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最終章#45 〈水の家〉会議③

 SIDE:友斗


「っと、これでひとまず俺たちの今後についてはまとまったってことでいいかな」


 家族会議はまだ続く。

 ひとまず『どうやって一緒にいるのか』という問題が解決したところで、俺は話を区切った。まぁ万事解決というわけではなく、実際には今後幾つもの問題が見えてくるのだろうけれど。


 と考えていると、大河が手を挙げて言ってきた。


「あの。ユウ先輩、気が早いかもしれないんですが……できれば一度、祖父のところに挨拶に行っていただきたいです」

「ん、あの祖父さんのところにか?」

「はい。父と母はすぐに納得すると思うのですが、祖父は一筋縄でいかないと思うので……早いうちに話をしておきたいんです。姉のこともありますから」

「なるほどな」


 言いたいことは分かった。

 年齢的に考えても、今から結婚することはできない。だから結婚の挨拶なんて気が早いかもしれないが、何せあの家のことだ。そもそも男女交際すら簡単には認めてくれない気がする。


「ま、その辺のことは俺も考えてた。何の憂いもないハッピーエンドがいいしな」


 言って、雫と澪を見遣る。

 結婚の話をするだけなら、二人はあちらに行く必要がない。義妹二人を連れて結婚の挨拶に来る奴がどこの世界にいるんだよ、って話だ。

 だが――


「雫と澪にも来てほしいんだが、いいか?」

「えっ、私たちにもですか……?」

「別にいいけど……それ、拗れない?」

「あー、うん、まぁ多分拗れるだろうな」


 拗れないわけがない。だってあの祖父だ。祖父ちゃんからの話を聞くだけでも厄介な人だと分かるし、そもそも両親飛ばして祖父に挨拶に行かなきゃいけない時点で色々とアレなことが分かる。


 しかし、


「俺に考えがある。だから二人にも来てほしい。四人で行きたいんだ」


 この期に及んで拗れることを厭うべきではないと思う。

 むしろどうしようもなく拗らせてしまいたい。ひっちゃかめっちゃかにして、その果てにある“何か”を掴みたいのだ。

 きっぱりと言い切ると、雫と澪が顔を見合わせ、くすっと笑った。


「ま、そういうことならいいけどね。友斗に任せておくだけってのも不安だし」

「だねぇー!」

「俺の信用のなさよ……まぁ、じゃあ細かい日程はこっちで詰めておく。あっちまで連れていってもらわなきゃいけないしな」


 そのためにも……うん、《《あの人》》とは明日話そう。元々そのつもりだったしな。

 大河に、それでいいよな? と視線で確認を取ると、頷き返された。


「あ、あの。それと……できれば、ユウ先輩たちのご両親にも挨拶させていただきたいです」

「「「あー」」」


 言われて、はたと気付く。

 こうなったことは父さんと義母さんにも伝えなきゃいけないよな。父さんには事情は伝えてるけど、義母さんとはほとんど話してないし。

 ……思ったより面倒なんだなぁ。


「ママに言うのかぁ……めんどくさそう」

「ほんとだよねぇ。認めてくれないってことはないだろうけど、絶対色々からかわれる!」

「あ、あはは、確かに」


 何なら義母さんの相手が一番疲れる気がするまである。

 

「まぁ可愛い娘を二人も嫁に貰うわけだからな。ちゃんと挨拶はするぞ――って、二人とも、どうした?」

「えっ、あ、いや。いざ嫁に貰うとか言われるとちょっと恥ずかしかったので」

「ん。ちゃんと嫁に貰ってくれるつもりはあるんだ?」

「っ、当たり前だろ。三人まとめて俺が嫁に貰う。そういう話だっただろうが」


 いざ自分で口にすると、羞恥心がヤバくてどうにかなりそうだけれども。

 こほん、と咳払いをし、話を進める。


「まぁそういうことで、父さんと義母さんにも時間取れないか聞いとく。細かいことが決まったら三人に伝えるわ」

「りょーかいです!」「ん」

「……結婚の挨拶しにいく側が場をセッティングするのって考えてみるとおかしな話ですよね」

「マジでそれだけど冷静になると色々考えちゃうから言うな」


 実際、入江家にしろ百瀬家にしろ、俺が話をまとめるのが一番早いしな。

 ともあれ、これで俺たちのことについては話し終えただろう。

 他にはないか? と視線で尋ねると、澪が真剣な顔で手を挙げた。


「一つ、大切な相談があるんだけど」


 ……なんだろう、この感じ。

 そこはかとなく既視感(嫌な予感)がある。俺が眉をひそめていると、澪は見たことないほど真面目腐ったトーンで言った。


「キスとエッチはいつから解禁?」

「ぶふぅぅっ!?」「お姉ちゃん!?」「澪先輩!?」


 こいつ、案の定とんでもないこと言いやがったな……!?

 げふげふっと咳き込んでいる間に、澪はどこか不服そうに話を続けた。


「だって大切なことでしょ? 付き合うってことはそういうことだってしていいわけだし……っていうか、私は友斗と今すぐにでもしたい。キスも、エッチも、我慢してるもん」

「ッ……お、おう」

「でも流石にそういうことで抜け駆けするつもりもないし。だからこそ確認」

「い、一理なくもないのか……?」

「ユウ先輩騙されないでください」

「だ、だよな」


 うんうん、と俺は頷く。

 澪の欲求が半端ないのは俺にだって分かる。百瀬家を離れていた時期がどうだったか知らんが、少なくとも俺が家を出る前はほぼ毎晩一人でシてたし。

 だから戯言だと一蹴してもいいのだが……考えなきゃいけないことの一つではあると思う。ぶっちゃけ俺だってシたいし。


「俺はそういうことは、全部終わってからがいいと思う」

「挨拶とか感謝祭とか、ってこと?」

「あぁ。もちろん終わったらすぐシようって話じゃないぞ。俺や澪はともかく、雫や大河は初めてなわけだからな」

「ん…分かってる。目安として、それまでは考えずにいようって話でしょ?」

「そう考えてもらえるとありがたい。今は他にやらなきゃいけないことが多いしな」

「ま、妥当なところか……久々にシたら熱中しちゃいそうだし」

「…………」


 ねぇ誰か、うちの彼女がきわどい発言ばっかりするせいで俺の理性が悲鳴を上げてるんですけど、どうにかしてくんない?

 助けを求めて雫と大河を見ると、二人は真っ赤な顔で俯いていた。


「う、ぅぅぅ……友斗先輩も思ってたよりえっちぃよぅ」

「終わったら……貰ってもらう……?」


 やや目の焦点が合ってないような気がするんだが、大丈夫か?

 おーい、と声をかけてみるが、返答がない。ただの屍のようだ。違う、ただの天使のようだ。

 澪は、はぁ、と溜息をつくと席を立つ。


「二人はキャパオーバーっぽいし、続きはご飯食べながらにしよ。作ってくるから」

「キャパオーバーになったのは誰のせいだよってツッコミはしても意味なさそうだからしないでおくわ」

「ん」


 これはこれでいいな、とか思っちゃう辺り俺はどちらかと言えば澪側なんだろうなぁと思いました、まる。



 ◇



 ほかほかと、温かい味噌汁。

 つやつやの白いご飯に焼き鮭。久々にTHE和食な澪の手料理を食べると、物凄く気分が落ち着いた。

 それは三人も同じらしく、ほぅ、と安らぐような溜息が重なる。


「俺、澪の作る出汁巻き玉子が好物かもしれん」

「あー、それ分かります。お姉ちゃんの出汁巻き玉子、すっごく美味しいですよね」

「確かに……落ち着く味です」

「ま、ね。私の包容力が滲み出てるんでしょ」

「それはない」「それはないかな」「包容力……?」

「三人揃って酷くない?! ちょっと箸置いて話し合おうか」


 いやそう言われても、実際包容力があるかって聞かれると素直に頷けないところがあるしな……?

 三人で苦笑していると、澪は不服そうに頬を膨らませた。

 そんなところも可愛い。あとやっぱり出汁巻き玉子美味い。程よい味つけでほっこりするんだよなぁ。


「っていうか、料理の感想はいいよ。それより話すことあるんでしょ」

「あれ、お姉ちゃんが意外と照れてる……?」

「ち、違うから!」


 ぶんぶんと首を横に振って、澪は八つ当たりするようにこちらを睨んできた。

 早く話を進めろ、とのことらしい。


「そういうところも可愛いよな」

「……悔しいですけど、ちょっと分かります」

「い・い・か・ら!」


 むすっとする澪に、三人でけらけら笑う。さっきあれだけ振り回されたからな。その分をやり返しておかなきゃ気が済まない。

 ふぅ、と笑い終え、いよいよ話を進める。


「で……俺たちのことはひとまずさっきので終わりってことでいいよな?」


 確認すると、三人は頷いた。

 今後何かがあれば適宜相談するってことにして、別件に話を移す。


「じゃあ、ここからは昨日の続き。感謝祭と三人のライブについての話をするか」

「そーですよ! 昨日は『3分の2の縁結び』を、とか言ってましたけど、それにしても突拍子もなさすぎると思います!」

「本当にね……生徒会室で言っていた助っ人の件はどうなったんですか?」

「ライブのことも聞いてないし。説明なしでの告知とか最低だよね」

「あー、はいはい、とりあえず落ち着け。きちんと順を追って話すから」


 ネットで炎上した芸人並みに言葉責めにあった俺は、苦笑交じりで応じる。

 言ってることは何一つ間違ってないのだが、正論は言うものではなく聞き流すものだからな。適当に聞き流した上で、げふんと咳払いをする。


「そうだな……まずはそもそも、これがそこまで突拍子のない話じゃない、ってところから説明するか」

「えっ?」

「名付けるなら『新訳:3分の2の縁結び伝説』ってところかな。まぁとりあえず聞いてくれ」


 バカにしか見えない伏線ってやつだけど。

 まぁ聞いてくれ、と言って、俺は話し始めた。

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