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五章#14 学級委員と文化祭

「せーんぱいっ! お久しぶりです!」

「久しぶりでもなんでもなく家で会ってるんだよなぁ……朝は一緒だったし、昼も一緒に食っただろうが」

「むぅ……それはそうですけど! でもほんぺ――」

「それ以上言ってはいけない」


 俺たちより少し遅れて、雫が元気よく会議室にやってきた。

 既に3分の2ほどが席についているが、特に気にする様子はない。まぁ定時にならなきゃ始めないし、定時まではも少しあるしな。


 それにこうして学校で先輩後輩らしく話すのは久々だし。

 それは大河も同じだけど、ということは考えるのはやめておく。


 ぴかぴかな笑顔を見ると、心がすぅと軽くなる。同じクラスのギャルに酷い罠にかけられたからだろうか。多少小悪魔でからかってきても、雫に安らぎを覚えてしまう。


「なぁ雫……俺はもう、末期かもしれない」

「先輩……ねぇ大河ちゃん、先輩に何があったの?!」

「さ、さぁ。ごめんね。私にもよく分からない……というか百瀬先輩、こっちの方の仕事をやっていただきたいんですが」

「くぅ……分かってるよ。やりますやります! 全て達成感のためですもんねぇ!?」

「うわっ、先輩がやさぐれて面倒な感じになってる」

「別にやさぐれてはねぇよ……はぁ」


 くしゃっと髪を掻きながらも、しかし本当にやさぐれてはいない。忙しいことには忙しいが、今回は時雨さんがフル稼働してくれてるおかげで学級委員会としての仕事は少ないしな。


 歌詞のことだって、まぁ別にめちゃくちゃピンチというわけではない。なるようになるだろ。伊藤が修正してくれるって言ってたし。


 なんて考えていると、雫がくすっと微笑んだ。

 雫はちょいちょい、と手で合図をしてくる。しゃがめ、ということらしい。

 何故に……?

 首を傾げつつその場でしゃがむと、


「よしよし、よしよし、です」

「なっ……」

「し、雫ちゃん!?」


 満足げに頭を撫でてきた。

 さわ、さわ、と優しい手つき。こんな風にされた経験はほとんどないため、くすぐったくて堪らない。


「ふっふー、今のはポイント高かったですよねっ?」

「……ポイントの高低を考えられるほど余裕がなかったな」

「むぅ。そーやって誤魔化して! 顔、にやけてますよ?」

「――っ!」


 くっそぅ、見事に攻められまくってるじゃねぇか……っ!

 当の雫はめちゃくちゃ勝ち誇った笑みを浮かべてるし。舌出してべーってすんな、その舌引っこ抜くぞ。


「ふふ~ん♪ 私、そろそろ座ってますね。書記の仕事ってありますか?」

「……これだけ、書いといてくれればいい」

「りょーかいです!」


 鼻歌混じりに自分の席に着く雫。

 その隣にいるどっかの誰かさんからのキンキンに冷え切った出来立て氷のような視線はあえてスルーの方向で行くとして。


「な、なぁ大河」

「……どうなさいましたか、百瀬先輩」

「自分のやろうかな、みたいな感じで迷うのはやめとけ。大河のキャラじゃないから」

「…………そんなこと百々承知してます」

「なら何故頬を膨らませる」

「~~っ。そんなの」


 と言って、そこで周囲の目があることに気付く大河。

 ぐぬぬ、と初対面の相手を威嚇する仔犬のような顔をすると、スマホを取り出して見せてくる。


『好きだからに決まってるじゃないですか。私だって可愛いって思ってほしいです』

「~~……っ!?」


 あー、ったく。

 どうして雫も大河も、こうも一瞬のうちに色んなものを取り返してくるのかねぇ。

 むき出しの好意を受けて、でもそれに辛さや怖さを感じていない自分が少しだけ誇らしい。

 俺は確実に変わっている。そう、実感できるから。


「一緒にいるのにスマホを使っていたら誰だって気分を悪くするんじゃなかったっけ?」

「…………百瀬先輩ってそういうところありますよね」

「今のは大河が悪い。つーか、いい加減準備するぞ。こっからは上司と部下だ」

「了解です、百瀬先輩」


 こつん、と二人でグータッチをして。

 俺と大河は、少し真剣な方向に頭を切り替えた。



 ……だから澪さんや、その冷たい目はやめてね?



 ◇



「えー、それでは学級委員会を始めます、っと。今回は見てもらえば分かるけど、生徒会の人とも基本的に一緒になって行うことになってる。その辺は体育祭より楽だから安心してほしい」


 学級委員会が始まり、まず俺はそう口火を切った。

 学級委員の仕事量を懸念してたであろう生徒たちは、ほぅ、と安堵の息を漏らす。まぁ当然と言えば当然だ。学級委員はどうしたってクラスの出し物の方でも中心人物になりやすい。なるべくこちらの仕事は少ない方がいいはずだ。


 それは俺だって分かるし、時雨さんはもっと分かっている。

 そのため以前も述べたように、きちんと対策はした。


「で、今回の進め方だけど。どこのクラスも学級委員がクラスの出し物に関わってると思う。だから生徒会長と話し合って、今回は各クラス一人だけこっちに来てもらうことになった」


 おー、とチラホラと声が上がる。

 大河に合図を出し、各学年一枚ずつ名簿を配ってもらう。そこには学級委員全員の名前が書いてある。


「今から各クラス、どっちが運営の方に回るか名簿にチェックを入れてほしい。引継ぎとかで混乱を招きたくないから原則は交代不可で。何かあったら俺か、もしくは生徒会の誰かに相談してほしい。報連相で行こう」


 こくこく、と首肯が返ってくる。

 名簿が各学年に回ると、それぞれのクラスの学級委員が話し合いをし、各々にチェックを入れていく。もちろんうちのクラスは俺がこっちだ。

 全クラスがチェックをしてくれたところで名簿を回収。

 ふむ……残るメンバーを見て、やっぱりか、と思った。文出会の資料を確認して予め誰か残るのか見当はつけていたが、概ね当たったようだ。これなら恙なく進めていけるだろう。


「じゃあクラスの方をやるメンバーは、今日はもう帰って大丈夫だ。俺たちの分もクラスの方に力を入れてくれると嬉しい。一緒にいい文化祭にしよう」


 各クラスの出し物に関わる説明は既に文出会で済ませているので、クラス担当のメンバーは解散ということにする。

 それぞれ『お疲れ様』とか『頑張って』とか言い残し、該当者が会議室を出る。


 残った半分のメンバーを見渡して、さてと、と話を進める。


「もしかしたらこの中に人数が少なくなった分体育祭よりヤバいんじゃって思う人がいるかもしれないけど……そこは安心してくれていい。ちょっとだけ大変になるだけだから」

「学級委員長の『ちょっと』とか信用ならねー」

「それ! まぁ文化祭のためだしやるけど」

「縁の下の力持ち感あってかっこいいし」

「うんうん、好意的な意見をありがとう。そいじゃ説明を始めていく」


 こうやってラフに意見を出してくれるということは、それだけ学級委員の中でも結束力が生まれているということだろう。この前の体育祭も結構キツかったもんなぁ……。


 仕事量で言えば文化祭や冬星祭の方が多いけれど、体育祭の方が大変に感じたりする理由がここにある。一度結束してしまえば、所詮は学校のことだからな。どうとでもなるのだ。


「えー。役割は保健、用具、会計、広報、舞台統制の五つ。具体的な役割は――」


 具体的な役割は以下の通り。

 保健は食品関連の手続きを行う。まぁ該当クラスが出す書類のチェックだけだ。

 用具はその名の通り物品の管理。学校から貸しだされるものもあるから、その辺を管理する。

 会計も同様。各クラスの書類のチェックだけ。

 広報だけは特別。とはいえHPの管理等はこちらで行うので、近隣の中学校やコンビニなどにポスターを貼りに行くだけでいい。

 舞台統制は舞台で発表を行う団体を統制するのが仕事だ。基本は書類処理、本番が近づくにつれて練習場所の許可を出したりリハを仕切ったりする。


「あれ……意外と簡単じゃね?」


 誰かが言うが、まさにその通りだった。

 そう、さほど複雑なことはない。


「まぁ簡単なんだけど……書類が馬鹿みたいに多いんだよ。それに加えてもう一つ、ここにいるみんなには頼みたい仕事がある」

「頼みたい仕事?」

「そう。……それは俺じゃなくて会長からの方がいいか」


 時雨さんをチラと見遣り、場所を交代する。

 ごくり、と息を呑んで真剣な空気になる学級委員たち……いや俺のときも同じようにしろよ、とは思うけども。

 時雨さんは満を持して、もう一つの仕事を口にした。

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