八章#42 3分の2の縁結び伝説Part2
ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る~♪
しゃらん、しゃらんと鈴が鳴る。
そんなクリスマスがやってきた。
正確には、クリスマスイブ、だが。
もっと言うと、クリスマスイブは24日の夜のことであり、冬星祭の第一部はただの12月24日でしかないわけだが。
「それでもまぁ、無事終わってよかったな」
「ですね。ひとまず、片がついてよかったです」
「だなぁ」
「ただ、先ほどまで幼稚園の子たちが地域の方々がとても楽しそうになさっていたので、そうやって水を差すようなことは言わないでください」
「うぐっ……はい、すみません」
早速生徒会長に叱られる俺。ばつが悪くなってそっぽを向くと、その視線の先っていうか目の前にパァと笑う雫がいる。
「ほんとーですよ。折角のクリスマスなんです。いい子にもなれたんですから、今日は捻くれもかっこつけもなしでちゃんと青春しましょう!」
「ぐぅ、そうは言われてもな……」
「ま、友斗は結局何もやらなかったわけだし。いい子かどうかも微妙なラインだよね。どちらかと言えば、いい雰囲気の中抜きをする悪徳業者」
「言い方! まあそうなんですけども!」
日曜日、俺は時雨さんと入江先輩と三人でドライブに行った。そこでの顛末は、帰ってきてすぐに説明している。
俺は結局、時雨さんの隣で話を聞いていただけだったこと。
当初の予定から特にブレることもなく、マジで入江先輩に丸投げ状態だったこと。
その辺りのことを聞いた三者の反応は、以下の通りである。
『ええと……あ、姉には私から感謝をしておくので。ユウ先輩もお疲れさまでした』
『あれですね。人助けのアウトソーシングってやつですねっ! 友斗先輩ったら意識高い系~♪』
『ろくなことしてないのに口にすることだけ気障で笑うんだけど。ほんと、そういうところが友斗って感じで好き』
悪意のない言葉って一番胸を抉るんだなぁって思いました、はい。
いや三人の言葉が悪意がないかと言うと、絶対ちょっぴりあると思うんだけどね?
それに……まぁ、俺がいる必要はなかったかと言えば、それは違うと思うし、三人だってそこのところは理解しているだろう。
問題は、誰にとって必要だったか、ということ。
あれは時雨さんではなく、俺にとって必要だった。
生き方を見つけた時雨さん。
まだ見つけてられてない俺。
一歩先に行かれる光景を目の当たりにしたからこそ、考えなくちゃな、と思う。必死に足掻いて、見つけたい。美緒がいない世界で生きていく意味を。美緒に誇れる生を歩むために。
「――と、まぁふざけるのは程々にして。大河、午後の準備はできてるよな?」
「億万です」
「おお、なんかそれ久しぶりな感じがするな」
「トラ子の変な喋り方ね。キャラ付け乙」
「キャラ付けじゃありませんから!」
「もうすぐ二年生だしね。高二病ってやつ?」
「違います! それを言ったら『トラ子』って呼び方をするのもどうなんですか?」
「だって『タイガー』って呼んだらパクリになるし。そこまで獰猛じゃないから烏滸がましいし」
「なんのことですか?!」
「元ネタ分からないなら後で教えるから冬休みにでも見な。ってか、うちで見よ」
「あ、え、はい」
「凄いですよ友斗先輩。流れるようにケンカして凄い唐突に終わりました」
「それな。もうこいつら仲良すぎるだろ」
「何か仰いましたか?」「は? ありえないんだけど」
「「そういうところだよ!」」
雫と俺が、声を合わせて叫ぶ。
むぅと不服そうに顔をしかめる澪と大河。そういう反応がほぼ同時だからアウトなんだぞ、と思うが、もう面倒なので口にしないでおく。
「まあ、何はともあれ。準備が終わってるなら、少し抜けてもいいか?」
スマホで時間を確認しながら、大河に尋ねる。
現在時刻午後2時すぎ。第二部の入場は午後5時からであるため、まだ幾分か余裕がある。
「抜けていいというか、スタッフの人は皆さん一度帰宅されるはずですが……そういうわけではなく、ということですか?」
「ああ。いやそういうわけでもあるんだが、家に帰るのとは別に行くところがあってな」
「ふぅん」「へぇ」
「……? あっ、ああ!」
俺が言うと、澪と雫が意味ありげに笑った。それを見て、大河も気付いたらしい。こくこくと頷かれた。
ぐぬぅ……そう反応されるとこっちも困るんですけど?
「大河、せめて二人みたいな『何となく察してます』感でやめてくれ。上手く隠せてない俺が悪いんだけどさ」
「えっ、あ……すみません。善処します」
「お、おう」
そう謝られても困るんだよなぁ、と苦笑すると、澪と雫がくすくす笑みを零す。
ま、いっか。
どうせバレてるしな。土曜までは忙しい上に日曜をドライブで潰した俺には、アレを買いに行く時間がなかったわけだし。
「で、抜けていいか? 一回家戻って着替えてから行くから、多分開場ギリギリに到着って感じになるんだけど」
「えっと……はい、大丈夫だと思います。でも開場30分後にはミスターコン参加者が集合なので、絶対に遅れないようにお願いしますね」
「うっ、嫌なことを思い出させるなよ……」
「忘れられては困ります。《《私の》》冬星祭の目玉になんですから」
きっぱりと告げる大河に、ふっ、と微笑が漏れた。
立派になったものだ。入江先輩ほど傲慢でも自信満々でもないが、自信千々くらいにはなってるんじゃないだろうか。
それにしても、ミスターコンなぁ……嫌すぎる。めっちゃ嫌。でも澪を相手役に指名しちゃったので、すっぽかしたら俺以外のやつが澪に特別パフォーマンスをすることになるからサボれないというジレンマ。
くっそぅ、この後行くところだってあるのに。
どうして頑張った俺にまだこんな仕打ちが残ってるんですかねぇ神様?
――頑張って、兄さん
鬼畜すぎませんかねぇ?!
「ったく、分かった分かった。必ず現着する。じゃあ悪いけど、もう出るな」
「はい――あっ、その前に一ついいですか?」
一旦家に帰ろうとすると、大河が声をかけてきた。
振り返ると、くしゅくしゅ、と髪の先っぽをいじくっている。雫と澪が何故か大河の背中を、とん、と押した。
「えっと……どうした?」
「あ、あの…………『3分の2の縁結び伝説』! 残り3分の1、私と結んでくれませんかっ?!」
「へ?」
思わぬ発言に変な声が出た。
まさか大河の口から『3分の2の縁結び伝説』なんて俗っぽいものが出てくるとは思わなかった。
つか、あれか。雫と澪が教えたんだな。それで3分の1ずつ、フェアに行こう、とでも話し合ったパターン?
だとしたら……ちょっとばかし、俺とすれ違ったな。
「あー、悪いけどそれはできない」
「っ、私とじゃ……嫌、ですか?」
「友斗先輩っ!」「友斗」
「いや違うから! 最後まで話を聞け」
まぁ俺から言わなかったのが悪いからいいんだけどさ。
俺はくしゅくしゅと髪を掻きながら、あのな、と言った。
「考えたんだけど……3分の1ずつじゃ、ダメなんだろ。こういうのって必要分まで達しないとむしろ不吉なことが起こりそうじゃん? ほら、こっくりさんだって途中で指を離したらダメって言うし」
「……それはこっくりさんの話では?」
「たかが学校の伝説で不吉なことって……」
「オタク脳すぎない?」
「それ言い始めたらこの伝説に乗っかってる時点でバカバカしいからな!?」
って、そーでなくて。
つまりさ、と俺はやけになって続ける。
「雫と澪とは、今日のうちにもう3分の1。大河とは3分の2結んで、三人としっかり伝説を達成しときたいって思ってたんだよ。冬星祭の第二部は丸々後夜祭なんだから、何となくそれくらいいけそうじゃん」
「「「…………」」」
「嫌なら無理にとは言わねぇけど……」
あー、くそ、恥ずかしい。
しかも発言がクズいし。
でも、こうするのがいいって思ったんだ。
だって――3分の1ずつじゃ、平等に分け合っただけじゃんか。そんな中途半端な結論に、意味なんてないだろ。三人を待たせてるのは、ひとえに俺の不確かさのせいなんだから。
それに体育祭のときに雫と結んだアレは、不誠実なものだった気もするし。
あれをなかったことにするつもりはない。過去があるから今がある。でも、あれで終わりにするのもそれはそれで違うと思ったのだ。
「嫌なわけ、ないじゃないですか! そーゆうめちゃくちゃなとこ、好きです」
「ぐっ、うっせぇ」
「ユウ先輩……クソ真面目、ですね」
「お前には言われたくねぇんだよ」
「このかっこつけ。でも……ほんとはもう3分の1欲しかったから、許す」
「ならかっこつけとは言わないでほしかった……羞恥で死にそうなのに……」
めっちゃ恥ずいしヤバいんだけど。
でも三人が嬉しそうに笑ってくれるから、ならよかったかな、とか思えてきてしまう。
俺はぱしーんと両頬を叩き、
「じゃあ。そんなわけで、今度こそ行ってくる」
と告げて、その場を逃げることにした。
「行ってらっしゃいです、友斗先輩!」
「ユウ先輩、気を付けてくださいね」
「楽しみにしてるからね、友斗」
というわけで。
俺は、プレゼントを買いに向かった。




