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四章#32 海!2

「――で? 他の三人はどうしたんだ?」

「あー、荷物を運んできてます。なんか用意してくれたものが三人くらいで持たないと大変そうだったので。私は皆の荷物を持ってくることにしたんです」

「なるほど」


 確かに、雫も一人分とは思えない荷物を持っている。バッグ二人分ともなると重いだろう。置き場所を作るためにも、俺はさっさとレジャーシートを敷いてしまう。


「日差しも少ないし、人も少なそうだからな。この辺でいいだろ」

「ですね。じゃあ置いちゃいます」

「おう」


 念のためパラソルも持ってきたので立てるが、こちらは小さい。レンタルしたいというお客さんも多いらしく、海の家でもパラソルは貸してもらえなかった。

 とりあえず荷物が日差しに当たらないように移動し、ふぅ、と一息つく。


「けど、悪い。そういうことなら俺が運ぶのやればよかったな。重いものだとは思わなかったらか」

「いえいえ、それは全然大丈夫ですよ。三人で持つ分にはそこまで負担じゃなさそうでしたし。先輩は先輩で結構荷物持ってくれてますしね」


 まぁナンパされてたことは腑に落ちませんけど、と雫がぼそり呟く。

 根に持つよなぁ、こいつ……。

 苦笑していると、やがて雫は、


「あ、来ましたよ」


 と言って、大きく手を振り始めた。

 雫に倣ってそちらに目を遣ると、何やら長い棒みたいなものを持っている少女たちがいた。あれはもしかして……と、持っているものを何となく察している間に、三人は俺たちのいるところに到着する。

 ごろん、と長い棒を砂の上に転がすように置いた。


「キミ、お待たせ。準備しておいてくれてありがとうね」

「あ、う、うん……こっちこそごめん。重かったでしょ?」


 時雨さんの水着は……まぁめちゃくちゃ魅力的ではあるのだけど、流石に冷静に見ることができる。

 ミントグリーンのラッシュガードを羽織っているため、露出は極めて少ない。しかし、それゆえにすらりと滑らかな脚に目が行き、まるで人魚のようだ、と感じた。

 流石は時雨さん。俺が従弟でさえなければ、きっと息を呑んでいたことだろう。


「ううん、大丈夫だよ。澪ちゃんと大河ちゃんも一緒に持ってくれたから。ね?」

「まぁ、そっか。えっと澪と大河もありがとな。お疲れさま――」


 と言って、視線をスライドさせて。

 案の定、俺は言葉を失った。


「いえ、これくらいはやって当然ですよ。今日はお招きいただきありがとうございます」


 律儀にそう告げる大河は――端的に言って、エロかっこよかった。

 上半身は黒いビキニのみ。豊かな胸をぎゅっとスタイリッシュな印象のある水着が包み込み、柔らかさよりもハリを生々しく想像してしまいそうになる。

 スタイルの良さは言うに及ばず。


 流線型の体に沿って視線を下ろすと、目に入るのはデニム生地のショートパンツ。衣服に近く、しかし日常的にそれを履いていたらどう考えても痴女でしかないほどの丈の短さが、実にエロく、そして綺麗だ。


「あの……も、百瀬先輩。そんな風にジロジロ見られるのは少し、その……恥ずかしいと言いますか」

「あっ、えと、悪ぃ……」

「い、いえ。見られるのは承知で着てきたので、責める筋合いはないと分かってますから」


 ぽっと頬に朱が差していて、エロかっこいい水着姿とのギャップにドギマギする。

 普段よりもしょぼしょぼとしている声はどこか弱々しく、庇護欲にも似たなにかがムクムクと湧き出す。


「あー、えと。似合ってる、ぞ……?」

「あっ……どうも。お褒めいただき光栄です」

「あ、あぁ」

「むぅぅぅ! 先輩、なんか私のときと反応違くありません?!」


 曖昧な空気をぶち壊すように声を上げたのは雫だった。

 ぴょんぴょんと撥ねて不服申し立ててくる。

 すると、横にいた澪が苦笑った。


「本当だよね。私なんてまだ水着見られてすらいないのに。まぁ、別に百瀬に見られるために選んだわけじゃないからいいけど」

「いや別に俺は綾辻に一切興味がないとか、そういうことじゃなくてだな」

「それだとまるで、興味津々みたいなんだけど。変態?」

「綾辻は俺になんか恨みでもあるの?!」


 と言って、澪の方を向き。

 ごくり、と無意識のうちに生唾を飲んだ。


 雫や大河に比べれば、圧倒的に露出は少ない。

 いわゆるワンピース型というやつであろう。グレーの生地を小さな白い水玉が飾り、どこか大人っぽい。

 しかしお腹のあたりだけは生地がくっきりなくなっていて、おへそからみぞおちのあたりにかけての肌がつるりと曝されていた。それは色っぽさにも隙にも見えるけれど、逆に他の水着では隠しきれない色っぽさをぎゅっと押しとどめている証拠にも思える。


 加えて、ちょこんと頭にかぶる麦わら帽子だ。

 スタイルを気にしているからこそ、水着以外に目が行くようにしているのかもしれない。その策略にまんまとハマり、俺は澪が水着を着ていることすら忘れそうになっていた。


 まして、相手は澪で。

 生まれたままの姿を何度を見たことがあるからこそ、その引き算ではなく足し算をされたような水着が、とても印象的だ。


 ――まるでモノクロ映画に出てくる少女みたいだ、と。

 そんな感想を抱くのは場違いだろうか?


「いいな、それ。よく似合ってる」

「そ。ならよかった」


 にこ、と澪が微笑んだ。

 ひゅぅぅと吹く風に麦わら帽子を押さえる。そんな澪に、見惚れそうになった。


「大河ちゃん、お姉ちゃん。そんなこと言ってるけど、さっきその人見ず知らずの女の人にナンパしてたんだよ」

「…………ふぅん?」

「百瀬先輩。そういうのはどうかと思いますが」

「ナンパしてないから! たまたま偶然ナンパされたから、俺の代わりにナンパ目的の大学生を紹介してあげただけだから!」

「……それはそれで」「よくないと思いますけど」


 と、俺の弁明に澪と大河がマジレスをした。

 ごもっとも。俺もさっきは調子乗ったけど、よくよく考えたら俺ってバカだなーって思えてきちゃってるもん。


「ふふっ。四人とも仲良しでボクは嬉しいよ」


 運んできた荷物をこそこそと漁りながら、ほっこりと呟く時雨さん。

 俺が割と針の筵じゃない? と思うけどツッコまないでおく。


 けふんと咳払いを一つ。

 三人が和やかに話しているのを横目に、時雨さんに尋ねる。


「それで。それはなんなの? やたらと大きいけど」

「あー、これはね。ビーチバレーの道具だって」

「ビーチバレーって、あの?」

「そう、その」


 『あの』以外にどのビーチバレーがあるのかは分からんが、どうやら俺が考えているものであっているらしい。

 ビーチバレーってのはあれだ。つまりビーチでやるバレー。インドア派だからルールに関する知識が乏しいのは許していただきたい。


「えっ? もしかして祖父ちゃんが言ってたのってビーチバレーなの?」

「みたいだよ。大会をテレビで見たんだって」

「うわぁ、出たよ」


 影響されやすすぎるんだよなぁ、祖父ちゃん。

 苦笑しつつ肩を竦め、ビーチボールのネットやらポールやらに触れる。


「さて。じゃあみんな、今日はビーチボールをやろっか」


 ぱたんと手を叩きながら時雨さんが言うと、三人は三者三様の反応をした。

 雫は、おー、と盛り上がった様子で。

 大河は、ビーチバレー……、と不思議そうに俯いて。

 澪は、なるほど……? と首をひねって。


「ビーチバレー、いいですね! 楽しそうです!」

「ふふっ、そう言ってくれるとお祖父ちゃんも喜ぶよ。えっと……ルールはみんな分かる?」


 チラと見遣る時雨さん。

 否やの声をあげる者はいない。まぁ細かいルールは知らないかもしれないが、所詮は遊びだからな。厳密にやる必要はなかろう。


「じゃあ組み分け……は、どうしよっか。五人だとキリが悪いね」


 ビーチバレーは二対二で行う。

 時雨さんの指摘を受けて、


「そういうことなら私が」


 と、大河が辞退しようと口を開く。大河だけ一人俺たち家族に混ざっている感があるわけだし、少し後ろめたく思っているのかもしれない。

 だがその言葉を、澪が途中で遮って言った。


「なら百瀬は審判ってことでいいんじゃないですか、霧崎先輩」

「えっ、でも私は」

「大河ちゃんは私とやろっ! で、お姉ちゃんと霧崎先輩がペア! いいですよね、時雨先輩」


 流石だなぁ、と澪と雫を見てくすりと笑う。

 俺も同じことを言いだすつもりだったので異論はない。男の俺が混じったら流石にゲームにならんしな。


「うん、それがいいね。じゃあ組み分けは雫ちゃんの言った通り、審判はキミね」


 そんなこんなで、ビーチボールを始める準備が整う。

 海に来ていきなり泳ぐ以外のことをやるのは変かもしれないけど、どうせ後で泳ぐだろうからいいだろう。


 んじゃまぁ、きっちり審判をやりますかね。

 そう思っていると、雫がにっこり悪戯っぽく笑って、言ってきた。


「じゃあ先輩。ネットの準備は審判の仕事ってことで、お願いしますねっ」

「……うん、ですよね。知ってた」


 まぁ俺は一切準備してないしね?

 男手の出番なんてこんなところしかないしね?


 クソ真面目な大河は、俺の手伝いではなく準備体操に真面目になっていた。

 釈然としねぇ……。

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