけておられます。どういった事情があるのか、私は存じませんけれど、どんなものを抱えておいででも、それを一人で抱え込まれることは幸せなことにはならないようには思います」

「ね、リアナもそう思うでしょう?だからどうにかして、ご主人さまに楽にしてもらいたいんです。そして、私たちともっと色んなことを共有してもらいたいんです!」

ルシカの熱演に、女達は深く頷いた。

「であれば、作戦を練りましょう。閣下はあれやこれやと考えられるからです。生半可な理由では首を縦に振らないでしょう」

「でも旦那様がそれっぽい理由などで良しとするでしょうか。むしろ、小細工を嫌うお方だと思うのですけれど」

アオカナが言うと女達はまた考え込んだ。

「あの……」

おずおずと、リアナが手を挙げた。

「閣下、普通に頼めば聞いてくださると思うのですけれど……?」「閣下、少しよろしいでしょうか」

メイドから直接に君主に声をかける、などあまりないことかもしれないが、イモサなどにすればディアボロスは息子のようなものであるし、リアナもまた、日頃ディアボロスや女達の世話をしているために、家族のような気安さもあった。

「おぉ、リアナ、ちょうどいいところに。実は相談があるのだ」

ディアボロスはリアナを見ると笑みを浮かべ手招いた。ディアボロスは見た目こそ恐ろしいが、こうしたところは少年のようでかわいい、とリアナは思ったりもする。

「女達のことでな、ちょっと……あいや、すまん。先にそっちの要件を聞こう」

リアナは頭を下げ、さらに少しディアボロスに近づいて小さめの声で伝えた。

「そのお后様方のことなのですが、少しお休みが欲しいと」

「ん、おぉ!俺が言いたかったのもまさにそのことだ。女達には、特にネルラとアオカナには休みが必要だと思っていたのだ。休みが欲しいとな、無論喜んで。なんなりと好きに過ごすといいと――」

「いえ、お后様方は閣下とともに休んで、一緒に過ごしたい、とおっしゃっています」

「……ん?」

「既にネルラ様とアオカナ様がそのために要職の者と調整を――」

「ん?んん?」

「また、ルシカ様とティシャ様はどのように過ごすかの計画をねっておられます」

「ん?んぅ……」

「閣下、お后様方が休まれるためには、閣下が休まれなくてはなりません」

「……そうか?」

「数日の間は休んでいても大丈夫なようにするとネルラ様はおっしゃっていました」

「本当になんと優秀な……」

「閣下、どうぞご決断を!」

「いや、そんな未来を決する場面のように言うことでもないと思うが」

だが実のところ、ディアボロスとしては易々と受け入れられる話でもなかった。内政の問題もさることながら、日々訓練を重ねてはいるが、強くなったという実感はない。今なら容易にアルセエリスを下せる、と思えるわけもなく、ましてタケルが敵となれば抵抗できるようにすら思えない。確かな力を手に入れ、女達を守る、それこそがディアボロスにとって最優先の課題であり、一刻も早く成し遂げねばならないのだ。

「気持ちはありがたいが、俺のことは気にせず休めと伝えろ」

ディアボロスはそう言い放ったが、リアナの取り繕う気のかけらもない、呆れた表情を見て思い直した。

「いや、言わなくていい。その顔を見ればわかる。いや、何が問題なのかはわからんが、俺が非常に愚かなことを言ったということはわかる」

リアナは長々とため息をついた。

「待て、失望するには早い。俺は貴様の忠告に従い、素直に休暇をとって女達と過ごすべきだ。その通りだな?」

「…………ええ、そうですね」

完全に棒読みだった。

「待て、待つんだ。そう、昨日もイモサに女心が分からないと愛想を尽かされると言われたのだ。きっとそういうことだ。そうだろう?」

「わたくしは、閣下がそこまでご理解なされているのに、お后様のお心が理解できないことが理解できません」

「難解なことを言わないでくれ、リアナ。俺は昔から仕事一筋、女遊びはできても女房に気の利いたことひとつ言えないような男なのだ。人には得手不得手というものがあるだろう」

「ん……?」

リアナが眉をしかめた。その意味はディアボロスはすぐには理解できず、けれどリアナは何事もなかったように居住まいを正した。

だが、その時、気づいた。

「俺は、何を言った?」

リアナは、言うべきか言わざるべきかとたっぷりと迷った上で、

「閣下の、昔のことを少々」

とだけ答えた。そして長い沈黙が支配したが、ディアボロスは一言

「日程は任せる。今夜に伝えよと、言っておいてくれ」

と言ってその場を去った。


立ち去ったはいいが、ディアボロスの頭には疑問があった。

(一体、なにをするのだろう?)

思い返してみる。ディエンタール王国においては街を案内され、街を歩き、娼館に通った。シトラス領についてからは城で執務を行い、ノイラル城を訪問し、帰ってからは執務と鍛錬に明け暮れている。

(なにもしていないのではないか?)

それは青春時代を無為に過ごした学生の嘆きのようでもあるが、実際に何もないのである。街では子供が追いかけっこをしている様子は見たことがあるが、特に遊戯に興じる姿を見た記憶はない。シトラス領は北方にあることもあり寒冷で、これから寒期に向かうととても外で何かをしようという気にはならないように思えた。寒冷地であるからこそなおさら閑散としており、文字通りに何もない。

現地民である女たちであれば余暇を与えればそれなりに過ごすことがあるだろうと思えたが、ディアボロスと共にと言われるとどうすればいいのかまるで分からなかった。デートができるような場所があるとも思えない。

(まぁ、任せればよいか)

女たちが希望したからには内容にもなにかしら希望があるのだろう、そう楽観することにした。


それからディアボロスは執務に鍛錬にいっそう励んだ。希望された休暇は二日後とすぐであったから、仕事を片付ける必要があったのだ。しかし、実際には気負うほどのものはなかった。ネルラとアオカナの仕事ぶりが素晴らしく、ディアボロスのしなければならないことはさほど多くはなかったからだ。

実のところ、単に役目というだけのことであればディアボロスのすることなどそう多くはない。税に関すること、治安に関すること、商業に関することが主であるが、シトラス領は領民の数自体が少なく治安も良い。辺境にあるために外交要素も少なく、できることに限りがあるために領民の要望も少なく、ディアボロスの基本的な仕事は国境警備と警戒であり、何もない限り暇なのであった。

実際に暇でないのはディアボロスが文明に対する挑戦を続けているからで、必然的に人々の仕事は増え、問題は発生しやすくなり、仕事は増えていく。それでもディアボロスは可能な限りこの国の文明レベルを上げたかった。それはシンプルに、非文明的な生活が苦痛だからだ。

だが、ディアボロスはその進展に壁を感じつつあった。外燃機関の発明は結局のところその原理は水を沸かすことであり、熱さえあればいい。火は既にあったし、水を沸かしてもいたので、その蒸気をエネルギーとして使う、という発想さえあれば実現できた。電球も、その構造自体は知っていれば単純なものであり、電球のエネルギー源となる程度の電気であれば生物電気でまかなうことができた。

こうした事情からディアボロスを苛むのは多忙よりも焦燥であった。果たしてそれは戦に出向くことをタイムリミットと感じているかどうかは明らかでなかった。


その日がきた。

昨夜はアオカナと床を共にした。ディアボロスはアオカナとはあまり寝ていない、と思っているのだが、実際はそのようなこともなく、ルシカが特に多く、ティシャが特に少ないというだけのことであった。

「おはようございます、旦那様。外は良い天気にございますよ」

窓から光を浴びるアオカナの裸身はひどく清純でいたいけに見えて、まるで絵画の中の侵しがたい神聖さがあった。

「綺麗だな」

ディアボロスが口にしたことを自覚したのは、アオカナが不思議そうな顔でディアボロスを見つめていることに気づいてからだった。

「なんでもない」

ディアボロスはそういってごまかした。思えば、ネルラとアオカナはあまりにも優秀であり、為政になくてはならない存在となっているがために抱く以外に女を感じる機会を失っていた。

アオカナにねだられて熱っぽく口づけを交わし一日が始まった。


朝食の席に向かうとめかし込んだ女達が待っていた。この世界のお洒落というのは随分と重量感のある装いであるが、故に華やかでもあった。

「いつもの服より脱がしにくいと思いますけど、今日は目でも楽しんでください」

何故か不思議と誰もがいつもと違うように見えた。女達はこのような姿をしていただろうか?

「お前達、なにか普段と違うか?」

ルシカは首をかしげた。

「服装以外に、ということでしょうか?」

ネルラがかわりに尋ねた。

「あぁ、そうだ」

「……特に変わりはないはずです。化粧も、いつもと変わりありませんし」

「……そうか」

ディアボロスは納得し難かったが、そのように言うのだからそうなのだろうと思うことにした。矮小な少女に思えていたルシカは朗らかでどこか艶やかで優しい淑女であるし、淫靡で暗い女に見えていたアオカナは聖女のように清らかであるし、ただ幼いだけに見えていたティシャは美しく意思を宿した乙女であるし、凛々しく成熟した女と思えていたネルラはまだどこかあどけなさを残している。まるで一夜にして世界が変わってしまったかのようだったが、それ以上疑問を投げかける余地はありはしなかった。

「それで、今日は何をするのだろうか?」

ディアボロスがかねてからの疑問を投げかけると、皆がきょとんとした。最初に理解したのはネルラであった。

「さぁ、何をいたしましょうか。朝から肉と酒に溺れるのも、誰も反対はしないと思いますが」

「やはりそうか…… ここで一体なにをしたものかと不思議に思っていたのだ。そうであれば」

「冗談ですよ?」

ネルラに真顔で止められ、ディアボロスはしゅんとした。

「別にご主人さまがそうしたいなら、私は構いません」

「わたくしも異を唱えるつもりはありません。いまからでも」

「まて。そうではない」

衣服に手をかけようとしたアオカナを、ディアボロスは慌てて止めた。

「お前達を抱くことが至上のものであることは否定しないが、せっかくの休みだ、そればかりでは勿体ないと思っていたのだ」

そう言いはするものの、ルシカの指先が頬を撫で、ただそれだけのことがひどく煽情的なものであった。

「それでしたらひとまずはいこいのに時といたしましょう」

そんなディアボロスの内心を見透かすように笑いながらネルラは言った。


朝食のあとは東部の山を少しだけ登る、という予定に決まった。東部の山は頭頂は容易ではないが、途中までは丘を登る程度のもので、その先に少し広い平地があった。北側と東側は険しい山岳となるため、防衛という観点から特別注意を払う必要がないと、ディアボロスは特に気にもしていなかった場所だ。むしろ山麓北部にある森がディアボロスの鍛錬場となっているため、ディアボロスにとっての東側はその訓練場を確保した時点で以東に関心を払うべき余地を感じていなかった。

「街に見るべきものがない、というのはその通りかもしれません。食料に関しては輸入に頼っておりますので店はあまりありませんし、衣料に関してもそこまで必要とされているわけでもなく、特産と呼べるようなものもありません。輸出品としては酒がある程度ですし、店以外に人が集まるような場もあまりありませんから」

「やはりそうなのか。民は普段どうしているのだ? 娯楽もあまりないように思うが」

「そうですね、そもそもシトラス領は特別な人材や備蓄、財産の保管と、フェルストガルムにら対する防衛いった目的がありますので、あくまで拠点に過ぎません。そうした特別な人々がその役目を果たす、というのがここにおいて重要な働きであり、そうした人々と、軍事に従事する者が生活を営めるようにある程度の人々が住んでいる…… ということですから、一般の人々の生産的な業務はあまり多くない、と言えます。そうした人々は普段暇をしているのは事実でしょう。娯楽、と呼べるようなものもあまりありませんね。だいたい酒場で酒を飲んでいます。もしくは賭け事ですね」

「賭け事?」

「はい。サンサダッラという札を使った遊びがあります。実力の差、というのもありはするのですが、それ以上に運に左右され、すぐ決着するので賭け事にちょうど良いということでよく用いられています。まぁ、それに限らずどのようなことでもすぐ賭け事のタネにされていますが」

「そうした遊びで賭け事以外に娯楽はないのか?」

「全くないわけではありませんが、サンサダッラは飲んで賭けるから楽しめるようなもので、素面では面白くもなんともありませんし、似たようなものも庶民の間では流行っているとはとても言えませんね」

「体を動かす娯楽などはないのか?」

「閣下、それは性交のことを言わせたいのですか?」

「そうではないし、そのようなつもりもない。娯楽の話だ。民が日頃余暇をどう過ごしているのかが気になったのだ」

「閣下は私が冗談を言ったようにお考えかもしれませんが、民の娯楽で酒と賭博を別にすれば残りは性交くらいしかありませんよ。スポーツという文化は、帝国などにはありますが、この国では庶民においては一般的ではありません。帝国のように広い土地を安全に保つことができる国力がありませんから」

ネルラの語る国の実情は、ディアボロスの想像の範疇を出ず、とても退屈なものであった。忙しすぎて余暇などないということであればそれはそれで問題だと思っていたが、余暇がありながらにしてやることがなく退屈極まりないのであればそれも解決すべき問題ではないだろうか。

充実した余暇の過ごし方を提案するのも悪くないが、市民から発案の募るのも悪くないかもしれない。もしくは、元いた世界の娯楽を思い出せれば人々も充実した日々を過ごすことになるだろう。中にはこの世界で実現することが難しいものも少なくないだろうが、できるものもあるはずだ。

「旦那様、またお仕事のことを考えておられませんか?」

アオカナが拗ねた口調で抗議した。

「今日はわたくしたちと楽しんでくださいませ。難しいことはまた明日」中腹の平地は思ったほどには広くなかったが、ちょっとした公園といった趣であり、領地とそこへ続く道がよく見渡せた。

こうして見るとシトラス領は三方を険しい山に囲まれているだけでなく、領地へ続く道もまた山中の谷を縫うものであり、天然の要塞という感が強かった。ノイラル公がここに財を溜め込むのも分かる気がした。国境という点を差し引いしてもここは難攻不落であり、他のどこよりも安全だと考えられたのだろう。

「やはり冷えますね」

ただでさえシトラス領は寒気の高地にある。そこから一段登れば突き刺さるような寒さであった。だが、もしかしたらそれは口実だったのかもしれない。その言葉と共にアオカナが体を寄せると、皆が追従した。

「ご主人さま。私は、ここでずっとご主人さまと過ごしたいです。ここは寒くて、なにもないけど、ご主人さまが作る国なら、きっと素敵な国になっていくでしょうから」

ルシカの言葉は夢見心地だったが、少しだけ切実さがあった。

「旦那様はカシマ王のことを気にしておられるのでしょうけれど、わたくしどもは旦那様の力を信じておりますから、心配はしておりません。どのような戦でも、きっと無事に帰られるでしょう。むしろ、わたくしは旦那様の今の心痛のほうが心配でございます」

アオカナの表情は優しく、その手で撫でられるとまるで母のようだと思った。

「旦那様がおられる限り、この国は理想郷へと向かうでしょう。わたくしはいつまでだって旦那様の描く理想を愛して参ります。旦那様を愛しておりますから。

 例えこの国が尽きても、なにを失ったとしても、わたくしは旦那様の側におります。この愛が褪せる日は永遠に来ることはありません」

アオカナはディアボロスに触れたまま前へと回り込んだ。そのまま膝立ちをしてディアボロスと顔の高さを合わせた。

「旦那様、どうかこの言をお許しください」

一転して、アオカナは真剣な、というよりも、確かな覚悟を決めた顔で続けた。

「《《マリー様が 》》、旦那様を愛していたことはないのです」

ディアボロスは驚いたが、やがて目を伏せ

「知っていた」

と絞り出した。

アオカナはディアボロスの頭を抱いた。ルシカが背中を撫でていた。ティシャが手を握っていた。

「閣下は疑り深すぎるのです。

 どのような理由があったとしても、どのような経緯があったとしても、私たちがこうして閣下を愛していることが偽りとなるわけではなく、その意味が損なわれるわけでもありません。

 もう何度も言ったはずです。閣下は私たちの光。なくてはならないものなのです。為政などという些事は私たちに押し付けたっていいくらいです。閣下が民のことを思うのなら、私たちが民のために働きます。

 閣下が私たちを差し置いて思い悩まれることほど私たちが無力さに打ちひしがれることはないのです」

三人が少し緩めるとティシャが前にたって、目の前に広がる景色を指差した。

「ディアボロス様、見てください。

 これがディアボロス様が守ってる素敵な国よ。ネルラはお酒飲んでるだけって言うかもしれないけれど、こんなに寒くてもみんな笑っていられるのよ。フォランタ様が退かれると聞いて不安だったと仰る方もいたわ。でも、ディアボロス様が来られてよかったと、そう言っているのよ。

 見て。青空よ。不安になるようなことなんて何もないわ。こんなに綺麗な青空に何の不満があると言うのかしら。雨が降ったからといって、雪が降ったからといって、それがなんだというのかしら。ディアボロス様が濡れたら萎れてしまうとでもいうのかしら。こうしてまた青空がめぐるのだもの。こうしてディアボロス様といられるのだもの。あたしは何の不満もなく幸せだわ。

 夜がくればきっと星が輝いて綺麗でしょうね。あたしはこうして空をディアボロス様と見たいわ。あたしは夜が怖くて、一人で眠るなんてとてもできなかった。きっと、今でもできないわ。でも、もう夜は怖くないの。だってみんながいるもの。ディアボロス様がいるもの。

 ディアボロス様。あたしはもっと素敵なレディになるわ。みんながこんなにも協力してくれているのだもの、そうでなければ失礼でしょう? それになにより、その姿をディアボロス様にお見せしたいわ。もっと可愛がって欲しいの。

 ね、夜が終われば、またこうして青空が見られるのよ」


そのあとに交わした言葉は、くだらないものだったと言っていいだろう。少なくとも、ディアボロスはそう思っている。けれど、そんなくだらない言葉が、今一番価値を持っているのだということを、ディアボロスは知った。そして、笑うということをこの世界にきて初めて思い出しもした。

そんなくだらないことで笑っていたら腹の虫が鳴った。五人は城に戻り、昼食を取ることにした。せっかくだからとイモサにリアナ、セルオラも呼んで卓を囲んだ。こうして休暇として言葉を交わすと彼女らのまた違う姿も見えてきた。ルシカが絶賛するリアナだが、自ら取り落した清掃用具を拾おうとしたとき、その用具が大きな虫に見えて思わず逃げ出し、部屋の入口でずっと睨みつけていた話はネルラさえも笑いをこらえて震えていた。セルオラはこう見えて夢見がちで、趣味は物語を構想することだという。その物語は大概セルオラに素敵で強くて格好の良い騎士が求婚する、というものらしいのだが、イモサが「それはダンダルガル殿ではありませんか?」と腕っぷしがよく女達によく言い寄られているあの騎士の名を挙げると、セルオラは「あんなオジサンではありません!」と憤慨した。


大いに歓談を楽しんだあと、ディアボロスは女達を抱いた。まだ日も高いなどと気にすることはなかった。

そして部屋から少し星を眺め、またその熱を交わしあった。

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