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二章#21 体育祭に向けて

「あれ? どうして大河ちゃんがここに?」


 放課後。

 雫とみおの二人と共に第二会議室へ行くと、既に入江妹が到着していた。雫と合流してからすぐに来たつもりなんだが、それより早いなんて……流石はクソ真面目だ。


「えっと……少し事情があって。そのあたりはそこの人に聞いて」

「そこの……先輩? 先輩、大河ちゃんに何かしたんですか?!」

「妹子! 昼間の腹いせだろ、それ!」


 意味ありげに顔を曇らせる入江妹を、雫がばさっと庇うように抱き締める。

 昼休みにからかったことを根に持っているらしい。

 うっかり『妹子』と口にしてしまったこともあり、雫とみおが疑るような目を向けてきている。


「妹子……昼間……もしかして先輩、私のことそっちのけで大河ちゃんと一緒にいたんですか?」

「うっ、いや、それはだな」


 しゅん、と雫が凹んだ様子を見せる。

 ツインテールまで元気がなさそうに見えてしまい、大丈夫だよ、と頭を撫でてやりたくなった。

 いや、そーでなくて。


「分かったよ、とりあえず説明する。他の奴らもまだ来ないしな」


 このことを隠す必要もつもりもない。

 やれやれと入江妹が肩を竦めるのを横目に、俺は昼間のアレコレを説明し始めた――。



 ◆



 学級委員長と生徒会の助っ人を兼ねることになれば、必然的に俺の負担は増える。

 それでも処理しきれないわけではないので一人でやろうと考えていたが、そうやって助っ人に頼り続けるシステムにはどうしても穴がある。時雨さんが退任した後、生徒会を担っていける人材を必要としていた。


 おいおいそのことを考えていかないとな、と思っていたところに現れたのが入江妹だ。

 入江妹は生徒会に興味があるらしい。しかも顔もいい。選挙で勝てる可能性もあるだろう。

 そんな入江妹を今から育てておけるメリットはでかい。


 そういうわけで、入江妹には俺の補佐になってもらうことにしたのだ。

 時雨さんには前々から入江妹のことは話してあったので、すぐに納得してもらえた。助っ人の補佐ということなら何の手続きもいらないしな。


 問題は、本人が戸惑っていたこと。

 まぁ至極当然ではある。急に俺の補佐とか言われても困るよな。

 そのため本人にはもう一つ、補佐になってもらいたい理由を告げている。

 その理由は――今は考えることじゃないからいい。


「モモ先輩。とりあえず私はいればいいんですよね?」

「……あぁ。妹子に監視されてるってだけで気が引き締まる。まぁ適宜指示は出すけど」

「セクハラですね」

「違ぇよ! っつうか二人もそこで見てるんだからそういうこと言うんじゃねぇ」


 入江妹とのアレコレを説明し終えて、現在。

 入江妹との関係が良好になったと思ってくれた雫は満足げに、入江妹とさほど関係がないみおは特に感情を見せずに、それぞれ指定の席についている。雫の手元には議事録用のパソコンも用意済みだ。


 定時になり、生徒会メンバーも第二会議室に入ってきた。

 但し全員がいるわけではない。時雨さん含む何人かは、今後しばらく不参加だ。学級委員会とは別個で生徒会だけの仕事を進めてもらう手筈になっている。


 学級委員が全員揃っているのを確認し、こほん、と咳払いをした。

 んじゃまぁ、始めますか。

 こつんこつんと二度ほどホワイトボードを叩き、視線を集めてから口を開く。


「えー、それじゃあそろそろ学級委員会を始めます。今日のトピックは……まぁ分かってると思うけど体育祭のこと。事前に生徒会と確認をしてあるのでサクサク進めるな」


 入江妹に指示を出し、資料を配布してもらう。

 全体に行き届いたのを確認してから話を続けた。


「知っていると思うけど、体育祭をやるのは5月30日。中間試験が中旬だから、そこから約二週間後に実施って形になる」


 中間試験を思い出して嘆く声が聞こえた。その気持ちはすっごい分かる。うちの学校、行事が盛んなくせに試験の時期を一切配慮してくれないんだよな。それくらい両立しろよってことなんだろうけど。


「本当ならテストまではなるべく活動を抑えたいところなんだけど、そうもいかない。学級委員がやらなきゃいけないことをその資料にまとめてあるからちょっと見てほしい」


 隣にいた入江妹も資料に目を落としている。


「……スケジュールとかまでまとめてあるんですね」

「大雑把だけどな」

「確かに大雑把ですね。細かいところはまた別の資料で、ということですか」

「そゆこと。これはあくまで全体のイメージを共有してる。高校生なんだ、それくらいのことは把握しておいた方がいい。自分の持ち場のことだけ知ってればいい、なんてやり方してたら後で大変なことになるしな」


 入江妹への教育も兼ねて、こそこそと周囲には聞こえないように話す。

 半分くらいは時雨さんの受け売りだけどな。もう半分は中学校の頃の経験からきている。

 全体が読み終えたところで、全体のスケジュールを簡単に説明した。


 とはいっても、ここは概要だけでいい。


「そんなわけで、まず今日は役割分担をしたいと思ってる。活動内容と必要な人数がそこに書いてある通りなんだけど、質問とかがあれば言ってほしい」


 役割は全部で6つだ。

 救護、広報、用具、放送、招集、審判。

 この上に俺や生徒会の所属する本部があり、全体を統括することになる。


「よし、ないな。じゃあ希望を聞こうか。まずは救護」


 ぽつぽつと手が挙がる。他の係に比べると楽な印象を受けるからか、消極的なメンバーが揃っていた。

 その筆頭がみお。副委員長にはなったが、楽に済ませたいという思いは消えていないらしい。そりゃそうだね。


「了解。じゃあ今のメンバーで頼む。救護班の班長は副委員長の綾辻でいいかな」

「はぁ……分かった。救護班になった人たち、よろしくお願いします」


 抵抗は無駄だと思ったのか、それとも単に俺に手を貸そうとしてくれているのか。

 みおは素直に受け入れ、全体にぺこりと挨拶をした。

 救護班になった男子たちの表情がにわかに緩んだ……むぅ。こうなるとは思っていたが、なんか微妙にむっとするな。


「モモ先輩。次、いかないんですか?」

「……分かってる。えー、次は広報だな。やりたい人~」


 こちらは事前準備も当日も、結構忙しい。女子を主体としたメンバーが手を挙げた。中でも特に目立つのが雫である。

 まぁ、これも予想通り。雫にとってはぴったりな役割だし、他の役割も派手だからな。


「オッケー。なら班長は一年生の方の綾辻で。とはいえそれだけじゃ心許ないから、三年C組の橋本先輩にも任せたいですね。どうですか?」

「んー? 私?」


 突然名指しをされた橋本先輩は、当然ながら驚いた様子を見せる。

 だが嫌そうではない。ふむ……情報通りだな。


「はい。一年生のときから広報班だと聞きました。リーダーシップの点でも信頼できると思ったので、班長が困っているときにはサポートをお願いしたいです。どうでしょう?」

「なるほどね。そういうことならいいよ~」

「ありがとうございます。じゃ、そういうことで」


 快諾してくれたことにほっと胸を撫で下ろす。

 不可解そうに眉をひそめている入江妹をよそに、俺は学級委員会を進行した――。



 ◆



 ――そして学級委員会が終わった。

 最後に各競技の出場選手をクラスで決めるように伝達し、解散となる。雫とみおにはこの後生徒会としてやることがあると伝えていたので、二人とも先に会議室を出た。


 残ったのは生徒会メンバーと俺と入江妹。

 入江妹は、やっぱり不思議そうに首を傾げていた。


「あの。聞いてもいいですか?」

「ん、いいぞ。妹子は俺の補佐なわけだしな」


 それに何を聞きたいのかは分かっている。

 どうぞ、と手で先を促すと、入江妹は口を開いた。


「どうして各班の班長、あんな風にどんどん指名できたんですか?」


 ほらやっぱり。


「広報班のときに橋本先輩を指名したときから不思議でしたけど……他の班も、適宜指名していましたよね。三年生だけならまだしも、中には二年生もいました。あれって事前に準備してたんですか?」


 入江妹の言う通り、広報班以外でも俺は経験者を班長ないしその補佐として指名した。

 もちろん希望者も募ったし、役割を任せている。逆に指名を断られたときには無理強いしなかった。


「まぁな。去年の活躍とか、その辺のことは調べておいたんだよ。いらんところで手間取っても面倒だし」

「わざわざそこまでやる必要ありますか?」

「ないと言えばない。けど、どうせ去年活躍してた人は何だかんだ各班の重要人物になるからな。ならちゃんとよろしくお願いしますって頼めた方がお互いすっきりするだろ」

「……はぁ、なるほど」


 どっかの誰かさんじゃないけど、お礼やお願いはきちんとしておきたい。

 たかが学校行事程度で何をって思われちゃうかもしれないけどな。


「質問は終わりか?」

「はい。先輩ってクソ真面目なんですね」

「お前にだけは言われたくないんだよなぁ……」


 真面目には程遠い、邪道な手段だ。

 そんな風にわざわざ悪辣さを語るのもダサい気がしたから、入江妹に背を向けた。


「ほら行くぞ、妹子」

「はい、モモ先輩」


 こうしてこいつと話せているのも雫のおかげなんだよなぁ。

 隣に来る入江妹を見遣り、俺はそんなことを考えていた。

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