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自分の過去…前世を思う時が有る。
愛しい女の事だ。
私や父の欲望のままに政治利用されたにも関わらず、それを疑いもせず、自分が嫁ぐ事で世の人々の役に立つのか等の多少の質問や意見はしたが、不満は一切言わずに受け入れ続けた。
とある例外を除き、女性が意見をする事が許されない時代だったとはいえ…言いたい事は沢山有っただろう。
宗教と政治と権力と武力と男たちの欲望と。その中にいても、いつでも優しい包み込む様な聖母の微笑みを絶やさない女だった。どれ程の男達が彼女を欲したかは解らない…自分を含めて。
嫁いだ先々で彼女は彼女なりの幸せを探した。
絶望しても…這い上がって自身の場所を作った。
彼女は優し過ぎる位に優しい…強くて弱い女だった。
いくら彼女を希っても、その腕に捕らえる事は出来なかった…当たり前だ。
それでも私達兄弟は彼女を妹として可愛がり、愚弟が不用意な言葉を発したその結果、彼女に不名誉な二つ名を残してしまった。何百年も経った今でもその汚名は残っており、彼女の後年の業績も霞んでしまっている程だ。
申し訳無い気持ちとその不名誉の相手が私である事に喜んでしまう自分の愚かさに情け無さも感じる。
次の世界では彼女を自分の手で幸せに出来る様に。会いまみえる事が出来なかったとしても、私の名を見て何かを感じてくれたなら、それこそ幸甚だ。
夢を見ていた。
実妹への強い想いを追想していた。
これだけの強い想いを持っていながら、あの時代においてよくも手を出さなかったものだと思う。
実際、近親結婚が多かった時代だ。父方の従兄弟と結婚や兄妹・姉弟で関係を結んだりという事もまま有った。…にも関わらず何故、自分達だけが強く取り沙汰されたのか?と。出自や地位が問題だったのかもしれないが。
現在の自分はというと、そういった事はどうでもいい。自分の愛した女が直ぐ側に居るからだ。
年の差がかなり有るが、彼女はいつでも俺を思い慈しみ愛してくれている…母親として。
今世において母子という近親関係だが兄妹よりも近しい関係の上、平和な今世では余程の事が起こらない限りは離れる事は無い。女として彼女を愛する事は出来ないが、母子として愛し合えるのだ。前世に比べたらまだいい。
彼女が事故後、あの機械から目覚め、その中で男を作っていた事は衝撃では有ったが、彼女が愛したあのゲーム世界上では致し方ない事でもあった。しかし機械の暴走による洗脳ではないのか?とも考えた。かなり高度なAIを積んでいると聞いていたからだ。
いずれにせよ目覚めた彼女が現世で受けた苦労のその倍以上、幸せならいい。
あの男が彼女を幸せにしてくれるのなら、いい。その為なら、いくらでも何でもしてやる。
そう願った結果、2人はとても幸せに過ごし、最期も一緒だった。
彼女は幸せだったと言ってくれた。
あれだけ苦労をしたにも関わらず、俺と過ごした日々が幸せだったと、自分が事故に遭ったせいで要らぬ苦労をさせてしまったと最期まで悔いていた。
目覚めてからの自分が、母としての自分を打ち壊し、異様な程に女としてしか生きれなかった事に対しても謝罪していた。彼女自身も違和感を感じていたのだ。
だが、それでも今世の彼女が幸せだったのなら、良い。それで、いいんだ。
「颯、眠れない?」
隣から声がした。
「…少し、夢を見ていた。大丈夫だ」
心配そうに見つめる瞳。愛しく想い、彼女のその頬を撫でる。
彼女の腕が伸びてきて、その胸に抱きしめられる。
「お義父さんとお義母さんが亡くなって…まだ数日しか経っていないもの。貴方はもっと想いを私に出してくれていいのよ。…違う、出して」
喪主の妻としても心身共に大変な筈なのに、佳歩はよくやってくれている。
「少し長い話だけれど、いいか?」
「大丈夫。私と貴方が出会うまでに比べたら、短いわ」
時々、佳歩も変わった言い回しをする。
いい歳したおっさんの下らない妄想話としてではなく、もしかしたら佳歩ならこの話をしてもすんなり受け入れてくれるかもしれない。
佳歩から意外な話が聞けるかもしれない。
そして包み隠さず、俺は話始めた。




