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五章#20 白銀の妖精と金色の獅子(守)

「まずは……時雨さんだな。待ち合わせ場所は生徒会室だとよ」

「了解です」


 タブレットを見ながら俺は言う。

 本日の取材対象者にはみな、如月がアポを取りに行ってくれた。取材場所で写真を撮るため、その場所は基本的にあちらに決めてもらうことにしている。

 分かりやすい例で言うと、バスケ部の女子が体育館を指定してきたり、といった感じ。若者の文字離れが騒がれる今、写真だけでズンっとインパクトを与えるためにはそういう計算も必要になってくるのだ(評論家風)。


 しかし、生徒会室ねぇ……。

 時雨さんにセレクトには、『別に飾らなくても私は1位取れるでしょ』という自信を感じる。実際にはそういう嫌味なものではなく、『取れなかったら取れなかったで大歓迎』くらいなんだろうけど、大抵の奴はそうはとらないだろうな。

 何しろ生徒会室はただの教室よりちょい小さいだけ。特別なものはないし、廊下側のプレートに『生徒会室』と小さく書かれている以外にはそれっぽさなどないのだから。


「時雨さん、いる?」

「お、よく来てくれたね! 大河ちゃんもキミも、ご苦労様」

「あ、ありがとうございます。霧崎会長もお疲れ様です。今日はインタビュー、よろしくお願いします」

「うん、よろしくね」

「……大河。直属の上司と対応が違い過ぎると思わないか?」

「さぁ。妥()な判断だと思いますが」

「妥当の『当』を『十』と見てまで強調したいのかよ!」


 どう見ても無理がある大河語法は、まぁこの際置いておくとして。

 いつも通り生徒会長の椅子に腰をかけた時雨さんに出迎えられ、そのまま俺たちもいつもの席につく。

 今日の生徒会室には俺たち三人だけだ。というかそもそも最近は生徒会室で腰を落ち着ける暇がなかった。学級委員とやることが繋がっているため、隣の会議室で作業してばっかりだからな。


 大河がいつものようにコーヒーを入れてくれたところで、ふぅ、とひとごこちついた。

 いっそこのままダラダラ喋っていたい。入江先輩のところ行くの怖いよぉ……ただでさえ文出会から間を空けることで対立構造に薪がくべられまくってるのに。


「こほん……じゃあ時雨さん。インタビューを始めるよ」

「うん。どんな質問がくるのかな? 楽しみだよ」

「そ、そう……」


 この余裕が流石すぎる。大河と顔を見合わせて苦笑し、質問に移る。


「まず、どうして今年のミスコンにエントリーしたのかを教えてください」

「うーん、そうだなぁ……一言で言うと、楽しそうだから、になるかな。ボクは刹那主義で快楽主義だから、楽しいことに目がないんだ。うちの学校のミスコンは規模自体はそこまで大きくないけれど……盛り上がるでしょ?」


 体育祭と七夕フェスを経て、時雨さんのそういう性格については大河も理解し始めている。こくこくと相槌を打つ大河を横目に、俺はタブレットに時雨さんが言っていることを打ち込む。一応録音はしてるが、別に打ち込みながらでも速度は変わらないしな。


「あ、けどもちろん毎年応援してくれる子に応えたいって気持ちもあるよ。思いには報いたいからね」


 朗らかな笑みが零れる。

 こういうところ、時雨さんはそつがない。大河には真似できないだろうな、と思いながら、次の質問を口にする。


「じゃあ次は自己PRをお願いします。自分の長所や短所、特技などなど、自由にどうぞ」

「長所はやっぱり、楽しいことには一生懸命になれることだね。短所は一生懸命になりすぎちゃうところ。そういうとき、みんなに支えてもらってるなって実感するよ」


 しれっと周りをあげることで好感度アップしてくるあたり、時雨さんのカリスマ性がうかがえる。

 その後も幾つか質問を繰り返し、10分ほどが経って最後の質問に辿り着いた。


「時雨さん、最後の質問だよ。こほん……会長と同学年の入江恵海さんは、一昨年から1位、2位を競っていますね。先日の文化祭出店会議では入江恵海さんから二冠を宣言されました。意気込みなどがあれば教えてください」


 かなり踏み込んだ質問。

 されど、時雨さんは微笑と共に答えた。


「入江さんとは二年間、切磋琢磨してたけど……一昨年も去年も、ボクのライバルは参加してくれる子みんなだよ。楽しむためにも、出るからには負けるつもりはない。それは入江さん相手でも、他の子が相手でも同じ」


 たとえば、そう。

 不敵に口角を上げて、


「一つ下の学年の綾辻澪さん、とかね」


 全員がライバルだと宣いながら。

 入江先輩が特別ではないと嘯きながら。

 他の参加者()を狙い打つように、言った。


「最後のところ、記事に載せても?」

「キミに任せるよ。或いは、キミたちに」


 月の光を編んだような銀髪を靡かせて。

 時雨さんはそう、意味ありげにインタビューを締めくくった。



 ◇



「……なんというか。霧崎会長って、本当に凄い方ですね」


 時雨さんへの取材を終えて。

 次の取材対象との待ち合わせ場所である演劇部部室まで向かう道中、大河は呆けたように呟いた。

 手元には先ほど撮った時雨さんの写真。

 生徒会室の窓を背に、儚げで頼もしく、自由で力強い印象のある一枚になった。写真は一人三枚まで使っていいことになっているのだが、時雨さんは一枚で充分だそうだ。


「そうだな。時雨さんは本当に異次元の人だぞ。俺なんかより数倍高スペックだし、そもそもカリスマ性が違う」

「ですね。今までも何となく感じてはいましたが、こうして話を聞いて強く実感しました。敵わないなって思います」

「ほんとそれ。俺も時雨さんには敵う気がしない」


 でも、と俺は区切るように言う。


「こっから二人は、その時雨さんに勝とうとしてるわけだからな。特にお前の姉ちゃんは、本気で勝つつもりだ」

「……分かってます。だからインタビューも手を抜くつもりは――」

「ばか、そういうことじゃねぇっての」


 クソ真面目になりかけていた大河の頭を、こてん、と小突く。

 不服そうに首を傾げる彼女に、くすっ、と俺は笑った。


「そんな相手のケンカを買ったまま三週間近く放置してるから俺のこと守ってねって話」

「……百瀬先輩。そういうところがカリスマ性が足りない原因では?」

「緊張してる誰かさんをリラックスさせるためのジョークだって気付いてねっ?!」


 まぁ4分の1くらいは本気なんだけど。

 そうこう話している間に演劇部の部室に到着する。一見すると時雨さん同様にパッとしないようにも見えるが、演劇部の部室に入るとそんな考えはすぐに霧散した。

 何しろ演劇部の部室は、他の教室とは違う。なにしろ旧音楽室を使っているんだからな。


「失礼します。ミスコンの取材に来たのですが、入江先輩はいらっしゃいますか?」

「あ、お疲れ様です! すぐに呼んできますね」

「お願いします」


 演劇部の部員らしき人が入江先輩を呼びに行ってくれる。

 隣を見遣ると、大河の頬は少し強張っていた。

 俺のくだらないジョーク程度じゃどうにもならんか。ま、本人が口にしない以上、過度に気にするべきではない。


 しばし待っていると、やがて入江先輩がやってきた。

 どうやら練習中だったらしく、なんだか他の人たちがバタバタとしている。


「ごめんなさい、お待たせしたわね」

「いえ。こっちこそ、練習中にお邪魔してしまったみたいで」

「いいのいいの。こちらが勝手に始めただけだから」


 それにしても、と入江先輩は見定めるような鋭い視線をむけてくる。

 俺と大河を行ったり来たりした後、ふぅん、と入江先輩は鼻を鳴らした。


「大河はいいパートナーを見つけた……のかしら?」

「……っ。姉さん。そういうことは」

「おっと、ごめんなさい。久々に話せたからテンションが上がってしまったわ」


 なにこの意味ありげな会話……俺、ここにいていいんですかねぇ。


「ええっと……君、名前はなんと言ったかしら。私にケンカを売ってきた子だとは覚えているのだけれど」

「百瀬友斗ですし、そもそもケンカを売ってきたのは入江先輩ですからね?」


 だいたい、あんたは大河に色々と俺の話を吹き込んだよな……?

 そのせいで三股疑惑をかけられるに至ったんだからな、と春頃のことを思い出して苦笑する。


「あらそうだったかしら? まぁいいわ。そんなこと、些細な問題だものね」

「さいですか。……はぁ。じゃあ、インタビューを始めても?」

「えぇ。よろしくね、記者クン」


 雌獅子の如き笑みを見て、如月が『書記ちゃん』と呼ばれるのを嫌がっていた理由を、何となく理解できた気がした。


 素直に怖いっす……。

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