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三章#22 勉強会の話

『七夕フェス! 本校は今年も参加します!

 どこの部活も個性的すぎて出店できるかギリギリですけど笑』


 週明けの月曜日。

 俺は教室で昼食を摂っていた。というか、梅雨に入ってからは結構こんな風に教室で食うことが多くなっている。屋上が使えないとなると、雫や澪の三人と食べる場所もなかなか確保しにくいからな……。


 雫が教室に来たりすることもあるのだが、今日は入江妹と食べるらしい。

 あいつは平気でぼっち飯しそうだしな。たまには友達らしく仲良くしてやってほしい。


 そんな風に偉そうに言うお前はどうなんだ、という話だが。

 かくいう俺も、ちゃんと友達と昼食を食べることができている。


 繰り返そう。

 ちゃんと! 友達と! ご飯が食べられている!

 ……まぁそのメンツが八雲と如月、そして澪ってところにはツッコミが必要かもしれないけど。


「な~な~友斗! さっきから何やってんの?」


 はむりとサンドウィッチを食べている八雲が聞いてくる。その表情が幸せそうなのは、今日の弁当が如月の手作りだかららしい。そのせいでいつもよりもノリがうざいが、これはこれで嫌いじゃないので素直に答える。


「生徒会のSNSアカウントを動かしてるんだよ。今の時間は昼休みだし、他校の生徒とかもSNSを見がちだからな」

「ほーん。なんか凄そう!」

「凄そうというか、実際に凄いのよ。一応生徒会みんなでの共同運用って形になってるけど、ほとんど百瀬くんに任せちゃってるくらいだし」


 八雲の率直な感想に、如月が説明を加えた。

 そーなん? と八雲が見つめてくる。なんかこの言われ方だと自分の功績を自慢しているみたいですっごい恥ずいんだが。


「まぁ適当に呟けばいいだけだしな。もちろんある程度は投稿時間とか内容を考えるけど」

「おぉ……頭よさげ」

「お前の方はさっきからドンドン知能指数が下がってるけど大丈夫か?」


 大丈夫と言うようにグッと親指を立ててくる。

 如月が微笑ましそうに目を細め、澪も僅かに頬を緩めた。


「あ、そうそう。知能指数で思い出したけど、前に話してたあれって覚えてるか?」

「……勉強教えてくれってやつか?」

「そうそう!」


 それは中間テストが終わったときに話していたことだ。

 あの場でのちょっとした会話ではあったが、一応友達との約束ということで、ばっちり覚えている。

 ……べ、別に、楽しみにしてたとかじゃないんだからねっ!


 と、俺が謎のツンデレムーブメントをかましている間に八雲は神妙な面持ちになっていた。


「今回は……数学と古文と英語がヤバい」

「そりゃご愁傷様。っていうか、如月に教えてもらえばいいんじゃねぇの?」


 勉強を教えるのが嫌なわけではないが、素朴な疑問が浮かんだ。

 が、その問いには如月があっけらかんと答えた。


「それが無理なのよね。私も勉強はからっきしだから」

「「えっ」」

「澪ちゃんと二人してその反応?! 私だって傷付くのよ……?」

「いや、そう言われても……なぁ?」

「うん。今回ばっかりは百瀬に同意」


 二人で頷き合う。これに関しちゃ、俺たちの気が合うとかじゃなくて真っ当な反応だと思う。だって――


「生徒会の書記で眼鏡でそのキャラだったら、頭いいと思うだろ」

「偏見!」


 まぁそうなんだけどね?

 人を見た目で判断しちゃいけないって言葉を、この二人を見ているとしみじみと実感する。俺の周りだと、こいつらほど見た目と中身のギャップが凄い奴らはいない。せいぜい時雨さんくらいのものだ。


「そーいうわけだからさ。どうせなら俺たち二人に教えてほしいんだよ。期末テストで赤点とると補習じゃん?」


 うんうん、と如月が首を縦に振る。

 八雲の言う通り、期末テストの赤点は夏休み中の補習に直結する。七月中は週に三回くらいの頻度であるらしい。

 それだと夏休みを満喫しにくいだろうし、俺も手を貸してやりたいのだが……。


「流石に二人に教えるのはキツイな。雫とも約束してるし」


 雫はコツコツ勉強するタイプなので、今週末にでも前のように見てやればそれでいいだろう。

 だが八雲と如月にそのやり方が通用するとは思えない。手取り足取り教えなきゃいけないのはほぼ確定だ。八雲の中間テストの結果、なかなか酷かったからな。


「あ、そういうことなら澪ちゃんも教えてくれない?」

「私……?」


 話を振られた澪は、目をぱちぱちさせる。

 自分には縁のない話だと思っていたらしい。


「おー、いいじゃん! 妹ちゃんと二人で参加してくれよ。その方が妹ちゃんも来やすいだろうし」

「そうねぇ。二人が来てくれたら私もモチベーションが上がるわ」

「えっと……」


 テンションの高い二人の提案に、澪が戸惑いを見せる。

 当然だ。そもそも澪がこうして一緒に昼食を食べてくれていること自体、少し前からすれば考えられないことなのだ。


 澪がこちらを見てくる。

 例の如く、目ッセージを受信した。


『どうしてほしい?』

『断ってもいいぞ。適当にやり方は考えるしな』

『ふぅん』


 そこから先は、何を言っているのか分からなくなった。

 顎に手を添えて一考すると、澪は二人に告げた。


「そういうことなら、いいよ」


 そうするのか、と少し驚く。

 けど無理している様子は見えない。何かしら澪の中で心境の変化があったのだろうか。澪が参加してくれる分には俺も嬉しいので、そっか、とだけ言っておく。


「でも私、教えるのとか慣れてないから」

「大丈夫! 澪ちゃんがいれば私はやる気が出るもの」


 パァ、と如月が百合の花を咲かせんばかりに澪に近寄る。

 やや鬱陶しそうにしつつも微笑む澪の姿は、なんだかとても和んだ。


「けどあれだな。二年生ばっかりになっちゃうし、逆に妹ちゃんの方は気まずいかも」

「あぁ……どうだろうな。雫のことだし、普通に馴染む気もするけど」


 とはいえ八雲の懸念を完全に否定できるかというと、そうではない。

 俺は八雲たちに付きっきりになる可能性もあるし、もう一人くらい誘った方がいいかもしれないな。


「なぁ八雲。もしあれだったら、もう一人誘ってもいいか? 雫の友達なんだが」

「んー。男?」

「女。何故それを確認した?」

「女の子ならウェルカムだから。白雪が喜ぶし」


 あっ……そうか。如月がいるんだよな。そうなると、あいつを呼ぶのは無理か?

 でも今回もあいつには色々仕事をやってもらってるし、上司としてちょっとは見てやりたいし……多分、あいつを呼んだら雫も喜ぶし。


「その台詞で色々と葛藤が生まれたけど、とりあえず誘ってみるわ」

「りょーかい。あ、言っとくけど男の追加は断固として拒否だからな。白雪に手を出しかねないし」

「…………そういうところでポイントを取り返すのはやめろ」



 ◇



「――というわけなんだけど、妹子もこないか?」


 放課後は、今日も今日とて七夕フェスのための審査作業である。

 テスト一週間前になると部活も休みになってしまうため、どんどん作業を進めていかなくてはいけない。まぁ間に合わない部活に関してはテスト前なんて関係なしで突っ込む所存だが。


 園芸部の部室へと向かう道すがら入江妹に勉強会の話をすると、澪がそうだったように、目をぱちぱちとさせた。


「私が、ですか?」

「妹子はこの場にお前しかいないだろ」

「そもそも私は妹子じゃないですけど」

「話が逸れるツッコミは程々にしようぜ」

「そうなるようなあだ名をつけた人がなんか言ってますね」

「……話を戻そう」


 今更名前で呼ぶのも気恥ずかしいし、しょうがないじゃん?

 入江妹の呼び名の話は一か月以上前に済ませているので、もうやめておく。妹子は妹子なのだ。


「別に付きっきりで教えてやる必要はない。雫が分からないって言ったときだけ考え方を教えてくれればいいし、キツければ俺に回してくれてもいい」

「なるほど……」


 入江妹は中間テストで1位だったし、雫が分からないと思う問題にも答えられるだろう。

 懸念があるとすれば如月のアレな面を見せてしまう恐れがあることくらいだが、どのみちいつまでも隠しきれることじゃない。


 そうこうしている間に園芸部の部室に到着する。

 と言っても、この部屋は手芸部と共同使用しているらしい。部員が少ない部活同士、普段から一緒に活動しているのだとか。


「分かりました。友達との勉強会は少し憧れますし……考えておきます」


 即答はできないか。

 まぁ初対面の先輩だっているし、躊躇するよな。


「了解。じゃあ、今日の仕事に移りますか」

「ですね……残りの部活もだいぶ減ってきましたし」


 だな、と返事をすると、入江妹は園芸部部室の扉をノックした。

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