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七章#05 ランチ

『新生徒会長が決定しました! 今回の生徒会長は……真面目すぎるかも? 今後も生徒会役員でサポートしながら、みんなでより楽しい学校生活になるよう頑張ります! さしあたっては球技大会かな泣』


 やや頭の緩い文を打ち込み終えると、電子の海に投棄した。言わずもがな生徒会のSNSアカウントだ。いずれは一年生の新人のどちらかに引き継ぎたいと思っているが、流石にすぐには無理なので今なお俺が運営している。


 昼時ということもあってそれなりの反応を得られていることに心の中でガッツポーズをしていると、なぁなぁ、と隣から声をかけられた。


「友斗って今日は一緒に食えるよな? それとも昨日みたいに仕事がある感じ?」


 未だに席替えをしていないため、こんな風に声をかけてくるのは一人しかいない。

 八雲の問いに、あー、と曖昧な声を漏らしながら脳内スケジュールをチェックする。


 昨日は生徒会の引継ぎ準備があり、昼休み丸ごと生徒会室で過ごさざるを得なかった。それは如月も同じこと。

 ぶっちゃけてしまうと今も球技大会やら生徒総会の準備があるので、昼休みに生徒会室に入り浸ってもいいのだが……まぁそこまで焦ることもあるまい。大河も何も言ってなかったしな。


「いんや、今日はオフだから食う。如月と二人っきりがいいって言うならやめるけど」

「あら。そんなこと言って、実は澪ちゃんと二人っきりになりたいだけなんじゃないの~?」

「違うっつーの。これでも俺は、二人が選挙のせいでギクシャクしてないかと心配を――って、如月。もう来てたのか」


 俺と八雲の間に入り、にやーっとからかうような笑みを浮かべる如月。

 眼鏡の奥には、選挙のときのような意味ありげな色は見えない。自然に、ほぅ、と溜息が零れた。


「もう来てたのかって、冷たいわねぇ。澪ちゃん、どう思う?」

「さあ。それよりもお腹空いた」

「澪ちゃんも冷たい⁉ やっぱり一度裏切るとヘイトが高まるのね……」

「久々に戻ってきたノリにただエグイなって思ってるだけだから」

「もっと酷かった!」


 澪の淡泊な呟きに、如月は軽い絶叫じみたツッコミを入れる。うん、まぁそういうとこだと思うよ。俺も久々の如月のノリにちょっとついていけないもん。

 むしろ如月とずっと一緒にいられる八雲がすげぇな……と思って見てみると、八雲はにやにやと嬉しそうに笑っていた。


「なぁ八雲。彼女を見てにやけるのは結構だが、もうちょっと抑えてくれるか? イケメンが台無しだから」

「理由がしれっと酷いんだよなってツッコミはあえてしないけど。別にそーゆう意味でにやけてたわけじゃねーって」


 八雲は四人分の机を動かして一緒に食べられるようにしながら、にかっと快活に笑って答える。


「ただこーゆうのが戻ってきて嬉しいなーって。青春っぽいだろ?」


 それはクサくて、ダサくて、アオい台詞だったけど。

 そうだな、と心から頷けてしまうものだった。

 まったくだ。こういうのは、最高に青春っぽい。まぁ今日までの色んなものも、十年後には青春っぽいと言えてしまうのかもしれないが。


「うわ。友斗が照れてるし。友情方面での防御力が弱いの、どうにかしたら?」

「もうちょっと浸らせてほしいんだよなぁ……元ぼっち同士、気持ちは分かるだろ?」

「え、いや普通に分かんないけど。あとお腹空いたから早く」

「はいはい分かった分かった! さっさと食べるぞー」


 ずばずばと言う澪に苦笑しつつ、俺は弁当を広げる。今日の料理当番は澪だ。昨日の栗ご飯は残らなかったため、のりたまご飯と和食テイストの弁当になっている。

 四人でばらばらに「いただきます」と言って、食べ始めた。やっぱりだし巻き玉子うめぇ。澪のだし巻き玉子めっちゃ好きなんだよな……。


 ふと見遣り、八雲と如月の弁当のメニューは同じであることに気付く。八雲は料理できないって言ってたし、如月が作ったのだろう。八雲が幸せそうに食べている。


 暫く食べ進めたところで、八雲が、そういや、と話を切り出した。


「球技大会ってどーなったん? ほら、放課後に野球やるとかって話してたじゃん?」


 球技大会は、今回の討論会のテーマとなった行事である。基本的には体育科の先生が主催して生徒会が手伝うことになっているのだが、討論会の結果、ちょっと事情が変わってきたのだった。

 俺は如月と顔を見合わせ、うへぇ、と顔をしかめる。


「その話なら、一応は討論会で話したようにやることで決まったぞ。つーか、先生たちの方がやたらと乗り気でな。授業でやる方の球技大会のスケジュールを見直して、なるべく無駄な時間がないようにしてくれてる」

「おお、すげーじゃん! え、じゃあなんで白雪も友斗もそんな嫌そうな顔してんの?」

「話がでかくなったせいでやらないといけないことが増えてるんだよ」


 肯定の意を示すように如月は、はぁぁ、と悩ましげな溜息を漏らした。


「考えてみると、ただでさえこっからの生徒会は忙しいんだよな。引継ぎが終わったらすぐに生徒総会の準備だし。その間に二年生は修学旅行もあるわけだし。それが終わったら冬星祭で、その根回しだって水面下で進めておきたいし」

「しかも今年は生徒総会で庶務創設の話をしなくちゃいけないのよねぇ~」

「ほんとそれ。あんだけ大変だった選挙の後で休む暇がないとか最悪すぎる」


 知れず、自分の声が陰鬱なものになっていた。如月と共にうんうんとと強く頷き合っていると、八雲も枯れた笑みを漏らす。

 そんななか、俺たちの苦労なんてお構いなしにぱくぱく昼飯を食べ進めていた澪が、それって、と何気なく呟いた。


「会長を争ってやりすぎた結果、手に負えない規模の問題を自分たちで生み出したってことでしょ? 完全に自業自得じゃん」

「澪ちゃん、容赦ないわねぇ……事実すぎて何も言えないわ」


 それな。

 本当に、澪の言う通りだ。如月もも俺も大河も、選挙に注目しすぎて終わった後のことを考えてなかった。時雨さんは考えていたんだろうけど、あの人は無茶の二文字を知らないので考えていてもあまり意味がないのでノーカンだ。


 そんなときでも、だし巻き玉子だけが癒してくれる。めっちゃ染みるわぁ。どうしてこんな優しいものを作れるのに、当の本人は鋭利なナイフみたいなことを言うん?

 と、思っていると。澪はこちらを見て、真っ直ぐに告げてきた。


「ま、無理はしないことだね。友斗が無理したところで何もいいことないんだし、困ったらあの会長に任せればいいじゃん。あの子なら寝ずにやるでしょ」

「どうして俺を心配してくれるだけで止まれなかったの? そんなに大河が嫌い?!」

「嫌いに決まってるじゃん」

「素直!」


 その割に〈水の家〉では俺や雫以上に大河と話している気がするんですけど、それはツンデレってやつじゃないんですかね。

 ……なんてことを言おうとしたら本気で睨まれたので、口を噤んでおいた。触らぬ神に祟りなし、である。


 そこで球技大会の話は終わりになり、また別の話に移る。

 くだらない雑談ばかりをしているとあっという間に昼休みは終わった。弁当を片付けていると、教室に戻りかけた如月に名前を呼ばれた。

 ん? と首を傾げると、如月はちょっと照れたように笑ってから言ってくる。


「この前はありがとう。百瀬くんのおかげで、間違えずに済んだわ」

「……そか。別に如月が会長になるのも間違いじゃなかったと思うけどな」

「ふふっ、それはそうかも」


 でもね、と眼鏡の位置を戻しながら如月は続ける。


「それでもこれが正解だと思う。だから……仲直りしてくれるかしら?」


 その言葉が体をとても軽くしてくれた気がした。俺はふっと破顔し、そうだな、と答える。


「副会長として馬車馬の如く働いてくれたら、な」

「そうねぇ~。大河ちゃんにも嫌われたくないし、新しい子たちにもいいところ見せたいし、頑張るわよ。百瀬くんほどではないけれどね」

「いやそこは俺より頑張れや正規メンバー」

「嫌よ社畜なんて」

「えぇ……」


 そういう見たくない現実を突きつけないでくれますかね。

 口の中に広がる苦みは、ちょっとくすぐったかった。

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[気になる点] 「なぁ八雲。彼女を見てにやけるのは結構だが、もうちょっと抑えてくれるか? イケメンが台無しだから」 にやける(若気る) 男性が女性のようになよなよとして色っぽい様子。 鎌倉・室町時…
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