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【完結】 腐れ縁のセフレと小悪魔な後輩が義妹になったんだが、どうすればいいと思う?  作者: 兎夢
第三部 八章『亡者の国のアリスと恋人未満はサンタクロース
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八章#18 時雨さんとバイト

 晴彦とバイトについて話した日の放課後。

 昨日大河が告げていたように、今日は学級委員会を開催することになっていた。バイトのことを考えたかと思えば、こっちでも仕事って……我ながら結構アレだよな。


 アレがどれなのかは分からないし、考えたくもないのだけれど。


「友斗せんぱ~い。私って書記として何やればいいんです?」

「ん? ああ、じゃあ前と同じくこれを適当に埋めといてくれ」

「りょーかいです!」


 会議室で話を進める準備をしていると、雫が俺に聞いてきた。

 忘れがちだけど俺、学級委員長でもあるわけだしな。雫は書記だし、澪は副委員長でもある。ま、学級委員全体が生徒下部組織であるため、三役はそれほど大切じゃない。特に冬星祭は、学級委員の仕事も少ないし。


 それでも一応活動記録を雫に渡すと、ぐっと元気のいいサムズアップを見せて席に戻っていく。

 元気がいいのはよきことかな。


「友斗、私は?」

「ん……今日は特にないかな。当日は手を借りるだろうけど」

「了解。じゃあ、座っとく」

「おう」


 遅れてやってきた澪に答える。

 逆に当日は学級委員の仕切りをお願いするつもりだが……まぁ、その程度なら澪もできると思う。スペック的には問題なさそうだし。

 そんなことを考えていると、澪は俺の隣にいた大河に目を遣った。


「で、トラ子はなんでいるの? 生徒会長って時間ぴったりに颯爽と現れるものだと思ってたんだけど」

「それは……」

「あー」


 澪の指摘に、俺も大河も苦笑する。

 時雨さんはいつもそうだったしね……時雨さんに合わせて、他のメンバーも時間ぴったりにくることが多かったし。

 だが当然、時間ぴったりに来なくちゃいけないってルールはない。


「それは霧崎先輩の流儀なので。私は私のやり方があるんです」

「ふぅん?」

「なにか?」

「別に。トラ子らしいって思っただけ」

「悪意を感じる言い方ですね……」

「失礼な。一割くらいしか混ぜてないよ」

「一割は混ぜてるんじゃないですか?!」

「混ぜるでしょ。だってトラ子だし」

「そもそもトラ子ではないですから!」


 こいつらはまったく……。

 澪が大河のことを悪く思ってないのも知ってるから、ついつい微笑ましくて頬が緩んでしまう。

 とはいえいつまでもケンカさせておくわけにいかないので、こほん、と咳払いをした。


「そうやって流れるようにケンカをするんじゃねぇ。もうすぐ時間だぞ」

「む……分かってるし」「もちろん分かってます」


 と言って、澪は席につき、雫と話し始める。

 こちらも、大河と打ち合わせを再開した。最終チェックをきちんとやっておきたいしな。


 そうこうしていると、やがて定時になり、学級委員会が始まる。



 ――ちなみに。

 時雨さんは時間ぴったりに会議室を訪れた。

 そうやって注目を集めるのやめてね?



 ◇



「――と、冬星祭の説明は以上で終わりです。何か質問がある人っていますか?」


 資料を配布し、30分ほど説明をして。

 学級委員会は幕を下ろした。

 冬星祭の説明の後にミスターコンの説明もしたからだろう。少し浮ついた空気が漂っている。とはいえ話が通らないほどではないため、俺は構わずに続けた。


「じゃあないってことで。今日は解散で大丈夫です。適宜相談なり質問があれば俺か、もしくは生徒会によろしくお願いします。ミスターコンの申請は来週の月曜日放課後までなのでよろしくお願いします」


 はーいとかうっすとかバラバラな返事ののち、学級委員会は散り散りになる。

 ミスターコンへの反応は、思っていたよりも好意的なものが多かった。散っていく学級委員の中には雑談の話題としてそのことを話している人もいるし、ひとまずは安心していいだろう。

 まぁ問題はこの後なんだけどな……参加者が集めるのが大変だし。


 全員を追い出し、会議室の鍵を閉めた俺たちは、当然のように生徒会室に戻った。学級委員に説明して終わり、とはならないのが生徒会の悲しいところである。

 さて仕事を再開するか、とパソコンを起動している間、ふと思い立って俺は口を開いた。


「なぁ大河。確認しときたいんだが、今回って土日にやらなきゃいけない仕事ないよな?」

「え? ええっと……」


 もちろん俺も全体の仕事は把握している。だが大河にも確認しておく必要はあるだろう。

 大河はファイルに挟んである資料をぺらぺらとめくってチェックし、こくこく、と頷いた。


「おそらくないと思いますけど……どうしてですか?」

「え、いや。えっと」


 どうして、って聞かれると答えにくい。

 俺が今からバイトを入れられるとすれば土日くらいだと思ったから聞いたのだが、大河にそれを言うのもなぁ……。

 少し迷うが、隠し事をして変に勘繰らせてしまう方がよくないと思い、素直に口を開く。


「バイトしようと思ってな」

「えっ……バイトですか」

「ああ。ほら――」


 と、晴彦に話したように修学旅行での一件について伝える。

 クリスマスプレゼント云々の話は言わない。隠し通せるとは思ってないけど……なんかこう、恥ずかしいし。せめてこういうことくらいはサプライズしたい。

 そうして伝え終えると。

 大河の表情は――翳った。


「……すみません。そういうことなら、あまり生徒会のことで頼るのはよくないですよね。甘えすぎていました」

「ん……? どうしてそうなる? バカなのか?」


 翳りの理由は、あっさりと判明する。

 こいつ、この期に及んでそこ気にする? 律儀すぎない?

 俺が呆れて言うと、大河はムスッとした顔で答える。


「バカではありません。実際、ユウ先輩に頼りすぎていたのは事実ですし。ユウ先輩が毎日放課後に働く義務なんてないんですから、やりたいことがあるのでしたらそちらを優先してください」

「あのなぁ……? 俺は既に庶務だから義務が発生するし、よしんば義務が発生しなかったところで、こっち投げ出して好きなことやるわけないだろ?」


 もちろん、大河の言いたいことは理解できるし、俺が大河の立場なら同じことを考えたかもとは思う。

 だが、それはそれ、これはこれ。

 大河の提案に乗って生徒会の方を投げ出したら本末転倒だ。

 それこそ『賢者の贈り物』のように。

 あれは決して夫婦が愚か者だ、って話ではないが、俺はああなりたいとは思わない。というか、そういうやり方がダメだってことも父さんと義母さんの説教には含まれてたわけだし。


 何でもかんでも自分を擲てばいいわけではない。

 だからこそ、擲つものを選別するのだ。


「そういうことなら……いいんですが」

「ならいいんだ。はい、この話は終了。バイトは校則で禁止されてるわけでもないし、別にいいだろ?」

「まぁ……でも、無理はしないでくださいね」

「分かってる。そもそもまだ見つかってないからどうなるかも分からんしな」


 サイトを見ても、イマイチしっくりくるものがなかったからな。

 もうちょいじっくり考える必要がある。だが考えてばかりってわけにもいかないのが辛いところだな。クリスマスまで、あと20日ほどしかない。

 どうしたものかなぁと考えていると、


「そういうことなら、ちょうどいい話があるかもしれないよ」


 と時雨さんが言った。


「ちょうどいい話?」

「そうそう。お父さんが仕事の関係で人を探してて。それなりに優秀で、信頼できる人がいないかなぁってぼやいてたんだよね」

「晴季さんが?」


 時雨さんは首を縦に振る。

 大河は不思議そうに俺を見た。大河は俺の親戚のこと、ほとんど知らないもんな。


「晴季さんの仕事って……編集者だよね?」

「うん。今はちょうど、ライトノベル部門で働いてる」

「なるほど。あれ、でも編集のバイトとかって平日から普通に働く想定のやつだよね?」


 俺も薄っすらと興味があったので、実はその手のバイトについては調べたりしていた。だが平日の朝から夕方まで働くような想定の仕事がメインで、俺が求めているバイトとは少し違った。

 しかし、時雨さんの話はそれとは事情が異なるらしい。


「うーん……それが、ちょっと違う感じでね。下読みって言えばわかるかな?」

「あー。うん、分かる」

「新人作家さんに任せたりもしてたんだけど、今年は応募総数が多そうだから難しいみたいで。ああいうのって下読みバイトをわざわざ募集してないから、親族とかに声を掛けたりするんだよね」

「へぇ」


 そういえばそんな話を聞いたこともあるような、ないような。

 完全に理解できたわけではないが、俺にとってはこの話はかなり都合がいい。晴彦も夏休みや冬休みに親戚の伝手で仕事を貰ったと言ってたし、そっちの方が安心できる気もする。


「その話、ちょっと興味あるかも。後で詳しく聞かせてくれる?」

「うん、分かった。じゃあまた今度ってことで。とりあえずはこっちの仕事をしよっか」

「だね」


 ひとまず話はここまでだ。

 晴季さんか……あの人かぁ……と苦笑しつつ、俺はパソコンに向き合った。

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