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帰還  作者: ろぜ C-ruby
53/73

53 side:ベヒューテン 6

 ティリア…浜坂さんが現実世界へ帰還する為の最終フェーズに入った。

 最終フェーズ完了迄、一時間。

 …現実世界での一日があの世界での七日に相当する。あの世界での一日が現実世界での約三時間二十五分…浜坂さんをベースにしたティリアフラウが生成される迄、まだ六時間弱の猶予が有る。

 エーヴィヒにこれから起こる事を手短に説明し、心の準備をしておく様にと伝えておいた。彼は既に覚悟を決めていた。先程の彼女との会話で、エーヴィヒも現実世界での記憶が有る事を、私は悟っていた。

 私はエーヴィヒの監視をシステムに依頼をした。少しでも異変が有ったら直ぐにダイブ出来る様にだ。

 浜坂さんを迎える為に、自分専用の個室で目覚める。ここはシステム管理者である我々しか入室出来ないし、弊社に繋がっている隠し防犯カメラも設置されている。会社も協力関係にある病院を完全には信用していないと思われる。否…もしかしたら私達を監視している可能性も有る。

 身支度をして、浜坂さんの病室へと急ぐ。途中で担当医と看護師に彼女が帰還準備に入った事も連絡する。前兆も無く余りに急だと彼等は驚いていた。…前兆は有ったが君達がそうだと気付かなかっただけだろう?

 医師と看護師とは病室に向かう途中で合流した。

 病室で浜坂さんは既に目を覚ましていた。

「おかえりなさい」

 医師達よりも先に側に行き、浜坂さんに声を掛ける。 

「ベヒューテン?ただいま」

 彼女は私を見ると微笑んでそう応じてくれた。

 ベヒューテンとは顔も姿も違う私に…気付いてくれた。これで帰還後のサポート兼友人と称して側にいられる。奇跡はまた起こった。

「うん。ティリアの体調はどう?身体に違和感はない?」

 向こうでの口調で話す。医師や看護師達がこの口調に驚いている。私の元々の口調はこっちだし元々の一人称は僕だった。それを年齢や立場を考えて意識的に変更しただけだ。

「未だ判らないけれど、多分、大丈夫よ。…思い出した。貴方の名前…Behüten Beobachter。直訳で見守る監視者ね。そのままじゃない。貴方らしいといえば、らしいけれど」

 彼女はドイツ語に明るくないと思っていたが、この名前の意味を言い当てた事に驚いた。

 医師達はまた驚いている。彼女の発音が綺麗だったからだろう。話を聞きながら医師や看護師は浜坂さんの脈を取ったり採血したりと色々している。

「ティリア、貴方だけだよ、皆の中で気が付いてくれたの。こっちのメンバーのお医者さん達は流石だよ、直ぐに気付いてくれた。…ドイツ語だからね」

 陰で医師達にこの名前について散々なじられ馬鹿にされていたのを私は知っている。

「こ~ら、向こうでの名前で呼ぶのは禁止」

 お互いに笑いあう。

「意識レベル、会話レベル、反応レベル、脈拍共に正常ですね。帰還、おめでとうございます、浜坂さん」

 ここで医師が彼女の状況について話す。

「ありがとうございます。皆さんのおかげです。まだ暫くお世話になるかと思いますので、どうぞ宜しくお願いします」

 彼女は微笑んでそう言った。

 目覚めて直ぐ、彼女の病室移動をした。

 被験者達の病室から離れた別棟だ。目覚めた時間が夜間だったのが幸いし、問題無く移動出来た。

 最初は外科の予定だったが、彼女は肺と気管支に持病を抱えている事も有、理事長から彼女が退院するまでは呼吸器内科の最上級の個室を使用する様にと指示されていた。…ここなら司波くんが目覚めたとしても判らないだろう。

 …と思っていたのに、失態した。



 浜坂さん…幸ちゃんが帰還して十五日目の未明、司波くんが帰還した。帰還直後の対面で、彼も私を一目見て認識した。

「ベヒューテン、俺は、やっと帰還出来たのか?ティリアは?同じ病院に居るんだよな?彼女は無事か?」

 最初の言葉がそれだった。

「大丈夫だ、無事だと聞いている。エーヴィヒ、彼女は別の担当がついているから詳しくは解らないんだ」

 そう応えたが、彼は昏い瞳のまま私をじっと見詰め、急に視線を逸らして、ふーん、と言っただけだった。

 司波くんは整形外科の隔離個室へと移動した。彼は転落事故だったからだ。そこの看護師達は彼を見て色めき立った。…整形外科の入院患者は殆どがご高齢者だ。そこへ涼しげな目元の美青年が現れたとなったら…看護師も女だな。ナースステーションでの彼女達の大きなおしゃべりが聞こえてくる…呉々も守秘義務を守って欲しい。

 私は司波くんの所へもサポート兼友人として日に二回訪問していた。訪問する度に彼は歩行訓練か筋トレか昼寝をしていた。司波くんは帰還したその日から自主的に歩行訓練を開始していた。三年も寝たきりだったから全身の筋肉が脆い。自力で歩く事が出来なくなっていた。元々剣道を嗜んでいた彼だ。筋肉の作りも他の被験者とは異なる事や彼自身の努力も有、直ぐに自力歩行が出来る様になった。

 幸ちゃんと一緒にあの世界に戻る方法を聞いてきた。あの機械の趣旨を説明し、現在の貴方達は既に対象外になっている事も説明した。だが、彼は諦めずにいるみたいだった…。嫌な予感も脳裏をよぎった。

 司波くんより外部からの見舞いは暫く不要と要請されていた。ご家族の面会も同様だ。

 ある時、司波くんが後をつけて来ている事を知った。幸ちゃんの病室を探って居たのだろう。直接彼女の病室に行く事は無かったから、つけられても問題は無かったのだが…。

 彼が帰還して五日目。整形外科担当の看護師から幸ちゃんの病室に緊急で向かう様にと言われ、慌てて直行した事があった。それは誤報だったが、何かあった時用に幸ちゃんと連絡先を交換しておいた。

 翌日の昼過ぎに、幸ちゃんの病室に司波くんが訪問していると彼女からメールが来た。昨日の事は彼の策だったと愕然とした。いつもならしない失態だ。整形外科の看護師が彼女の事を知っている訳が無いのに。幸ちゃんに逢う為なら、絶対しなかった異性まで使うのか。

 彼女に謝罪のメールをしつつ病室へ直行。彼女と話しをし、後の事は彼女に任せた。

 …この病院には、医療従事者なのに守秘義務を守れない看護師が居る。個人情報保護法違反にも繋がる。被害者に当たる幸ちゃんは確実に訴えたりはしないだろう。しかし今後の事も有る為、整形外科部長に直接報告、院長へ通達、病院理事長には弊社への契約違反に当たる為、協議をする事になった。

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