6:緑色
見慣れない天井…見慣れないけど二度目の天井だ、と何処かで聞いた様なフレーズを思い出す。あぁあれは、見知らぬ天井、だ。
前回と違い呼吸器は外されていたが、身体にはまだ沢山の機械が繋がっている。
また日本に似た世界の夢か。
頭はもやもやしている。
隣を見るとカーテンが閉められている。様子は見えないけれど呼吸音や機械音が聞こえるから、お隣さんがいるのだろう。貴方も早く良くなるといいね、お大事に。
ゆらゆら揺れるカーテンに、何となく目を奪われる。ゆらゆら、ゆらゆら。
不思議な夢。でもリアルな夢。
機械に繋がれた自分を夢に見るなんて、変わっている。
夢なら、あの後どうなったのか、自分に都合が良いものでもいいから、見せてくれればいいのに…。
あぁ…会いたいな。
会いたい。
転生してまで前世の世界の夢を見るなんて、何て滑稽だろう。
前世の記憶が有るこの事実でさえ、苦しいのに。
思い出さなきゃよかった。思い出したくなかった。
…そうじゃない。
そもそも何で私は事故で死んだの?
どうして死ななくてはいけなかったの?
カーテンが揺れている。薄い緑色のカーテン。
病院のカーテンって洗濯されていなくて誇りっぽくて、病院なのに不衛生に感じていた。学校の保健室のカーテンも同じ感じで、せめて半年に一回位は洗濯位すればいいのにってずっと思ってた。
普通の人が思わない・感じない様な、そんな変な視点を私は持っているから、余り人に好かれないし、嫌がられる。
職場でも、そう。
お困りのお客様の為の場所なのに、感謝される場所をとスローガンにしているのに、実際は暴言を吐く人や対応時間のみ評価される。お客様のご要望の内容とはずれて異なっていても、自分が納得出来なくても、上司の指示通りの言葉を言わなくてはいけない。指示に従わないと恫喝や威圧…所謂パワハラを受ける。せめて同じ意味でも言葉を選んで話をすれば、解ってくださるお客様が殆どなのに。
自殺する時って何も考えられないと言うけれど、本当に頭が真っ白になって、気付いたら涙を流しながら職場のビル屋上に立っていた事も有った。…私はまだ生きていかねばいけないのに、死を選んだ自分が恐ろしかった。
言葉は怖い事をこの職場で知ったから、私は威圧や恫喝はしたくないし、しない。一瞬で自己を壊され、価値の無いものにされるから。
だから公爵令嬢の今、立場や地位に溺れずにいたいと思い、願っている。私はきっとここでも何も出来ずに終わってしまうかもしれないが。せめて自分が出来る事を行動したい。
カーテンが揺れている。ここの病院のカーテンは汚れていない、綺麗だな。
夢なのに、前世の記憶がまた蘇っている。
あぁ、そうか。
思い出していない記憶もまだ沢山あって、私はそれを回収しなくてはいけないのか…。