商人というもの
「じゃーん、どう?美味しいでしょう?」
次の視察日の昼下がりのことである。
穂香のお母さん仕込の調理方法で、私は筍料理を披露した。
とはいっても、料理とはとても言い難い代物なんだけどね。
なんたって、味付けは少量の塩のみなんだから。
一言で言うと、茹でただけ。
それでも、海に面していないサラドレン国で塩を食べれるということがどれだけ贅沢か考えてもらいたい。
私は塩なんて珍しくもないし、食卓にも普通にあったから、今までは贅沢だと考えてこなかった。
ただ、ふと思ったのだ。
『海のないサラドレン国では塩は貴重なのでは?』と。
案の定、マコムに聞いてみたら、予感は的中した。悪い予感ほど当たるというが、その格言は、存外迷信ではないかもしれない。
「前回のと全然味が違う。お姉ちゃん、これすっごく美味しいよ。こんなに美味しいの食べて、領主様に怒られないかなぁ」
農民の女の子が嬉しさ半分、不安半分に、父親に尋ねている。
「うん、食べていいんだ。……お腹いっぱいたべるんだぞ。頭領のお嬢さん、本当にありがとう。娘がこんなに美味しそうに頬張る姿が久しぶりに見たよ。この山に移住してきて、豊かな暮らしをさせて貰えてたと思っていたけど、こんなにも尽くして貰って良いのだろうか。頭領、そしてお嬢様、この御恩は一生忘れません。この商団にずっと付いていきます」
父親と見られる男性の農民は顔に涙を浮かべて感謝の言葉を述べる。
それが引き金となって、5家族全ての農民から、口々に感謝の言葉が浴びせらせる。
ルナは今まで、豊かな温室とも言える環境の中で大切に育てられてきた。
だからチヤホヤされたことや、褒められたことがあっても、感謝された事は今までなかった。
一番堪えたのは、一斉に感謝を言われたので、誰に言われたのか分からないが、とある一言である。
「これまでお腹いっぱいに食べるという経験がなく、言葉では知ってても、どういう風になることがお腹いっぱいなのか、理解出来なかったんです。でも、これはとても美味しくて、いくらでも食べれます。食材も沢山あるので、気兼ねなく我慢もせずに好きなだけ食べれました。お腹いっぱいの状態を教えてくれて本当にありがとうございます」