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【完結】 腐れ縁のセフレと小悪魔な後輩が義妹になったんだが、どうすればいいと思う?  作者: 兎夢
第三部 八章『亡者の国のアリスと恋人未満はサンタクロース
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八章#22 女子会①

 SIDE:雫


「お邪魔します」


 土曜日。友斗先輩がバイトのことで霧崎先輩のお父さんに会いに行ってから暫くして、大河ちゃんがお家にやってきた。

 遠慮がちなその声を聞いて玄関に向かい、私は言う。


「大河ちゃん。そこは『ただいま』でしょー?」

「うっ……やっぱりまだ照れるというか」


 すっかり数か月前より短くなった髪の毛先をこねこねと弄りながら、大河ちゃんがぼしょりと呟く。

 まったくもう。ほんっとに可愛いなぁ!

 そう思っている間に、お姉ちゃんもリビングから遅れてやってきた。


「はぁ。お邪魔するなら帰ってもらってもいいんだけど?」

「む……澪先輩は『お邪魔します』という定型句の存在を知らないんですか? そんなことでは期末テストの成績は危ういかもしれませんね。いつまでも学年1位でいられるなんて思わないことです」

「今のが皮肉だってことも読み取れないなんて読解力が足りないんじゃない? トラ子の方こそ、選挙に続いてテストでも負けるかもね」

「なっ……、選挙もテストも負けてません。それに皮肉だと分かったうえで更に皮肉を返してるんです。そんなことも――」

「だーかーらーっ!」


 大河ちゃんとお姉ちゃんが凄い勢いでまくしたて始めたので、私は二人の間に割り込んでワーワーと騒ぐ。


「お姉ちゃん! 出迎えついでにケンカを売らないの! そういう特性なの? 『こうげき』を下げる『いかく』なのっ?!」

「むぅ……」

「大河ちゃんも! 年末売り出しセールのノリでケンカを買わないのっ! せめてクリスマスが過ぎてからだよ! いやクリスマス終わってもやめてほしいけど!」

「うっ。は、はい」


 私が叱ると、お姉ちゃんも大河ちゃんもしゅんと肩を落とした。

 お互いがお互いを忌々しげに睨んでるけど、それは見なかったことにしておく。この二人はほんと馬が合う……のとは違うけど、仲はいいんだよなぁ。《《鹿》》が合う、ってやつかもしれない。

 って、どこかの誰かさんみたいな言葉遊びはどーでもいいとして。


「そんなわけだから。私たちが『おかえり』って言う分、大河ちゃんも『ただいま』だよ」

「……う、うん」


 お姉ちゃんもきっと、大河ちゃんに「ただいま」って言わせるためにあえてケンカを売ったんだと思うし。

 私がにっこり笑って言うと、大河ちゃんはこくりと頷き、恥ずかしそうにしつつも胸を張った。


「た、ただいま」

「おかえりっ!」

「はぁ。おかえり」


 なんだか温かい空気になって、頬が緩む。

 三人でくすくす笑ってから、私はこほんと咳払いをして言う。


「まぁとりあえず上がろ。今日は二人にとっても大切な話があるからね」


 それは私が火曜日、大河ちゃんとお姉ちゃんにだけ話したことだった。

 大切な話があるから土曜日、三人で話そう。

 この提案を二人は受け入れてくれて、元々は大河ちゃんの家なり外のお店なりで話すつもりだったんだけど、友斗先輩に用事があると聞いて、お家で話すことに決まったのだ。


 話の内容は、二人に告げていない。

 大河ちゃんは手を洗い、お姉ちゃんは大河ちゃんの分のコーヒーをマグカップに入れて、それぞれテーブルを囲んで座る。

 っていうか、お姉ちゃんそーやってコーヒーとかは入れてあげるんだよね。大河ちゃんも「ありがとうございます」って言ってるし。この二人はほんとに分からない。分からないくらい仲良しさんで嬉しい。ちょっとだけ妬けるけど。


 ともあれ、そんなこんなで人心地ついて。

 二人が私を見てきたところで、私はこほんと咳払いをする。


「さて、と。それじゃあいきなりだけど、大切な話に入ってもいいかな?」

「う、うん」「大丈夫だよ」


 順に大河ちゃん、お姉ちゃんが頷く。

 ごくんと息を呑む二人に向けて、私はなるべく真剣なトーンになるよう意識して、言った。


「あのね……」

「「うん」」

「二人って、友斗先輩のこと好きだよね?」

「「……うん?」」


 私が言うと、息ぴったりに二人が首を傾げた。


「えっと……雫ちゃん。大切な話ってそれ?」

「ん~。当たらずともとーからず! とりあえず答えて」


 言って、私はテーブルに頬杖をついた。

 二人を上目遣いで見つめる。

 意図を探るような視線を向けつつも、まずはお姉ちゃんが口を開いた。


「今更な気はするけど……そうだよ。私は友斗のことが好き」

「うんうん。それって、どーゆう意味で? 恋愛的に? 友達的に? 家族的に?」

「後半二つで好きになる要素、ある?」

「そんなにばっさり切っちゃうのはユウ先輩に可哀想なんじゃ……」

「事実じゃない? 恋愛的に好きじゃなかったら、あんなシスコンの兄とか嫌でしょ」

「「あー……」」


 一応反論材料を探しては見たけど、見つからなかった。


「確かに友斗先輩って、絶対『妹は俺と結婚したいって思ってるから』とか言うタイプだよね」

「そうそう。自分よりいい男じゃないとダメとか言うくせに実際に超えられたら凄い悔しがるタイプ」

「なんかそれ……私の姉と似てるような……」


 大河ちゃんが苦笑交じりに漏らす。

 そーいえば大河ちゃんはお姉さんがいるんだっけ。入江先輩。とっても綺麗な先輩だったのを覚えている。

 お姉ちゃんは、はっ、と鼻で笑って言う。


「そりゃ、あの人もシスコンだし。妹のためってだけで選挙であれだけ大暴れできる時点でお察しでしょ」

「うっ……反論できないのが口惜しいです。反論したらしたで姉を擁護することになってイラっとしますし……」

「大河ちゃん、お姉ちゃんのこともお姉さんのことも嫌いすぎない!?」


 まぁ大河ちゃんって負けず嫌いなところあるしね。この前もバスケで負けて、実は悔しそうにしてたし。

 と、話が脱線しそうになっているので元に戻す。


「と、とにかく。お姉ちゃんは友斗先輩のこと、一人の男の子として好きってことだよね?」

「ん、そうだね。大好きだよ」

「うん。じゃあ大河ちゃんは?」


 話の矛先を大河ちゃんに向けた。

 えっ、と小さく零してから、大河ちゃんは頬を赤くする。

 それでも私とお姉ちゃんを真っ直ぐに見て、答えてくれた。


「好き。ユウ先輩のこと、一人の男の子として大好き」

「うんうん。一つだけ、ちょっと意地悪なこと聞いてもいい?」

「……意地悪なこと?」


 うん、と頷いてから私は言う。ちょっぴり心は痛むけど、大丈夫だ、って信じてるから。


「その『好き』はさ、友斗先輩が昔会った男の子だから、みたいな。そーゆう過去のものじゃなくて、今の『好き』なのかな、って」


 物語でなら、運命の再会はとっても素敵なことだと思う。

 でも現実では――そんな過去から始まった、想いのせいで自分のことも相手のことも傷つけてしまう可能性がある。

 もちろん過去があるから今があるんだけど。でも、今は今、過去は過去だ。


「今の『好き』だよ。昔会ったのは事実だし、そのことを内緒にしておくのは違うと思ったから話した。でも昔会ったから好きになったわけじゃない。多分、好きになってもいい理由を一生懸命探して、ようやく最初に見つけられたのがそれだったってだけだから」

「そっか」


 やっぱりな、と思う。

 大河ちゃんは真っ直ぐだ。そう言ってくれるって信じてた。そーゆうところも、大好き。


「何それ。ぽえ――」

「お姉ちゃんも人のこと言えないでしょ。文化祭前日に逃げて、王子様に迎えに来てもらうとか一番少女漫画みたいなことしてるんだから」

「っ…………」


 お姉ちゃんはばつが悪そうにそっぽを向いた。

 うん、ほんとね。お姉ちゃんは年上ぶるしリアリストぶるけど、この中じゃ一番乙女なことされてるから。私も人のこと言えないけどさ。


「んっ。それで、雫はどうなの?」


 考えていると、お姉ちゃんが聞いてきた。


「もちろん私も好きだよ、大好き。一人の男の子として友斗先輩のことが大好きだし、親友や姉として、大河ちゃんとお姉ちゃんのこともだーい好き!」

「っ。ありがとう、雫」

「私も……大好きだよ、雫ちゃん」

「えへへー」


 友斗先輩とは両想いじゃないけど、ここの三人はばっちり両想いになれていた。もうこれ友斗先輩抜きで百合を形成した方がいいんじゃ……? と思えてくる。

 でもまぁ、それじゃ嫌なのは分かり切っていて。

 それくらいに友斗先輩に惹かれているから。

 だからこそ今日、こうして来てもらったのだ。


「それで、雫。大切な話っていうのは?」

「あ、うん。今から話す。私たち三人がしっかり両想いだって確認してからじゃないと言えなかったからさ」


 紅茶で口を潤して。


「二人に提案があるんだ。私たちの恋についての、大切な提案」


 変って思われちゃうかもな、とか。

 ズルいって言われちゃうかな、とか。

 そういうことを考えながら私は、言った。


「ハーレムエンドを目指さない?」

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