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1回戦 Sランク冒険者ゲーム15

「でも、銃の構造なんて知ってるの?」


 安来鮎見は疑わしそうな目つきでそう訊いた。


「俺は知らないけど、鈴本くんはどうだ?」

「まあ、少しくらいなら知ってるよ。凄く原始的な構造の奴ならね」

「さすがは鈴本くんだな。――で、そうやって銃を作れば、もしもこの世界に銃が存在しなかった場合、俺達でも無双してSランク冒険者になれるかもしれない」

「魔法と現代知識チートを組み合わせた作戦ってことだな。それなら、ダイナマイトとか地雷とかを魔法で再現するという方法も使えるかもしれないな」


 鈴本連は眼鏡のズレを直しながらそう言った。


「それなら、僕でもSランク冒険者になれるかも……」


 小説家くんこと米崎陽人は、希望を見出したようにそう呟いた。


「というわけで、以上が2つめの作戦だ」


 俺はそう締め括った。


「3つめの作戦は?」


 有希がそう促した。


「ルールの穴を突く作戦だな。例えば、どっかのド田舎の小さい冒険者ギルドを乗っ取って、俺達がSランク冒険者になったことにさせるとか」

「乗っ取るって……どうやって?」


 有希は当然の疑問を口にした。


「それはまあ、ギルドの職員達をお金で買収したり、人質をとって脅迫したりして、だな」


 俺は言葉を選びながらそう言った。


「私達の誰かがギルドの職員になった後、自分以外の職員達を皆殺しにして乗っ取ったり、ね」


 俺があえて言わなかったことを、夏目理乃が言いやがった。何でこいつはわざわざ悪役っぽい発言をしたがるのだろう……。


「デスゲームとは無関係の、罪のない人を殺すなんて駄目。そんなやり方、私は反対」


 朝倉夜桜はキツネのコンちゃんから目を離し、夏目理乃の方を見てそう言った。


「まあ、私も積極的にその案を採用したいと思っているわけじゃないから。あくまでも、そういう方法もある、っていう話だから」


 夏目理乃はそう補足した。


「分かった……。それならいい……」


 朝倉夜桜は右手のコンちゃんを見ながらそう言った。コンちゃんがうんうんと頷く。


 それにしても朝倉夜桜は、こんなにツッコミどころの多いキャラのくせに、他人と会話をするときはツッコミ役ポジションに納まろうとするのが図々しいんだよな……。


「俺のアイデアはもう出尽くしたんだけど、他にアイデアがある奴はいるか?」


 俺はみんなの顔を見回してそう訊いた。


「ギルドがどういう方法で冒険者のランクの管理をしているのかは分からないけど、もしも魔法のパソコンみたいなものでデータ管理をしているのなら、クラッキングしてデータを書き換えることでSランク冒険者になったことにする、という方法を思いついた」


 鈴本蓮は眼鏡のズレを直しながらそう言った。


「クラッキングって何?」


 安来鮎見がそう訊いた。


「この場合のクラッキングは、ネットワークへ不正に侵入して、データを改竄する行為のことだ」


 鈴本蓮は簡潔にそう答えた。


「私は、Sランク冒険者を雇って、その功績を自分達のものとしてギルドに報告する、っていう方法を思いついたよ」


 夏目理乃がそう言った。


「Sランク冒険者を雇って功績を奪うって……そんなことできるのかな?」


 米崎陽人は首を傾げてそう言った。地球で言うと、格闘技の世界チャンピオンに八百長をやらせるようなものだからな。実現は難しそうな作戦だ。


「まあ、やってみないと分かんないよ。穏便に『雇う』っていう表現をしたけど、Sランク冒険者の家族を誘拐して言うことを聞かせるような方法だってあるわけだし」


 夏目理乃がそう言うと、朝倉夜桜が何か文句を言いたそうな顔をした。だが、先ほどの夏目理乃とのやり取りを思い出したのか、朝倉夜桜はキツネのコンちゃんの毛繕いをし始めた。


「何か、理乃って発想が基本的に悪役っぽいよね……」


 有希は呆れた表情でそう言った。


「私の職業は商人だからね」


 なぜか夏目理乃は照れくさそうにそう言った。


 謝れ。世界中のまっとうな商売をしている商人達に謝れ、と思ったが黙っておいた。


 レストランのドアが開いて、数人の客が入店してきた。他の客がいるとデリケートな話がしにくいし、作戦も出尽くしたようだし、もう全員が食べ終わったのにいつまでも長居するのも店に迷惑だからと、俺達は会計をして退店した。


 冒険者ギルドを目指して、その近くにあるという南門に向かって歩き始める。


「烏丸くん、さっきは八つ当たりしてごめんね」


 少し歩いたところで、安来鮎見が近寄ってきて、そう言った。


「さっきって?」

「ほら、さっき階段を下りたときの話」

「ああ、あれか。デスゲームが始まってからというもの、俺に八つ当たりをしたのは安来さんで4人目だから、気にしなくていいよ。もう慣れたから」


 心愛、七海、石原の3人の顔を思い浮かべながら、俺はそう言った。石原の八つ当たりは、予選で石原達の首都への転移が失敗した責任を俺に押しつけようとしたことである。


「きみ、そんなに八つ当たりされてるんだ……」


 安来鮎見は呆れたようにそう言った後、千野圭吾の方を見て「今回の話し合いには、私もちゃんと参加したからね」と言った。

 なるほど。あまり積極的なタイプには見えないのに、レストランで安来鮎見の口数が多いように感じたのは、先ほど千野圭吾に「話し合いに参加しなかったきみに、話し合いをしていた人達を非難する権利なんかない」と言われていたからだったのか。


 しかし、当の千野圭吾は自分の発言を忘れてしまっていたのか、曖昧に頷いただけだった。


「ところで、みんなはレベル上がった?」


 夏目理乃がそう訊いた。


「レベル? あ、そうか。角ウサギを何匹か倒したから、経験値が入ったのか」


 俺はそう言いながら、ステータス画面を呼び出した。1回戦開始前の説明時には、どこに転移するか判断するのに邪魔だったからステータス画面を消して、そのままになっていたのだ。


【名前:烏丸九郎(15歳) 種族:ヒューマン 職業:複製師Lv.1 経験値:18

基礎レベル:2 HP:12/12 MP:7/7

筋力:6 魔力:7 敏捷:8 器用:10 運:3

残りスキルポイント:3

〈アイテム複製〉[0/100]

〈スキルツリー複製〉[0/100]】


 現在はそう表示されていた。


 1回戦開始前に見たステータスは、


【名前:烏丸九郎(15歳) 種族:ヒューマン 職業:複製師Lv.1 経験値:0

基礎レベル:1 HP:9/9 MP:6/6

筋力:5 魔力:6 敏捷:6 器用:8 運:3】


 だったから、経験値が18入って、基礎レベルが2に上がったことになる。運以外のパラメーターも微増していたし、その下に以前は表示されていなかったステータスが増えていた。


「俺はレベル2になったぞ」


 俺はそう報告した。他のみんなも口々に報告したが、基礎レベルが上がっていたのは俺と青山と千野圭吾の3人だけで、3人全員がレベル2だった。


 また、職業の右のレベルは全員が1のままだった。


「ところで、さっき見たときはなかった【残りスキルポイント】とか、〈アイテム複製〉〈スキルツリー複製〉っていうのも表示されてるんだけど」


 俺はステータス画面を見ながらそう言った。


「ウチはそんなの表示されてないよ」


 有希はそう報告した。そして全員の話を聞いて検証すると、基礎レベルが2に上がった奴は残りスキルポイントなどが表示されていたが、基礎レベルが1のままの奴は表示されていないと判明した。


 さらに、俺の残りスキルポイントは3だが、青山と千野圭吾は4になっていて、個人差があった。また、青山には〈調理〉と〈解体〉というものが、千野圭吾には〈鍛治〉というものが表示されているそうだった。

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