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【完結】 腐れ縁のセフレと小悪魔な後輩が義妹になったんだが、どうすればいいと思う?  作者: 兎夢
第三部 八章『亡者の国のアリスと恋人未満はサンタクロース
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八章#44 ミスターコン開幕

「あ、友斗。おかえり」

「おう、ただいま――って、澪も制服なのか」


 集合場所である会議室に到着すると、制服姿の澪が出迎えてくれた。

 大河に続き、澪も制服とは……。

 副委員長として多少はやることがあっただろうが、それにしても着替えられないほどじゃないと思うんだけど。

 疑るような視線に、澪は肩を竦めて返してくる


「ちょっとやることがあったの。別にいいでしょ?」

「ま、まぁ別にいいんだが……浮かないか?」


 俺が言うと、澪は、あー、と顔をしかめた。どうやら浮くとは思っていたらしい。まぁそうでしょうね。周囲はほとんど私服なんだから、制服なんて絶対に浮く。

 とはいえ、もちろん制服姿の奴がいないわけではない。有志発表の衣装にはまだ着替えられない事情があり、着替えた後はその服のままでいるつもりの場合、わざわざ私服に着替えないこともある。


 あとは……部屋を見渡し、ちらほら制服姿のミスターコン参加者がいることに気付く。


「あれか。わざと学生同士って設定にしてるわけか」

「みたい。コスチュームプレイだね」

「……あながち否定できないな」

「でしょ」


 私服で来るのが基本の日に制服を着て演技をするのだから、ある意味ではコスチュームプレイである。

 ミスコンの日はみんなが制服だけど、今日は逆にほぼ全員が私服なわけだから、制服の方が目立つのか。割とガチで獲りに来てるじゃん。


「で、どういう設定でいくの?」


 ミスターコンの特別パフォーマンスについては、幾つか段取りがある。

 基本は『壁ドン』か『バックハグ』のどちらかを行い、台詞を言うだけだ。だがそれだけでは状況も何もないため、事前にどういう場面なのかを原稿にまとめ、司会に読んでもらうことになっているのだ。

 つまり、台詞だけじゃなくて場面まで参加者が妄想しなければならない。しかもそれをみんなの前でマイクに声を乗せて読まれるわけだ。死にたいね、うん。


 ちなみに、その場面説明の文章は今から提出することになっている。

 本当なら澪と打ち合わせしておくべきなんだろうが、昨日まで原稿が上がっていなかったので、こうして説明を求めらているわけだ。これはこれで情けない。申し訳ねぇ……。


「えーっと。俺は――」


 手元にある原稿を見せながら、どうしてこういう設定に至ったのかを説明する。

 澪は眉間に皴を寄せ、かと思えばくすくすと可笑しそうに笑い、そして言った。


「ほんと、友斗らしいよ。最低で最高」

「……ダメ、か?」

「ん、ダメじゃない。いいよ。私にしかできないことだし」


 蠱惑な笑みを浮かべ、ぺろりと舌なめずりをして澪は肯う。


「付き合ったげるよ。友斗の痛くて、尊い妄想にね」

「言い方よ、言い方」

「間違ってないじゃん」

「む……」


 間違ってはなかった。痛くて尊い妄想だ。その自覚も自負も、きちんとある。

 俺が苦笑していると、


「あなたが百瀬先輩ですよね」


 と、やたらと敵意むき出しな声が聞こえた。

 もうなんかこの時点で面倒な予感がするなぁと思いつつも一応振り向くと、爽やかなスポーツ少年が立っている。


「えっと、そうだけど。君は?」

「っ! 俺のことなんて歯牙にもかけないと? はっ、いいご身分ですね」

「いやだって知らないし……」


 なに? 折角色んなことがひと段落したと思ってたのに、まだ問題が起こるわけ……?

 そう思ってじっと顔を見つめ、はたと気付く。

 晴彦ほどではないが、割と俺の好きな部類の顔だったから記憶に残ってた。


「思い出した。雫のクラスのミスターコン参加者だったな。名前は杉や――」

「ふぅぅぅぅぅん? つまり雫にしつこくアプローチしまくって、ついでに無理やり特別パフォーマンスの相手役にしようとした害虫?」

「ひぃぃっ」


 俺が言い終わる前に、澪が引くほど凍てついた声を出す。

 一年A組ミスターコン参加者の杉山大志クンは、びくっ、と怯える様子を見せた。

 澪の言葉で芋づる式に思い出す。

 そういえば、雫と付き合ってるって噂が出てたのも杉山クンだったっけ。相手役に無理やりってのはよく分からんが、どうやら知らんうちにそんなこともあったらしい。ぎろりと杉山クンを睨むと、彼の頬がまた引きつった。


「べっ、別にしつこくアプローチしたわけじゃ……それに、無理やり相手役に指名したわけでも……」

「犯罪者はみんなそういうことを言う」

「いきなり犯罪者扱い?!」


 いちいち反応が面白ぇな!?

 悪い奴ではないのかもしれん。とりあえず話にならないので、澪には引っ込んでもらうことにした。杉山クンのライフはもうゼロよ。


「こほん……で? 俺に何か用か?」

「お、俺は今日、あなたに勝ちます。インタビューでもそう宣言しました」

「インタビュー……ああ、そんなのもあったな」


 そういや、俺も適当に答えたんだった。

 SNSでの告知は流石に俺が担当するわけにいかなかったので如月のスマホでもログインできるようにしたのだが、割と上手いことやっていた覚えがある。配布された新聞もよくできていた。そっちは俺も手伝ったけど。


「なっ。見てないんですかっ!?」

「いやすまん。忙しかったのとミスターコンが嫌だったので、つい。そんな俺のことロックオンするようなこと書いてくれてたんだな。嬉しいよ」

「嬉しっ――嬉しがることじゃないですから! 俺は今日あなたに勝って、もう一度しず……綾辻さんに告白します」


 なんでこの子は、爽やかイケメンなのにチワワが睨んでるみたいな目をしてるのだろうか。もしかして、割とバカ? ネタキャラ枠? などと、酷いことを考えるのはやめておこう。

 一応、杉山クンは真剣のようだし。ポッと出のライバル感は否めないが、真剣ならば相手をしてあげよう。楽しもうって大河に話したばっかりだしな。


「そっか、なら頑張ろうぜ。俺も負ける気はないから」

「……っ、はい。じゃあ負けた方が坊主ということでいいですね」

「うん……? どうしてそうなった?!」

「何事にもけじめがあるって思うので!」


 それをお前が言うか……!?

 やや思うところはあるが、まぁ、所詮は口約束だ。本気で坊主にするつもりも、させるつもりもないだろう。


「はいはい、分かった。じゃあ1位を取れなかったやつが坊主な」

「はいっ! 絶対坊主で年越しさせてみせますから」

「それはそれでめでたそうなんだよなぁ……」


 俺の苦笑はお構いなしに、杉山クンは去っていく。

 なんつーか、嵐のような奴だったな。そう思いつつ、何気なく生徒会のSNSを見て、俺は顔をしかめた。

 ……マジかよ、SNSだけだと杉山クン2位人気じゃん。


「なぁ澪。俺、割と真面目に負けるかもしれん」


 俺も似たような人気だから勝機が低いってわけではないが、勝ち確定とは言い難い。イケメンだとは思ったけど、まさかあのポンコツ度合いで2位とは予想してなかった。

 澪は、


「大丈夫」


 と、冷たいままの声で答える。


「私も本気出すから。雫に近寄る害虫は、排除するのが姉の役目だし」

「……相手は仔犬みたいなものだからね? あとやるのは俺だからね?」

「問答無用。敵は焼き払うのみ」


 あー、うん。

 これは俺が宥めてもダメそうですね。まぁシスコンとして気持ちは分かるし、いっか。どうせなら勝ちたいもんな。


「じゃ、特別パフォーマンスの打ち合わせするか」

「ん。言っとくけど、負けたら承知しないから」

「安心しろ。特別パフォーマンスでは、絶対に負けない」


 問題は……特別パフォーマンス以外なわけだが。



 ◇



「さて! ということで始まりました、第一回ミスターコンテスト! 聖なる夜に、うちに学校のサンタクロースを決めましょうじゃありませんか!!!!」

「「「「おおおおお!!」」」」


 舞台の真ん中では、ノリノリで如月が司会進行をしていた。

 冬星祭運営サイドとしてはこの盛り上がりは喜ぶべきなのだろうけど、ミスターコン参加者としてはあんまり喜べない。死ぬほど恥ずかしいだけだし。

 だよな? と思って他の参加者を見遣るが……全然平気そうなのが八割ほど、緊張しているのが残りの二割ってところだった。嘘でしょ。羞恥心とかないんか……?


「流れを説明させていただきます。まずは、参加者全員に順に自己紹介と特技披露をしてもらいます。アピールの時間は、自己紹介と特技披露合わせて2分です。30秒までのおーバーなら目くじらは立てませんが、あんまり長引くのはNOでお願いします!」


 つまり、最大で150秒。

 この間に自己紹介と特技披露をやらねばならないわけだ。


「その後、順番をシャッフルし、特別パフォーマンスに移ります。キュンキュンな台詞で会場をドキドキさせちゃってください! グランプリには王冠を、グランプリ輩出クラスにはお菓子の詰め合わせをプレゼントです!」

「「「「おおおおお!」」」」


 景品自体は大したことないが、校風のおかげか、面白いくらいに盛り上がってくれる。イベント好きだもんな。あと、如月が地味に上手い。選挙のときにも思ったけど、勉強の面以外では高スペックだよな。


「それでは初めていただきましょう! まずは一年A組の参加者です!」


 早速杉山クンの番である。

 彼は、こちらを一瞥してから舞台袖を出て行った。

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