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二章#23 3分の2の縁結び伝説

「先輩! 『3分の2の縁結び伝説』って知ってますか?」


 体育祭の行事を決めた日の昼。

 俺は屋上にて、雫と二人で昼食を摂っていた。みおは何でも時雨さんに呼び出されたらしく、今日はここにいない。

 そんなわけでみおが作った弁当を食べていたところ、うちのクラスと同じ時間に出場種目を決めていたらしい雫が妙なことを言い出したのであった。


「『3分の2の縁結び伝説』? なんだそれ」

「あー、やっぱり聞いたことないんですね」

「やっぱりとか言わないでくれる? 俺だって傷付くんだよ?」


 いや確かに知らないんだけどさ。この情報社会において、無知なる者は弱者の立場に甘んじる他ないことは分かっているが、やっぱりとか言われると傷付いてしまう。

 雫はぱちっとウインクをし、元気よくサムズアップしてきた。


「大丈夫ですよ、先輩。筋肉って傷付けば傷付くほど強くなるらしいです」

「俺は人だから。人のメンタルは早々強くならないから」

「ちぇー」

「何が『ちぇー』なのか分からないってツッコミをし始めると収拾がつかないからもうやめておく」


 それで? と話を戻す。


「『3分の2の縁結び伝説』ってのはなんだ? 新作ゲーム?」

「……先輩、私のこと何だと思ってるんですか?」

「オタクが惚れる可愛い小悪魔後輩」

「可愛い……えへへ、ありがとうございます」

「お、おう」


 いつものノリで軽口を言っただけなのだが、雫はしょぼしょぼと照れたように呟いた。

 綿あめみたいにふんわりと可愛い笑顔を見ていると、こっちまで恥ずかしくなる。掻痒が頬のあたりにせり上がってきて、俺は誤魔化すようにポリポリと指で擦った。


 こほん、と甘い空気を断ち切るように雫が咳払いをする。

 ぎゅむーっと頬を抓ると、雫は本題に戻った。


「『3分の2の縁結び伝説』というのはですね、この学校に伝わる伝説です」

「ほーん……そりゃまた、随分と二次元チックだな」

「ですよねー」


 縁結びに関わる伝説というのは二次元ではもはやテンプレートだ。

 特定のタイミングに特定の場所で特定の行為をした男女は、永久の愛で結ばれる。もっとも、作品によってタイミングも場所も必要な行為も異なるが。

 あくまで俺の印書だが、そういう伝説はギャルゲーに多いように思う。だからこそ雫も興味を持ったのだろう。


「ふっふっふー。興味があるようですね、先輩」

「まぁな」


 雫からそういった話を聞くのは褒められたことではないのかもしれない。

 だが、雫は話したがっているように見える。

 興味がないふりをしてこの話を切り上げるのは、雫の先輩として間違っているように思えた。


「こほん、それではお話しましょう。この話はうちのクラスの担任の先生から聞いたんですが」


 そういや雫のクラスの担任ってこういう話を率先して広めたがりそうだよな、と心の中で思いつつ。

 俺は雫の話に耳を傾けた。


「うちの学校には三大祭があるじゃないですか。体育祭と文化祭と冬星祭」

「あぁ」

「その三つのお祭りのあと、後夜祭があることは知ってますよね?」

「もちろん」


 後夜祭は完全に生徒会のみで運営する。

 学級委員を含め、三大祭のために汗と涙を流した全校生徒を労うことを目的としているのだ。


「その後夜祭で5秒以上見つめ合った相手と、永遠の愛で結ばれる。それが縁結び伝説です」

「3分の2ってのは?」

「三回ある後夜祭のうち、二回以上で同じ条件を果たさなきゃいけないらしくて。それで三分の二なんです」

「へぇ」


 なんか雑っていうか中途半端な伝説だな、それ。

 イマイチ伝説っぽさがない。

 ただまぁ、その分現実的ではある。春の体育祭、秋の文化祭、冬の冬星祭。時期が異なる後夜祭のうち二回で儀式を行えたなら、二人の愛は安泰だろう。付き合って三か月目が別れやすい、という話をよく聞くし。


 話し終えた雫はミニハンバーグを食べてから、ふぅと吐息を零した。

 乙女チックなうっとりとした瞳で言う。


「ロマンチックですよねぇ」

「ロマンチックか? むしろ三分の二のあたりが地味にシュールで台無しだと思うんだが」

「ちっちっち。そういうツッコミどころがある方がいいんですよ。先輩は分かってないですねぇ~」


 やれやれ、と雫が肩を竦める。

 俺が、分からん、と目を向けると、雫は熱のこもった声で呟いた。


「そういうツッコミどころがあった方が、二人の思い出になるんですよ。あんな変なところがあったねーって。おかしいよねーって。ハッピーエンドの後に笑いあえるんです。そういうの、ロマンチックじゃないですか?」

「……そう、かもな」


 否定する気は起きなかった。

 そうだな、と本気で思えたから。希うように語る雫の横顔が綺麗だったから。


 こつん、と肩が触れる。

 互いのブレザーが擦れる音は、体育祭が始まる頃にはもう聞こえないだろう。その頃にはブレザーを脱いでいるはずだ。


「ねぇ先輩。私ね、借り物競争に出ることになったんですよ」


 どうして今その話を?

 そんな疑問が湧いたけれど、なんてことはない。雫にとっては『3分の2の縁結び伝説』も出場種目も、先輩と後輩としての楽しい雑談の話題でしかないのだ。

 それ以上の意味は持たせまいとしてくれているのだ。俺が焦って答えを出さずに済むように。


「借り物競争っていうとあれか。運動が得意じゃないリア充が参加する種目か」

「言い方が酷い気はしますけど……まぁそうです」


 タコさんウインナーの足をぱくりと食べた。

 頭だけになったタコさんと睨めっこをしながら口をもごもご動かす。


「先輩は?」

「俺はリレーと二人三脚だな」

「リレーって。なんか先輩らしくな~い!」

「うるせぇ。分かってるっての」


 花形だもんなぁ、リレー。

 運動神経にはそれなりに自信があるけど、俺なんかが出場していい種目とも思えない。


 ……なんて。

 そう思わなくて済むほどには、今の俺は充実している。

 理由は色々あるけれど。

 その理由のほとんどに関わっているのは、多分雫だ。


 雫が一緒にお昼を食べたいだなんて強請らなければ俺とみおが学級委員になることはなかった。

 八雲は絡んでくれるだろうけど、学級委員って立場がなきゃクラスメイトとは上手く関われなかったはずだ。


「えへへ。体育祭、楽しみですね」

「そんなにか? 雫って運動得意じゃなかっただろ」


 そうですね、と雫が呟いた。


「苦手ってほどじゃないですけど得意でもないです。けど……先輩との初めての体育祭ですから。小学校のときみたいに子供じゃない、かっこよくて頼もしい先輩の雄姿が見れる体育祭です」

「っ……」


 どくん、と心臓が高く跳ねた。

 あー、ったく。

 甘えるようにそんなこと言われたら、否が応でもドキドキしちゃうだろ。好きとか嫌いとかではなく、心が悦んでしまう。


 雫の髪をぐしゃぐしゃにしてやりたい衝動に駆られるけれど、まだ午後の授業があるはずだから。


 腹いせに俺は、ぽんっ、と雫のこめかみを指ではじいた。


「痛っ。またドメバイですか先輩。そーゆうの時代遅れですよ?」

「デコピン程度でDV扱いされてたまるか。単なるじゃれ合いだよ、この程度」

「むぅ。なら私もデコピンしていいですよね?」

「爪を切ったらな。その長い爪でやられたら絶対痛ッ⁉ ……ばか、喋ってる途中にやる奴があるか」

「ふっふっふ~。いたずら、大成功です!」


 ぶいっ、と無邪気にピースする雫。

 気の早い夏みたいに眩しくて。

 しょっぱいはずの玉子焼きが、ちょっぴり甘く感じた。

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