表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰還  作者: ろぜ C-ruby
71/73

71 side:エーヴィヒ 15

 意識が朦朧(もうろう)としているが、未だ生きている…だが時間の問題だろう。この酷い状態で俺はよく生きていられたものだ。

 ここは俺と幸が被験者で入院していた病院みたいだ。一番近いERがここだからかもしれないが。

 救急隊員はずっと俺の為に懸命に延命措置をしてくれているが…すまない、もう無理だ。

 あぁ…幸に一目逢いたかった。幸の事だけが心配だ。

(せい)!何故、こんな事に」

 一志?ここでお前に会うとは…因果なもんだ。だが、一志になら、幸を任せられる。もう目が見えなくなってきているが声のした方へと顔を向ける。

「一志…悪い、ミスった。幸を…守ってくれ、頼む」

 ちゃんと聞こえただろうか?ちゃんと言えただろうか?…きっと一志なら、幸に良い様にしてくれる。

 幸…側に行けない。ごめん。



 気付くと、よく見知った建物が目に入った。

 俺はあの世界の、王城内にある教会へと続く廊下に降り立っていた。ティリアを見送り、俺が封印されたあの教会だ。

 夢でも見ているのか?俺はエーヴィヒになっていた。懐かしいあの時の姿だ。

 だが、何故?

 暫くすると一志…ベヒューテンが降り立った。

 一志がダイブさせた事、俺の身体はもう回復の見込みが無く、時間の問題だという事を聞いた。

 そんな状態の俺をダイブさせた一志の行動に驚いたが、時間稼ぎをしてくれているのだと気付いた。

 案内された教会内にレクス陛下、エリン公爵夫妻、グルック公爵夫妻が微笑みながら待っていた事にも驚いた。

「これは…どういう事だ?」

「貴方達はこちらでの結婚式を挙げていないだろう?ティリアも直ぐに来るし、折角だからと思って用意してみた」

 ティリア…幸もダイブするのか?あぁ…逢えるのか。

「ずっと心残りだったんだ。約束が果たせる。ありがとう、一志…ベヒューテン」

「私達は友人だろう?…恋敵という名の」

 かつて俺が一志に言った言葉を返される。

「そうだな…。お前には沢山、助けて貰ったな。感謝している」

 心を込めて最敬礼をする。涙が出そうだ。

「解っているよ。言葉にしなくとも貴方の感情は読んできたつもりだ」

 俺と同じく、一志も人の瞳の奥を読む人間だと気付いたのは、深く付き合う様になってからだ。

「アイコンタクト…な」

 多分、一志の方が先に俺のこの能力に気付いていたのだと思う。

「そ、アイコンタクト」

 その事について今、初めてお互いに口に出した。

 微笑み合う。これが最期の会話になるのを、お互い解っていた。

「幸ちゃんにも言って有るけど、向こうでの事は後は全て任せて。幸ちゃん…ティリアと幸せに」

 握手をする。

「ああ。ありがとう…親友」

 


 この世界から現実世界へと帰還して…もう二十年近いが、未だにこの世界に対しての記憶は鮮明だ。

 不思議だ。現実世界に戻った時、現実の記憶は朧気(おぼろげ)だったのに。同じ位の月日が流れてからこの世界に戻ったが…こちらでの記憶は一切、色褪せてはいなかった。

 やっと還って来れたという喜びが何よりも大きい。

 初めてこの世界に来た時から、やはり、俺はもう司波 誠として生きてはいなかったのだ。俺はエーヴィヒ=エタールマ=エリンとして生きていたのだ…現実世界へ帰還しても。

 だが…それでも。ティリアを愛し、幸を娶り、俺は幸せだった。幸せだったんだ。

「エーヴィヒ…」

 凛とした透明な声が聞こえた。

「ティリア。やっと、逢えた」

 ベヒューテンにエスコートされたティリアが教会内に入ってくる。俺の姿を、声を確認すると、大きな瞳を一段と大きくして瞳を潤ませた。その瞳の奥を見ると安堵と嬉しさと悲しさがない交ぜになって…俺でいっぱいになって強く俺を欲しているのが解った。ティリアはあの日のままだ。そう、俺が求めていたティリアはこのティリアだ。

 両腕を広げると、ティリアは純白のドレスの裾を掴んで、一生懸命に駆け寄ってくれる。そのまま俺の腕の中に飛び込む。なんて愛しいのだろう…。

「貴方に…逢いたかった。もう、逢えないのかと思ったわ」

 俺の胸に縋り付く。涙で顔がグシャグシャだ。

「ごめん…」

 ティリアの柔らかい身体を抱き留めて、流れる涙をキスで吸い上げる。

「事故なんて…そんな事で私から離れるなんて、駄目よ。許さないわ」

 ぽかぽかと俺の胸を叩き、ぎゅっと抱きつく。

「ごめん。これからはずっと君の側にいるよ、ティリア」

 ティリアを抱き締め返し、キスをする。あぁ…また君とキスが出来るとは思わなかった。

「エーヴィヒ、気持ちは解るが先に宣誓をいいか?」

 司教の代わりをレクス陛下が行ってくれていた。

「エーヴィヒ=エタールマ=エリンとティリアフラウ=ポープロッター=グルックは、此処に永遠の愛を誓い合い、お互いを尊敬し、尊重し、愛しぬくと誓うか?」

「私、エーヴィヒ=エタールマ=エリンは、この身体や魂が朽ち果てても、ティリアフラウ=ポープロッター=グルックを愛し、守りぬく事を誓います」

 ティリアと恋人つなぎをして宣誓する。もうこの手を二度と離したくはない。淀みなく、答える。

「私、ティリアフラウ=ポープロッター=グルックはこの身が果て、魂が引き裂かれても、エーヴィヒ=エタールマ=エリンを愛し慈しむ事を誓います」

 ティリアも淀みなく答えてくれた。

 宣誓は通った。

「では、誓いの(あかし)として、ピアスに力を!」

 陛下の秘術で作られた、あのピアスの色が、透明から深紅に変わった。

「おめでとう。これで君達は永遠に離れる事はない」



 夜…エリン公爵邸の別邸。

 ここはあのゲームで、()()()()()()()()()()()()を監禁していた場所だ。

 あのゲームでは最終的にエーヴィヒはティリアフラウを堕としたが、その心を手に入れられたか、というと…手に入れられなかったのではないかと思う。

 だが、今、俺の腕の中には俺のティリアがいる。

 誰の(もの)でもない。俺だけのティリアだ。

 今、俺達はこの身体で愛し合っている。やっと…願いが叶った。この身体も、ずっと(なか)まで愛したいと思っていた。だが、これが最初で最期だろう。

 俺の身体も限界が来ているのが解った。

「ティリア…もう、時間が無い」

 その額に瞼に頬に耳に…キスをする。

「私もよ、エーヴィヒ」

 お互いの時間が途切れるのが刻々と近付いている。

 俺の心臓が激しく痛みだす。…遅い位だ。

「最期まで一緒に居られるとは…。まさかここに帰って来れるとも思わなかったわ。貴方には私がいなくても生きていって欲しかったのに…」

 可愛い事を言ってくれるが、無理な話だ。

「解っている癖に。俺は君が居ないと、駄目なんだ。君の居ない世界なんて意味が無い。君を送ったら俺も追いかけるか、一緒に逝こうと思っていた。今日、君が旅立つ日なら、俺の事故も有る意味、必然だったのかもしれないな…。予定調和だな」

 ティリアの瞼にキスを贈る。

「エーヴィヒ…」

「ティリア、愛している。君だけを、ずっと愛している」

 ティリアを抱き締めて、優しく頭を撫でる。

「私もよ、エーヴィヒ。私をこんなに深く、強く愛してくれてありがとう。私は、貴方に愛されて、本当に幸せよ。幸せだったわ」

 ティリアがヒューヒュー言い始めた。肺が空気を吸わなくなったのだろう。苦しいだろうにその素振りを見せず、花の様な微笑みを見せ俺の身体に抱きつく。こんな状態でも俺を求めてくれるのか。…愛しい。

 ティリアはその澄んだ瞳を俺に向ける。その瞳の奥を見つめ、努めて優しく愛しさを含んで…だが気付かれない様、深く突き刺す様に告げ、聞く。 

「次の世界でも…ずっとこの先も、君を愛する。君を、必ず見つけるから…俺を、待っていて、くれるか?」

 聞く体裁の言葉だが、確定事項だ。

 青白い顔のティリアがそっと俺の左頬を撫でる。

「ええ。でも、私も貴方を探すわ。だから、見つけてね。エーヴィヒ…誠、愛しているわ」

 ティリアがもう一つの名でも俺を呼び、誓った。

 ティリア…幸の右手を恋人繋ぎにして、右手にキスをする。幸の心に…魂に、この俺の熱や余韻がしっかりと残る様に。

「愛しているよ、幸。これまでも、これからも。ずっと君だけを…」

 もう一度、唇にキスをして微笑み合い、手を繋ぎ、抱き締めあったまま…俺達は永遠の眠りについた。



 幸…俺は、あの時に自分の人生を諦めた。

 だから、誠としてではなくエーヴィヒとして生きていた。エーヴィヒルートの記憶が有ろうが無かろうが関係無かった。俺はエーヴィヒだから。

 君に出逢えた事で、俺の世界が一瞬で変わった。君が俺を救ってくれたんだ。誠としてもエーヴィヒとしても、何も感じる事が出来なかった俺に、君がくれたんだ。

 現実世界への帰還はただの恐怖でしかなかった。エリン公爵夫妻(両親)に何も出来ない。君を直ぐに守れない事が、本当に恐ろしかったんだ。

 そんな弱いヘタレな俺を、君は待ってくれた。

 俺が追いかければ、君は俺の腕に戻ってくれた。

 逆に、俺が追いかけなければ、君は二度と俺の前には現れなかったという事だ。…追いかけ続けてよかった。

 君を俺の腕から逃がさなくてよかった。

 じゃなきゃ、俺はきっとあのエーヴィヒの様になっていた。それは誰も喜ばないだろう。

 君は、君を追いかけさせる事で、俺のこの狂気を抑えてくれていたんだ。

 幸…俺の、幸。

 本当の事を言うと…俺達はあの機械によって脳を操られ選別されていた。その真実は俺以外の誰も…設計者の久遠 一志すら気付かない知らない事だ。

 あの承認調印時に付けたピアスの存在、先程の宣誓時の言葉やピアスの変化。久遠 一志が知ったらまずい事ばかりだ。

 …俺のこの君への想いも、君の俺への想いも、全てあの機械によって計算され、洗脳、改竄(かいざん)されたモノだったのにな。ははははは。

 だが…それでも、いい。

 作られたモノだとしても、俺は、幸…君が欲しいと強く思った。強く願った。

 それに君は応えた…応えたんだ。その魂もろとも全てを捧げて応えてしまったんだ!その真意も知らずに!

 洗脳されようが何だろうが、ふふ。君は俺に応えてしまった。

 俺の名エーヴィヒ=エタールマと、君の名ポープロッター=グルック。

 言葉通り、永遠の赤い幸せ。

 言葉通り、君は赤い鎖に縛られて俺からはもう永遠に離れられない。

 だから君がどう足掻こうが何をしようが、もう俺のものだよ。そう、俺のものだ!

 何処に逃げても、隠れても…君はあの永遠の誓いをしてしまったのだから。もう、俺からは逃げられないよ。

 言葉通り、幸せにする。

 言葉通り、誠実に君だけを。 

 あぁ…幸、好きだ、大好きだ。

 君を愛している、愛している、愛している。

 さぁ…おいで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ