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【完結】 腐れ縁のセフレと小悪魔な後輩が義妹になったんだが、どうすればいいと思う?  作者: 兎夢
第三部 八章『亡者の国のアリスと恋人未満はサンタクロース
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八章#19 仕事

 来たる土曜日。

 俺は人を待っていた。こうしていると最近の俺は土日に外に出てばかりでインドア派らしからぬ行動をしてるよなぁ、と思ったりもするのだが、別にインドア派に誇りを持っているわけでもないので良しとする。

 それに今日は、別に遊びに来たわけじゃないしな。

 今日会う予定の人を待つ間、俺はこうなった経緯を回想する。



 ◇



 水曜日。

 生徒会の仕事を終えて家に帰ると、暫くして時雨さんから電話がかかってきた。メッセージではないことに謎の安堵を覚えつつ出ると、


『お父さんに話したら「友斗くんならぜひお願いしたいよ!」だって。すっごく嬉しそうだったよ』


 と開口一番に言われた。

 やっぱり嬉しそうだったのね……。あの人、俺のこと気に入ってくれてるもんなぁ。それはもちろん美緒や母さんのことで俺を心配してくれてるってことでもあるとは思うのだけど、それだけで留まらない溺愛具合な気もする。


「それならよかった」

『うんうん。それで、お父さんが早速一度会って話したいんだって。平日は仕事で忙しいからできれば土日がいいって言ってたんだけど、どっちがいいかな?』


 俺はふと考える。

 土曜日には、今週も大河が来る予定だ。翌日が休みだから泊まっていきやすいからな。そんなわけで土曜日は家にいてもいいのだが……。

 と思っていると、ちょんちょん、と肩が叩かれた。


「あ、雫。悪ぃ、今電話で」

「その話なんですけど。ちょっといいですか?」

「え、ああ……」


 雫は、なにか相談がありそうな顔で囁いた。一応玄関まで移動して話してたんだが……話している声は聞こえていたらしい。


「ごめん時雨さん。ちょっと相談したいからミュートにする」

『うん、分かった。気にしないで』


 そう言う時雨さんの声はどこかトーンの低いもののように思えたけれど。

 たまたまだろうと結論付けてミュートにし、雫に向き直った。


「ふぅ……電話の最中に別の女の子にちょっかいかけられちゃうなんて、まるで不純愛系のラブコメみたいですね」

「そんな爛れた人生を送る気はねぇよ」


 まぁ最近はラノベ界隈でもそっち方面がトレンドだったりするけども。

 って話がズレた。


「で、話って? つーかどこまで聞こえてた?」

「ん~、割と全部聞こえてましたよ。こう見えて私、けっこー耳いいんです」

「マジか」

「マジです。私に内緒でお電話したいときはイヤホンとマイクを使うことですね~♪」

「そんな必要が出るとは思えないけど参考にしとく」


 で? と雫に話すよう促すと、んんっ、と雫は大袈裟に咳払いをしてから口を開く。


「あのですね。土曜日って大河ちゃんがくることになってるじゃないですか」

「ああ、そうだな」

「そのときなんですけど、もし友斗先輩に外出する用事ができそうなら私たち三人っきりにしてほしいなぁ、と」

「えと。つまり、土曜に会ってこい、と?」

「簡単に言うとそーですね」


 あっさりと言う雫。

 だが、うーん……なんだか腑に落ちない。

 大河とは毎日会ってるし、そもそもこの家の家主は俺じゃないのだから絶対に居なくちゃいけないってわけでもないのだけれど。


「何を企んでるんだ?」

「酷くないですか?! ただ女子会したいなーって思っただけですよぅ」

「女子会ねぇ……」

「なんですか、その疑うような目」

「疑うっていうか、女子会って単語の胡散臭さに、つい」

「友斗先輩の女子会って単語への偏見の酷さの方がヤバいですからねそれ」


 自覚はしている。が、女子会ほど胡散臭い単語もなかなかない。

 そもそも『女子』と銘打って男子を排斥している時点でろくなものではないのだ。俺は小さい頃から男子ってだけで怒られることに理不尽を感じてたし。

 しかしまぁ、雫がそこまで言うのであれば、特別に嫌がるのもおかしな話だ。お菓子作りの約束もしてたし、単に三人で仲良くするだけだろう。


「澪と大河が一緒なのは大丈夫か?」

「………………ツッコミ役頑張るので大丈夫です」


 長い沈黙だった。


「まぁ、そういうなら。土曜日に会ってくるわ」

「りょーかいですっ!」


 びしっと敬礼をしてから雫はリビングに戻っていく。

 ある程度見送ってからミュートを解除した。


「もしもし」

『もしもし、聞こえてるよ』

「よかった。待たせてごめん。今、話してきた」

『うん……さっきのって?』


 時雨さんが探るような口調で言ってくる。

 誰の声か、ってことか?


「えっと、雫が来たんだよ。俺たちの話、聞こえてたらしくて」

『ふぅん……――だなぁ』

「ごめん、今なんて?」

『うん? 何のこと?』


 何か言っていた気がするんだが、勘違いだっただろうか。

 気にかかりはするが、問い詰めるほどのことでもない。


「ううん、気のせいならいい。それで土日のことなんだけど」

『うん。どっちがいいか、決まった?』

「決まった。土曜日でお願いできるかな?」


 これで断れたら、土曜日は適当に外をぶらつこう。

 そう思いつつ答える。


『えっと……うん、大丈夫だって。じゃあ時間とかの細かいことはお父さんとRINEで話してくれる? 忙しいから返信は遅くなってしまうかもしれないけど』

「あー、分かった。ありがとね」

『気にしないで。ボクはキミのお姉さんなんだから』


 それから数言交わし、電話は終わった。

 リビングに戻ると、ねぇ、と澪に手招かれる。おおかた何の用かは予想できたので、こくと頷き、


『部屋で話すぞ』


 と目ッセージを送る。雫に聞かれたくないのはこちらも同じだ。

 二人で俺の部屋に入るとすぐに澪が聞いてきた。


「さっきの電話、霧崎先輩でしょ。何の用事?」

「晴季さん……時雨さんのお父さんにバイトを紹介してもらうことになってな。その打ち合わせ」

「ふぅん……バイト、ね」


 澪は当然、修学旅行に纏わるアレコレを知っている。

 一瞬瞑目し、ん、と声を漏らした。


「怪しいには怪しいけど。怪しいバイトを紹介するわけはない、か」

「流石にな。晴季さんは信頼できる人だし」

「バイトを紹介することで何かを狙ってる……とか?」

「どうだろうな。どちらかって言うと、俺や大河を気遣ってくれてる感じではあった」


 と口にしてみて、ああそうか、と自分の中でも合点がいく。

 時雨さんがあの場であの提案をしてくれたのは、俺だけじゃなくて大河に気を遣ったからだったわけか。

 どういうこと? と澪が視線で問うてくるので、俺は生徒会室での話を説明する。

 俺がバイトをするって話をしたこと。大河が生徒会を手伝わなくていいと言い出したこと。結局俺は続けることになり、そこで時雨さんが口を挟んできたこと。


「――だから、大河が変にバイトのことを引きずらないよう、俺が求めてる条件のバイトを紹介したのかもしれない。もちろん、単に晴季さんが話してたのを思い出しただけって気もするんだけど」

「ふぅん……?」


 澪の眉がぴくりと動く。

 口もとに手を添える澪。しかし、答えは出ないようだった。


「トラ子と友斗に優しいだけ、って気もするし。まだ分かんない」

「だよなぁ……」

「ん。ま、とりあえず行ってくるしかないでしょ。探れることがあるなら探ってきてほしいし、そうじゃなければ普通にバイトの話、してくれば?」


 だな、と頷く。


 斯くして俺は、土曜日に晴季さんと会うことになったのだった。



 ◇



 ――そして土曜日。


【ハルキ:ごめんね。少し仕事で忙しくて遅れてしまった】

【ハルキ:今から行くから、もう少し待っていてくれるかな?】


 待ち合わせ時間から30分ほどが過ぎて、晴季さんからRINEが届いた。

 土曜日も平気で仕事なんだなぁ……仕事って大変だわぁ……と父さんと義母さん以外の勤め人が大変そうにしている姿を垣間見て、しみじみと思う。


 ま、編集者も大変だって聞くもんな。晴季さんが所属してるレーベルは月末発売だからいいが、月の初めに発売のレーベルだと12月下旬に1月刊を発売したりもするらしいしな。そうじゃなくても年末進行は大変だ、ってよく聞く。


 駅前で時間を潰していると、やがて改札から晴季さんの姿が現れる。


「やあ友斗くん! 元気かい?」

「おかげさまで。晴季さんも、お仕事の後にご足労いただくことになってしまい、すみません」

「ううん、気にしないで。友斗くんに会いたかったからね!」


 それに、と晴季さんは楽しそうで大人っぽく笑う。


「今日は、これも仕事だと思っているから」

「そう、ですね……よろしくお願いします」


 仕事――そうか、仕事だ。

 俺はぐっと気を引き締めた。

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