9:吐露
エーヴィヒの逞しい胸が露わになった。汗だくの身体のままでは良くないから、身体を拭いて着替えてもらってるのだ。
エーヴィヒの着替えがここに有るのは、たまにはプレゼントしたい、と今朝一緒に持参していたからだ。持って来ていて良かった。
背中側を終え、正面を清拭していると、そのまま抱きしめられる。
「ティリア、すまない。迷惑を掛けている」
そのまま私の頭部のあちこちにキスをし始める。私に触れたがる人では有るが、こんなに甘い行動は珍しい。
前世で大好きだったアニメやコミック、小説にこういう表現はよく出ていたが、同じ経験自体をした事が無い私の心臓は、ドコドコ早鐘を打っている。
「迷惑では無いわ、エーヴィヒ。大丈夫よ」
努めてやわらかな発声を心掛け、身体が冷えるから、とエーヴィヒの胸をそっと押しやって清拭を続ける。しかし彼はその手を私の腰にゆるくずらしただけだ。
「今朝、悪夢を見たの。目覚めた時に凄く苦しくて…。貴方に逢いたくて…ギュッと抱き締めて欲しいって思ってたの。朝一で逢えると思わなかった。それにまさか貴方が直ぐにくれると思わなかったから、とても嬉しかった。具合の悪い貴方にそう思ってる私は、駄目?」
着替えの手伝いもし終え、ギュッと抱き付く。背中ごと包み込む様にエーヴィヒは抱いてくれる。抱きついても受け入れてくれる存在がいるという事は、なんて幸せな事か。
エーヴィヒのにおいが私を包む。安心するにおい。
「駄目じゃない。そんな苦しい時に、俺を求めてくれて嬉しい」
先程よりぐっと顔色が良くなっているエーヴィヒはうっとりと微笑み、唇を私の耳元に寄せてキスをし、そのまま首元にキスをしていく。
「え、エーヴィヒ!」
「ティリアの全てが欲しい…俺に繋ぎ止めておけば、君は俺から絶対に離れないだろう?」
「離れないし、離れたくはないわ!でも、待って…!」
呼吸ごと唇を奪われて、そのままソファに押し倒される。角度を変えながらエーヴィヒは口付けを繰り返す。甘いキスからクラクラ眩暈がするキスへと移る。
「俺を煽った君が悪い」
今度は噛みつく様なキス。なのに、何故こんなに甘いのか。
身体はエーヴィヒの身体に固定されたまま。どんな状況であれ最愛の人に求められて嬉しい。
…流されそうになる。
エーヴィヒは名残惜しそうに私の唇をペロリと舐めて、唇を離した。
「…俺は、前世を夢に見た。生きていた事に安堵したが、君がいない。絶望したよ」
優しく身体を起こしてくれる。
「目覚めて…逢いたくて。深夜にグルック邸まで行ってしまった。君は寝てるのにな…」
強く抱き締めてくれる。
「前世の記憶が現実で、今が夢だと思って苦しくなった。先程、やっと君の姿を見てホッとしたが…君が、目の前で消える幻覚を見て、怖くなった」
抱き締め返す。
「心が、バラバラになりそうだ」
こんなに深い想いを私に向けてくれていた事が嬉しい。エーヴィヒは苦しんでいるのに、喜びが身体中に駆け巡ってしまう。
両手でエーヴィヒの顔をそうっと包み込む。
「私はエーヴィヒの側にいるわ、いつまでも。貴方の邪魔にならない限りは、ずっと側にいさせて」
…何故この言葉を私は選んだのだろう。何か予感めいたモノが働いたのだろうか。
「そんな事になる訳がないだろう!ティリア、愛しているんだ」
私の手を包み込み、頬ずりする。
「私もよ。…そんなに悲しそうな顔をしないで、エーヴィヒ」
ハーブティを飲ませて、エーヴィヒを横にならせた。足元にしゃがんで頭を撫でていると、暫くして眠ってしまった。まるで子供の様だ。額に口付け、常備してる大きめのブランケットを掛ける。
エーヴィヒの話を思い出す。同じタイミングでエーヴィヒも前世の夢を見ている。凄い偶然だ。
しかし始業時間が30分過ぎている。気になる部分も有るが、未来の国の為に、業務開始した。