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プロローグ#04 Endless heroine race

 SIDE:友斗


「澪っ、ああ、いくぞ――ッ」


 ――ビリリリリっ

 甘美な稲妻が弾ける。どく、どくどく。意思と綯い交ぜになった身体が、否応なしに震えた。鼓膜をノックする少女たちの嬌声は、他の何物にも代えたくないほどに心地いい。

 多幸感と解放感、それからどこまでも心地のいい疲労が胸の中を満たした。虚無感も虚脱感もないのは、そんなことも考えられないくらいに獣性に犯されているからだろうか? 多分違うだろう、と勝手に決めつける。


「んんっ……」

「ふふっ、お姉ちゃん気持ちよさそー」

「だね……でも、ちょっと気持ちは分かるかもしれません。痛かったけど、凄く幸せです」

「本当にね」


 セミダブルのベッドに、ごろんと三人の少女が寝転んでいる。

 ぐしゃぐしゃに乱れた髪は、汗を糊にして派手に貼りついていた。

 澪はまるで眠る前の子猫のように、それはもう心地よさそうに目を細めて余韻に浸っている。雫は自分の腕に顎を乗せ、子を可愛がるように澪を見つめている。大河はその腕を澪に枕のように使われていて、それなのにちっとも嫌そうな顔をしてはいない。


「友斗先輩も、お疲れ様です」

「あ、あぁ……悪いな、俺と澪でシてる時間が長くて」

「しょーがないですよ。私たちが最初にへばっちゃいましたし……それに、シてる間も友斗先輩とお姉ちゃんに可愛がってもらえましたから。ね、大河ちゃん?」

「う、うん……。とってもふわふわしますよ、ユウ先輩」


 雫と大河の髪をそっと撫でると、二人はほどけるように笑った。

 本当に可愛い子たちだと思う。

 俺には勿体なくて、でも俺のことをどこまでも贔屓するという重大な欠陥を抱えている、最高の女の子たちだ。


「痛かった……よな?」

「もちろん。すっご~く痛かったです」

「でも……澪先輩がたくさんほぐしてくれましたから」

「友斗先輩にも色々されちゃったもんね~。二人とも、変態さんです」

「それは否定できないかもな」


 否定できないどころの騒ぎではない。

 雫と大河は今日が初めてだったのだ。それなのに四人で()るとか……本人たちが言い出したこととは言え、ちょっとやりすぎたかもしれん。


「というか……私はよく分からないですけど、こんなに幾つも一度に使うものなんですか……?」


 大河は火照った顔と声のまま、ちゅぷん、とコンドームをつつく。

 ベッドとか澪の体の上には、口を縛ったコンドームが散乱している。数にして四個、いや最後に使ったのを含めると五個か。

 大河と雫と()るのにそれぞれ一個、澪と()るのに三個使ったんだった。


「いや、普通は一回で終わりだな。俺は澪とシてたことと……あと元々の体質で、割と多めにできるけど――でも久々なのに五回ってのは疲れた」


 澪とセフレとしてシてたときは、六回シたこともある。だがその後は一週間ほど()る気にならなかったし、そもそも四回目からはほとんど――って、俺は何を真面目に考えてるんだか。


 くたくたになった俺は、澪と雫の間に倒れ込む。

 川と州の間の字になった俺たちは、ふぅ、とベッドで一息ついた。


「えへへ、四人でくっつくとあったかいですね」

「だなぁ。暖房、消すか?」

「消すのは冷えてしまいそうですし……温度を下げる程度にしませんか?」

「ん……シャワーがいい」


 三人で話していると、澪が寝ぼけた猫のような声で言う。


「シャワー、ですか?」

「そ。シた後は熱湯を浴びる。そこまでが作法なんだよ」

「なるほど」

「いや違ぇから。あくまで俺たちがそうしてたってだけだから」

「ちぇっ」

「み・お・せ・ん・ぱ・い?」


 大河がじっと澪を睨むと、べっ、と悪戯っぽく赤い舌を出した。

 やばい……シた後に裸でそういうことしてるの見ると、めっちゃ胸にクる。


「あ~。でも二人がそーしてたなら、私たちもシャワー行きません? 汗掻いちゃって気持ち悪いんですよね」

「あ、確かに……」

「でしょ。だからシャワーなんだよ」

「お姉ちゃんの目が今までにないくらいに活き活きしてる!?」


 とか言いつつ、四人で浴室に向かう。

 大河と雫は歩きにくいらしいので俺と澪で支えた。なんか、四人でそうこうしてるのもシュールでいいな、とかちょっと思う。


「お湯は――って、44度は熱すぎません?」

「これがいいの。シた後に熱々のお湯を浴びると最高に気持ちいい」


 ぴっ、とまた1度お湯の温度を上げる澪。

 流石に四人だとこの浴室は狭くて、シャワーの音とそれぞれの声がよく響く。

 ボディーソープで体を洗いっこする三人を横目に捉えつつ、熱湯を浴びて汗を流す。


「浸かるのは流石に無理だし、出よっか」


 シャワーを止めて、俺から順に浴室を出た。

 二人分のタオルを四人で使い回す。三人はぽんぽんと丁寧に体を拭き、かと思えばお互いに手が届かないところを拭き合っていた。

 エロいのに日常的で、性欲よりも先に奇麗だとか可愛いだとか愛してるだとかそういう感想が出てくる。

 そんな光景に、自然と頬が緩んだ。


「あっ、友斗先輩。見てくださいよっ!」

「ん、どうした?」


 雫に言われ、脱衣場の鏡を見遣る。

 ちなみに、今の俺は眼鏡を外してる。四人で()る前に、


『私たちを抱くときだけ、その変身を解いてよ』


 と澪に言われて外したのだ。

 シてる最中は今後も外すことになりそうだし、これ以上視力を悪化させないように気を付けなければ。


「普通に眼鏡を外した俺が映ってるだけだけど。なに、何か映ってんの?」

「首ですよ、首。四人でお揃いです♪」

「ああ、そういうこと」


 俺たちの首元には、それぞれ三か所の内出血がある。

 そこまで痛くないその内出血は、いわゆるキスマークと呼ばれるものだ。シてる間に盛り上がって四人でつけたんだった。すっかり忘れてた――ってか、


「これ、めっちゃ恥ずくね……?」


 キスマークとかイマドキ流行らないし、そもそも高校生でそれをつけてる時点で色々とアレなわけで。

 な? と三人を見るが、はてと首を傾げられた。


「え、よくないです? 結構好きなんですけど」

「私も……三人で繋がれた証みたいで、ちょっと嬉しいです」

「そうそう。それぞれを1位タイにしてる証拠みたいでいいじゃん?」

「お、おう……三人がそれなら、それでいいんだけど」

「てゆーか、友斗先輩が一番ノリノリでつけてましたしね」

「だね。ユウ先輩のだけ、少し歯形も残ってますよ?」

「友斗って割と支配欲みたいのあるもんね。かけるのも好きだし」

「うぐっ」


 否定できねぇ……確かにキスマーク自体は憧れてたんだよなぁ。たかが内出血だと分かっていても、行為の名残みたいで悪くない。

 体を拭き終わっても、誰も服を着ようとはしない。

 下着だけは新しいのを着けて、当然のように部屋に戻る。

 コンドームとシーツを処理して、それが終わったらごろんと四人でベッドに寝転がった。


 いつかのように見送る必要はない。

 セフレはピロートークなんてしないだろうけど、俺たちは恋人だから。

 恋人で、夫婦で、先輩後輩で、親友で――という“関係”は、ほんとのところどうだっていい。ただ先生に叱られないためにいい子のフリをするみたいに、一緒にいることを咎められたくないから適当な“理由”を口にしてるだけ。


「おやすみ」

「おやすみです」

「おやすみなさい」

「おやすみ」


 ただ一つ言えることは、俺たちが家族になるってこと。

 『おはよう』と『おやすみ』を口にして。

 『おはよう』と『おやすみ』とそれ以外で口づけをして。


 そして、俺たちなりの家族になる。


 だから俺が今告げられる一番の口説き文句は決まっていた。


『美緒の義姉になってくれ』


 恋敵で義姉妹で家族。

 俺のヒロインたちは、そういう関係になった。



 ◇



 春がやってきた。

 SNSでたくさんの嘘企画が流れているのを楽しみつつ、目の前にある修羅場こそ嘘であってくれと願う。そんな4月1日をぴょんと超えたら、俺たちにとって大切な日がやってくる。


「っと……じゃあ俺たちは行く」

「うん。俺たちもすぐ追いかけるから」


 4月2日。

 美緒と母さんの命日。

 俺たちは百瀬家の墓場に来ていた。墓石を洗い、お供えをし、墓石の前で手を合わせると、父さんと義母さんはその場を去る。


 父さんの背中には、夏に見たような哀しさの名残はない。

 俺の美緒への気持ちのように、父さんの母さんへの気持ちが二番目になったからなのか、それとも単に父さんが強いだけなのか。それは、俺には分からない。


 俺の答えは父さんの答えじゃないし、逆もまた然りだ。

 だから父さんの中では母さんと義母さんがいつまでも1位タイなのかもしれない。……まぁ義母さんは義母さんで色々と抱えていそうではあるけれども。


 父さんたちを見送ったら、今度は俺たちの番だ。

 俺と雫と澪と大河。

 時雨さんと入江先輩はいない。後で、二人で来るそうだ。今は二人で入江家に乗り込んでいる。ちゃんと終わってから報告しに来るつもりなんだ、と時雨さんは語っていた。


 俺はそっと墓石に手を触れる。

 やっぱり、作法は分からない。

 調べてきたんだけど、すっかり頭から抜けてしまった。


「美緒。紹介するよ、俺の大切な女の子たちだ」


 ここで眠ってるだなんて思わない。

 もうここにはいないだろう。

 だから日々語り掛けることはしない。

 それでも、この世界には奇跡がある。


 俺と、雫と、澪と、大河と。

 二人が出会うのだって70億分の1よりも低確率なのに、俺たちは四人なんだ。大雑把に計算して……70億×70億×70億分の1って感じか?

 途方もないような低確率で俺たちは出会って、しかも四人で結ばれるなんてありえないことをした。

 なら年に数度、三途の川の此方と彼方に橋が架かる程度の奇跡が起きたっていいと思うのだ。


 だから、


「俺は三人と添い遂げる。三人を惚れ直させるために頑張るし、三人にも何度だって惚れ直させてもらう。一生終わらないラブコメを続けて、幸せに三途の川を渡ってそっちに行く」


 この言葉が届きますように、と祈って。


「だから次は、五人でラブコメをしようぜ。このラブコメを始めたのは美緒なんだからさ」


 三人への一途な想いが三途の川を超えて初恋()に届きますように、と祈って。

 俺はそう告げて、墓石から手を離した。


 俺は美緒の死を乗り越えて、進んでいく。

 初恋を終わらせて、今一緒にいてくれる人を愛していく。

 それでも、


「世界一の初恋を、ありがとな」


 美緒が俺の初恋だってことだけは。

 彼女が、()しくて醜いこの物語の()だってことだけは、変わらない。


 俺はその場を立ち、三人と場所を交換する。

 さっきまで後ろで見ていてくれた雫と澪と大河は一列に並んで墓石の前でしゃがみ、手を合わせた。

 そして、


「「「次は初恋も譲らないからね、美緒ちゃん」」」


 と、口を揃えて言った。


「なっ……!?」

「ま、それまでは義妹扱いしてあげるよ」

「義妹として可愛がってあげる。()()()()()、だけどねー?」

「二人ともマウントを一方的に取るのはみっともないですよ……まぁ私も同じ考えですけど。美緒ちゃん、私たちは義姉なんですからね」


 口々に言うのは、恋敵への嫌味ったらしい言葉たち。

 最高の姉妹喧嘩か、或いは最幸のヒロインレースか。

 愛おしくてしょうがないやり取りが繰り広げられていた。


 ったく……最高の女の子たちがヒロインになったんだが、どうすればいいと思う?


「――なんて……心から愛せばいいに決まってるよな」


 腐れ縁のセフレとか、小悪魔な後輩とか、真面目な後輩とか。そういう言葉では括らない。


 これは百瀬澪と、百瀬雫と、百瀬大河と、百瀬友斗と、百瀬美緒の――俺たちのラブコメだから。


「さてと。じゃあ、花見でもしますか」

「そういえばお祖父様が、ユウ先輩を呼んでましたよ」

「うわ……絶対またしごかれるじゃん」

「いいじゃん、行こうよ。お腹空いたし」

「お姉ちゃん、理由が残念だよ……私はおじいちゃんとゲームしたいですっ!」

「いっそのこと全部一緒にすればいいんじゃね? 祖父ちゃんを召喚すれば、あの人も俺には構わないだろうし」


 くだらないことを話しながら、俺たちは墓地を後にする。

 さやさやと春の風が吹いた。恋色の風は温かくて、マフラーはもう要らないだろう。それでも、俺はヒーローで在り続ける。だって、俺をヒーローにしてくれる女の子たちがいるんだから。


 空から、桜の花びらが降ってくる。最高の女の子たちとの素敵な未来みたいに、きらきらと。


 俺は時の魔法を唱えるように、


「ありがとう。またな」


 と告げて、これから一緒に生きていく三人の後を追った。




  


『Da capo』END

最後まで読んでくださりありがとうございます!

面白いと思っていただけましたら、このページの下部にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にしてもらえると励みになります!

この作品を推してもらえると嬉しいです!!


また、この作品は二周目、三周目で新しい発見があるように書いているつもりです。

ぜひこれからもなにか読みたくなったとき、読み返しにきてください。


拝啓、ここまで読んでくださった読者様へ。

本当にありがとうございました!!!

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[一言] セミダブルに4人寝るのは無理ですよっ!
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