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四章#31 海!

 朝食を摂り終え、約一時間ほどが経ち。

 家から徒歩10分ほどの距離にある海岸までやってきていた。

 例年通り、客は多すぎず少なすぎず。かといって活気がないわけではなく、ところどころビーチフラッグをやったりスイカ割りをしたりして盛り上がっている。


 ざーぶん、ざーぶん、と波が押し寄せて海らしい匂いがぷんぷん漂ってきた。祖父ちゃんの知り合いが経営している海の家で着替えを済ませ、俺はザックザックと砂浜をサンダルで歩く。


 えっ、こういうのは水着の上にシャツを着て豪快に脱ぐものじゃないのかって?

 どっちみち帰りに下着に着替えなきゃいけないんだし、そんなことする必要ないっしょ。あと着替えてるのは微妙に恥ずかしいし。


「海だなぁ」


 一人で他のメンツを待ちながら、ぼそぼそと呟く。

 山派か海派か、というのはよく挙がる話題だが、俺は確実に後者だ。

 ありきたりに、山だと虫が凄くて嫌だし海の方が眼福だから、と理由を答えることもできる。事実そう思ってもいるだろう。


 だがそれ以上に、きっと俺は青が好きなのだ。

 空の青と、海の青。

 どこまでも澄んだ軽やかさと、果てもなく深い重さ。同じ青でも全く別物で、そんな青たちに囲まれている感覚が好きなのだと思う。


 ――なんて、女性陣が着替えを終えるのを待ちながら賢者になってみる友斗くん十七歳でした。


 大河と合流した雫たちは、四人で海の家に備え付けてある更衣室に向かった。俺とは違って下に水着を着てきているらしいが、だからといってそこら辺で突然脱ぎ出したらあらぬ誤解を招くからな。荷物を預けに行く必要もあるので、俺とは別行動することになったのである。


 そんなわけで、俺が更衣室から出てもう10分ほどが経っているのだが。

 四人はなかなか訪れる様子がない。女子の方は混んでいるんだろうか?

 同じところに立ち尽くすとサンダル越しでも足の裏が熱いからと無駄に歩いてみるが、いつまでも続けるわけにもいかない。

 しょうがないので先んじてレジャーシートを敷き、場所を取っておくことにしよう。じっとしてるとソワソワしちゃうからとかではないので勘違いしないように。


 ……いや、それはどう取り繕っても見え見えの嘘にしかならないか。


 そもそも、今日俺が一緒に遊ぶ四人は誰もが認める美少女だ。四人には口が裂けても言えないが、『可愛い子ランキング』でも完全に上位を占めているわけだし。


 雫の水着はこの前見たから、まだ衝撃は少ないだろう。だが他は?

 時雨さんと澪はどちらもさほど胸が大きい方ではないが、スタイルは他の二人にも決して負けない。大河の健康的なスタイルも、先日のプール掃除のときに見て分かっている。今でも鮮明に脳裏をよぎってしまうほど美麗だった。

 いやまぁ時雨さんは従姉だし、流石にそういう目で見たりはしないけどね?


「……やばいな」


 澪とシていたとはいえ、俺は性的なことに慣れているわけではない。あんな美少女たちの水着となれば、どれだけ意地を張っても想像してしまうわけで。

 よくないなー、だめだなーと思いつつそれなりのスペースの場所を見つけてシートを敷こうとしていた、そのとき。


「ねぇ君。今って一人?」


 と、誰かが声をかけてきた。

 こういうとき人間とは不思議なもので、後ろから『君』としか呼ばれていなくとも、自分が呼ばれているんだと気付いてしまう。

 しまった、と自身の失敗に気付いたのは、反射的に振り向いた後だった。


 そこにいたのは、セクシーなお姉さん二人組。

 きっと二十代前半から後半。それなりに大人の社会に慣れ始め、夏休みにパーっと日常のストレスを晴らしに来た、ってところか。


「えっと、俺ですか?」

「そーそー。さっきからぶらぶらしてたから」

「あー、なるほど」


 確かに、俺のさっきまでの行動は『ナンパしてください! 待ってます!』と言っているようなものだったかもしれない。原宿でスカウトを待って毎日歩き回るようなもの。ギャラクシー。

 じゃなくて、ここはオーシャン。思考をノンフィクションに戻さなければ(※急な展開に戸惑うあまりパロネタに逃げてますごめんなさい)。


「もしよかったら遊ばない? 私たち二人っきりでさー」

「折角の海なのに女だけって寂しいじゃん? だからかっこいい男の子を見かけて声をかけちゃったの」

「へぇ……あれ? もしかして俺、褒められてます?」

「ちょー褒めてるよ! だって君、かっこいいもん」


 あはは、嬉しいこと言ってくれるなー(棒)。

 片方の女性は、以前大河に薦めたようなデニム地のかっこいい系の水着を、もう一人の女性は雫が前に選んでいたのに似た清楚系の水着を着ている。どちらもスタイルは抜群だし、ぶっちゃけとてもエロい。逆ナンされるなんて実に光栄じゃないっすか。


 とか思えたら楽なんだけどなー。

 あえて自虐的に言えば、俺はもう最低なくらいに拗らせてるわけで。

 そりゃ雫や澪、大河の水着は楽しみだしソワソワするけども。

 他の人に節操なしに誘惑される程、クソ野郎ではない。少なくともそっちの方面では。


「筋肉もすごいじゃん? なんかスポーツとかやってるの?」

「あはは、ありがとうございます。けどこれはただの筋トレですよ」

「へぇ、頑張ってるんだ? いーねいーね。そーゆうの私好き」


 えーと……うん、いけるか。

 頭の中で情報を整理し終えると、俺はにこっと二人に笑いかける。


「すんません、俺はちょっと人を待ってて」

「えー、そうなの? あ、でもお友達と一緒でもいいよー」

「そうそう。それとも私たちと抜け出しちゃう?」

「んー、いや遠慮しときます。その代わりと言っちゃなんですけど、お姉さんたちに耳よりの情報が」


 こそっと囁くと、二人は怪訝そうな顔をした。


「実はさっき、俺なんかよりもっと筋肉凄くてかっこいい人たち見かけたんですよ。なんか大学のサッカーサークル? か何かの合宿らしくて」

「へぇ……」

「女子マネとかいなくて『男だけじゃむさくるしいよなー』って愚痴ってたので。そっち行った方が楽しめるかもですよ?」


 ちなみに、これは事前に仕入れ、ついでにさっきの待ち時間で補強したものである。

 ありきたりなナンパイベントが起きても嫌だし、トラブルの種になりそうなものがないかSNSの巡回を巡回し、聞き耳を立てていたのだ。


「そーなんだ、じゃあいってみよー」

「君もかっこいいけど、拒否られちゃったらしょーがないもんねぇ。ありがとー」

「いえいえ。楽しんでくださいね。どうぞ、トラブルに巻き込まれないようにはご注意を」

「ふふっ、真面目だねー」


 可笑しそうに言いながら二人は俺が指した方向へ歩いて行った。

 ふぅ……なんとかなった。まぁ単に強く断るだけでもいいんだけど、しつこく来られたり、他の人にも闇雲に声をかけられたりしたら困るからな。ここでトラブルが起こったら祖父ちゃんや祖父ちゃんの知り合いも困るだろうし。


「さてと。じゃあ気を取り直してレジャーシートを――」

「いや何やってるんですか先輩!」

「うおっ……びっくりしたぁぁ」


 我ながらナイスなキューピッド役だったな、と満足していると、少しだけ不機嫌な雫の声が聞こえた。

 そちらを向いて――どっくん、と重い電流が体を駆け抜けるような錯覚に襲われる。


 そこに立っているのは雫。

 先日買った、白の清純な水着を着ている。だがどうしてだろう? 以前見たときよりも、何倍も魅力的に見える。

 日光を吸い込んだ瑞々しい肌は、キラキラと眩しい。無垢で清純なその姿はふんわりと優しく綺麗なのに、やはり雫の表情や髪型が蠱惑的な印象を付加していた。


 更に――今日の雫は、久々のツインテールだったから。

 大人っぽさよりも小悪魔な雰囲気が強まっていて、最高に綺麗だ。

 否、今日抱く感想は『綺麗』ではなく『可愛い』だった。


「えっと、あの雫……」

「褒めようとしてくれてるのは嬉しいですし目が泳いじゃうくらい魅了しちゃったのは嬉しいですけど……しれっとナンパされるとはどういう了見ですかっ!」

「は? いやどういう了見と言われてもだな。俺は立ってたら声をかけられただけだし、ちゃんと断っただろ?」

「断ったどころかお手頃なナンパ先を教えてましたけど!」

「ならいいじゃん?」

「いーんですけど! でもなんかこう、釈然としないと言うか……!」


 雫がぴょんぴょん跳んで不満を表す。

 うーむ……NOだよ、それはNO。その動きは確信犯だろ……。

 ごっほん、とあからさまに大きな咳払いをして周囲の男子をけん制しつつ、雫の肩に手を置いた。


「可愛いぞ。似合ってるな」

「えへへ……先輩に買ってもらった水着です!」


 ぶい、と雫が勝気にピースをする。

 ――俺が買った水着を着ている。

 それだけでどうしてこうも背徳感があるんだろう、と天を仰いだ。

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