1回戦 Sランク冒険者ゲーム3
「――こんなのは何かの間違いだ! 職業の付与をやり直してくれ!」
小説家くんが悲痛な声で、ザイリックに向かってそう叫んだ。
「それはできませんー。もし仮にやり直したとしても、今と同じ職業が与えられるだけですー」
ザイリックが淡々とそう答えた。
「じゃあ……転職は? 僕を転職させてくれないか?」
小説家くんは諦めきれない様子でそう訊いた。
「それは、ここではできませんー」
「アジャイル星ならできるのか?」
「ある特定の条件を満たせば、上位職に転職することはできますー」
「特定の条件って、何だ?」
「その質問は禁則事項ですー」
ザイリックがそう答えると、小説家くんはうなだれた。よっぽど職業に不満があるらしい。俺も他人のことは言えないが。
「ところで、私の職業の踊り子は戦闘職なのかな?」
心愛が気を取り直したような顔で、七海にそう訊いた。
「うん。ゲームだと、踊り子はだいたい戦闘職だよ」
「前衛と後衛のどっち?」
「モンスターに接近して踊りながら攻撃をする前衛になるパターンと、後ろで味方をサポートする後衛になるパターンがあるから、どっちかはまだ分かんないかな」
「そっか……」
心愛は打たれ弱い性格だから、後衛の方が向いてそうだな、と俺は思った。心愛自身も後衛がいいと思っていそうだ。
「ウチの美容師は生産職?」
有希がそう訊いた。
「うーん……。美容師っていう職業は、RPG系のゲームだと滅多に登場しないんだよね。でも、たぶん生産職だと思う」
「演奏家も生産職?」
今度は浅生律子がそう訊いた。どうやら、七海以外の女子3人はゲームに詳しくないようだ。
「演奏家と歌手は吟遊詩人とかスーパースター系の職業っぽいから、後衛職じゃないかなあ。で、青山くんの料理人は間違いなく生産職だろうし、烏丸Pも生産職だとすると、アイドル班の6人がバラバラになっちゃいそうなんだよね……」
七海は悲しげにそう言った。七海はこの6人で行動するのに思い入れがあるのだろう。なるほど、だからさっき、俺の複製師は生産職じゃないかという話になったとき、少し悲しそうだったのか、と思った。
「ザイリック。どこに転移するのかは、予選のときと同じように選べるのか?」
俺はそう確認した。
「はいー。選ぶことができますー」
「職業の確認はこれくらいにして、アジャイル星のどこに転移するか決めた方がいいな。残り時間が20分を切っちゃったし」
俺は、話し合いをしている他の班のクラスメート達にも聞こえるように、大きめの声でそう言った。
「つーかさ、何でお前が仕切ってんだよ」
ボス猿くんこと石原が、ここぞとばかりにそんなことを言い出した。1回死んだショックのせいか、さっきまで静かだったのに、早くも復活してしまったようだ。ボス猿くんが復活する前に話し合いを終わらせたかったけど、間に合わなかったか。
「別に仕切っているつもりはない。どこに転移するか、みんなで決めようとしただけだ」
「それを仕切ってるっつーんだよ。お前、職業は何だったんだ?」
「複製師だけど?」
「フクセイシ? 何だそれ! 超弱そうだな! ウケるー! 俺はトウシだぞ!」
石原はゲラゲラと笑いながらそう言った。トウシと聞いて、投資、透視、凍死などの漢字が思い浮かんだが、たぶん「闘士」だろうな、と当たりをつけた。
「あ、そう。お前は闘士になったのか。それがどうかしたのか?」
「闘士っつーからには、前衛職で間違いない。花形職業だ! フクセイシとかいうザコ職業の奴は、すっこんでろよ!」
「闘士とかいう脳筋っぽい職業の奴こそ、頭を使う話し合いのときは、すっこんでてくれないか?」
「っていうか、どこに転移するか話し合って決めようとか、寝ぼけたこと言いやがって。首都に転移するに決まってるだろ」
「決まってねえよ。だいたい、首都ってどこの国の首都だよ」
「それは……その星の中で1番大きい国でいいだろ」
「よくない。もしも1番大きい国に冒険者ギルドがなくて冒険者になれなかったら、時間の無駄だぞ。だいたい、お前は予選のときに首都に転移して失敗したくせに、何で同じ過ちを繰り返そうとするんだ」
「首都に転移したのが失敗になったのは、お前のせいだろうが!」
石原は俺を指差しながらそう叫んだ。どうでもいいけど、外套の下は何も着てないんだから、そのポーズは危険だぞ。早くも女子達は危険を察知したのか石原から顔を背け始めているし。
「一応聞いてやるけど、俺のせいってどういう意味だ?」
「32人全員で首都に転移してれば、あの緑の服の集団に力負けすることもなかったんだよ! たった6人じゃ32人に勝てるわけないんだ! お前がクラスメートを分散させたせいで、押し負けたんだぞ!」
「お前、予選のルールを理解してなかったのか? 予選はお金を稼ぐのが最重要事項であって、他のチームと戦闘で勝ったって何の意味もなかったんだぞ?」
「うるさいうるさい! 俺があいつらに殺されたのは、全部お前が悪いんだ!」
石原はそう喚き散らした。
「うるさいのは、石原、お前の方だ」
巨漢くんがそう言うと、突然、石原の顔を殴った。石原の身体が面白いように吹っ飛び、尻から着地した。
「な、な、な……。南、お前どういうつもりだ」
石原は尻餅をついた状態のままで、頬を押さえながらそう訊いた。両方の鼻の穴から血を流していた。この展開は全く想像できなかったのか、取り巻きABは完全にフリーズしていた。
「僕達があいつらに殺されたのは、石原、全部お前が悪い。こいつのせいじゃない。お前が1億ゼンも借金を作ったのを、他のみんなが完済してくれたんだぞ。そのことに感謝もせずに、文句ばっかり言うな」
「1億ゼンの借金? 何だそれ?」
石原は呆気に取られた様子でそう訊いた。
「お前、サイジェリアス星人を――緑の服の集団のリーダーっぽい奴を殺しただろう。そのせいで、地球代表チームは1億ゼンの借金を抱えることになったんだ」
巨漢くんは激しい怒りを堪えるような表情でそう言った。
「ああ、あいつ、死んだのか」
「死んだのかじゃないだろ! お前が殺したんだよ! 胸をナイフで刺したら人は死ぬんだ! そんな簡単なことも分からないのか!」
「それがどうした? デスゲームで人が死ぬのは当たり前のことだし、結局その借金は返し終わって予選を勝ち抜いたんだから、何の問題もないじゃないか」
「――ふざけるな! 1億も返すのがどれほど大変だったと思ってるんだ!」
石原の言葉に被せるようにして、青山がそう怒鳴った。
「青山くんや南くんの言う通りよ。あんたのせいで、ウチら全員、死んじゃうところだったんだからね」
有希も怒った表情で石原を見下ろしながらそう言った。
「烏丸Pは、ろくに休憩も取らずに8日間働きづめだったんだよ」
心愛は有希の後ろに隠れるようにしながらも、ちゃんとそう言ってくれた。
「そうだよ。烏丸Pは職業が無かったときだってあんなに凄かったんだもん。烏丸Pなら、どんな職業になったって何かの形で絶対に活躍できるよ」
七海はそう言って、俺にプレッシャーをかけてきやがった。
「烏丸くんは、予選で1番お金を稼いでくれたんだ。予選での最大の功労者だ」
前髪眼鏡くんも俺を手で示しながらそう言ってくれた。まだ前髪眼鏡くんには自己紹介していなかったが、予選時にウィンドウ画面を見ていて、ここまでの俺達の会話を聞いていれば察するだろう。
「いや、あれは俺だけが稼いだお金じゃない。うちの班は他の班より1人多くて6人いたし、他の5人が必死に稼いでくれたお金を俺の口座にまとめて預けていただけだから」
俺はそう訂正した。
「とにかく、石原くんはまず烏丸Pに謝ってお礼を言いなさい。それができないなら、せめて黙ってなさい」
浅生律子が氷のように冷たい口調でそう命令すると、殆どのクラスメート達が同意してくれた。




