7:朝焼け
最後にエーヴィヒがくれた髪飾りを付けて身支度を終えるが、何だか身体が重かった。
今の自分ではなく前世の自分の記憶だとしても、昏い記憶は、正直かなりしんどい。
しんどいけれど思い出した以上、切り捨てる事が出来ない。自分の中に経験として取り込まないと進めない。…進めないのだ。
幸いな事に、今の私はあの状態から遠ざかった場所におり、彼女達とも会う事は二度と無い…筈だ。彼女達がここに転生して来なければ。
それが判っていて解っているのに、何故か心は沈んで身体がしんどい。
「…甘いな、自分に甘い。いつでも、どんな時でも、私は真ん中だから大丈夫。恨むな、羨むな、私は大丈夫。頑張れる」
叱咤する。
私よりも苦しい思いをしてる人は沢山いるし、私よりも苦しんでいない人も沢山いる。上を見てはキリが無いし下を見てもキリが無い。だから私はいつでも真ん中。被害妄想するな、人を見下すな。そう思えば頑張れる…一度失敗しているが。
エーヴィヒ、逢いたい、あいたい。貴方にギュッと強く抱き締めて欲しい。バラバラになりそうだ。
薄暗い自室ベッドに腰掛けている姿を、離れた場所に設置してあるドレッサーの鏡が映している。先程も思ったが酷い顔だ。
もう少し眠った方が良かったが、しんどいのに眠れない。
いつもグルグル考える。
もう過ぎ去った事。今、考えても仕方が無いのに。
外が明るくなって来た。
今日もいい天気になりそうだ。朝焼けが綺麗。
既に支度を済ませていた私の姿を見た侍女達に驚かれ、理由を聞かれながらモーニングティを受け取る。今朝はミントだ。スッキリしたにおいが、鼻をくすぐる。詳しい事は言えないから、嫌な夢を見て早朝に起きて寝不足、とだけ伝えた。
とても心配してくれたが、そういう時こそ何時でもいいから自分達を呼んでゆっくりすべき。私の身支度は彼女達の仕事だから、楽しみを取らないで欲しいと言われた。楽しみって…。
彼女達の向けてくれる明るい笑顔に癒される…嬉しい。ありがとう。
朝食は自室ではなく食堂で摂る事と、サンドイッチが食べたいと事前連絡をしておいたので用意をしてくれていた。ふかふかなパンのタマゴサンドや、少し固めのパンを使った野菜サンド、スープ、ヨーグルトに果物。美味しそう…いや、当家の料理人が作るものは美味しいのだ。
もぐもぐ頂く。野菜もシャキシャキして美味しい。
食べて美味しいなら、私は大丈夫。ここで頑張っていける。
再度、叱咤しながら朝食を食べきった。