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帰還  作者: ろぜ C-ruby
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49 side:ベヒューテン 2

 数年して治験段階に入り、実際にお願いする患者さんの選考に入った。

 そこにあの浜坂さんと同姓同名の人が居て、私はとても動揺した。息子さんと二人、一番、元気でいて欲しかった彼女がまさか事故に遭っているとは思わなかった。本人だとは思いたく無かったが、家族構成からやはり浜坂さんで間違い無かった…。

 ご家族の同意サインを頂くにあたり、浜坂さんのご子息とご両親にお会いした。

 中学一年生だという息子さんに、私があのゲームのプロデューサーだと見破られた。なんて聡明なんだろう。

 浜坂さんはあのゲームを未だに好きでいてくれ、現在もプレイしているという。スチルが二枚埋まらない、攻略サイトは見たくない、自力クリアよ!が口癖だったらしい。

「不思議なご縁ですね。母はよくプロデューサーさんの事を話していました。頂いたグッズは大切にしていましたが、特に鏡と扇子を愛用してました。どれもゲームグッズとは思えないクオリティだと、大はしゃぎしていました」

「え、幸のあのお洒落な扇子、ゲームグッズなの?同じの欲しいから何処で買ったのか聞いたら、非売品で宝物だからって言われたのよ。そう…あの子、本当にあのゲームが好きなのね」

「あの子は、好きな物はとことん大事に愛するからな…」

 彼女がそんなに大切にしてくれている事を知り、胸が熱くなった。

 そこで彼女が好きだと言ってくれたあのゲームの世界を機器に入れる事にした。他に選ばれた患者さん達もあのゲームファンであの世界に行ってみたいと言っていたという…凄い偶然が重なったものだ。

 駄目元で相談したが、両社の社長からもすんなり許可が出た。

 会社からの指示で第一次被験者は最終的に十五名選ばれた。管理しやすいからだという。

 被験者にはゲームキャラとして生きて貰う事にした。ゲーム通りに生きなくていい。あくまで名前と立場だけ同一だ。

 浜坂さんは勿論、ティリアフラウ役にした。

 …エーヴィヒ役も選択しなくてはいけなかった。エーヴィヒは私の分身…私自身でも有る。ティリアフラウとエーヴィヒが恋仲になる可能性を考える。浜坂さんが私以外の男と恋に落ちる等…考えたくはない。しかし時間も無い。一年(ひととせ)先輩から決断をする様に叱咤された。

 私は、彼女がエーヴィヒと恋をしない様に祈るしか、なかった…。



 機器は問題無く稼働した。

 あの世界で彼女達は生きている。例え昏睡状態だったとしても意識は表に出て来ないだけで彼女達は生きている。そうだ、彼女は生きているのだ!

 私は被験者サポートで度々ダイブしていた。

 彼女達は、ゲーム世界で人生やり直しになってしまった。元々のコンセプトからズレてしまった。しかし彼女達の笑顔を見ると、本当に嬉しかった。

 一年で七年…彼女はよちよちの愛らしい赤ん坊から可愛い幼女に成長していた。もうこの時には王家を通してエーヴィヒと出会っていた。エーヴィヒはティリアフラウを溺愛していた。…隠しルートと同じ展開だ。ここまでは問題ない。

 二年で十四年。エーヴィヒが十一歳の時、当時十歳のティリアフラウが欲しいとエリン公爵に話し、グルック公爵に直談判し、八年約束を取り付けていた。…こんなのはゲームにも無いが、世界観とキャラと立場だけ踏襲(とうしゅう)したのだから、あのゲーム通りに進む訳がない。

 …しかし私の胸はとても苦しかった。相手が誰であろうとも管理者として公平に接しなくてはいけない。一年(ひととせ)先輩が苦悩する私を心配して管理を交代してくれる様になった。

 稼働して二年と少しして…浜坂さん…ティリアフラウが十五歳になり学園に入学する時が来た。恐れていた事が起こった。公爵令嬢ティリアフラウの入学式エスコート役が同位の公爵令息のエーヴィヒなのだ。この時に二人は恋に落ちてしまった…。



 以前、浜坂さんはファンレターで打ち明けてくれた。彼女は現実では恋をした事が無いと。

 彼女が愛した男達は現実では存在しておらず、ゲームや本の世界の男達ばかりで、唯一現実の男として愛したのはチェーザレ・ボルジア…既にこの世にはいない歴史上の人物だ。チェーザレについては図書館で偶然手にとって読んだイタリア史で知ったが、彼の名前を初めて見た時に、何故か深い愛しさと切なさとで胸がいっぱいになり涙が流れたという。

 彼女は婚姻した相手を愛せなかったという。息子さんを溺愛しているが夫は愛せず苦悩したという。夫が息子さんに対して暴力を振るう様になった為、離婚と接近禁止令を得たという。

 そんな彼女が、生きている人間相手に恋に落ちた…恋に落ちてしまった。よりによって、()()()()()に!

 何度も言うが、エーヴィヒは私の分身…私自身を投影したキャラだ。ティリアフラウは私の理想の女性。…この二人があの隠しルートの様な状況ではなく恋に落ちる事は、本来は最も望ましい事だ。

 だが彼女の恋の相手は私ではない。私では無く、別の男なのだ!

 何故、被験者の人数を十五人にする事を許してしまったのか?

 何故、エーヴィヒを別の男に許してしまったのか?

 この機械はゲーム通りの人生を踏襲させるものではないし、私の為の機械ではない…解っている。解っては、いる。

 彼女が以前、エーヴィヒに興味を持っていた事を今頃になって思い出した。…だが恋に落ちるとは思わないだろう。ひとつの可能性としての話だった。

 エーヴィヒ役の彼は私と似通っていた。その執着心、狂気、彼女への溺愛と偏愛。…見目も良かった現実での彼にも言い寄る女性は沢山いたが遊び相手を作るでもなく、剣道一筋で恋をする事は一度も無かったという。…彼にとっても初めての恋だ。

 二人は本当の意味で初めての恋に落ちた。

 …だが現実世界での二人は、親子程に歳が離れている。この機械の中でだけの恋だ。機械の中でだけだ!

 そんな昏い思いを私は抱えた。こんな男を、彼女は選ぶ訳が無い。だが、それでも、私は彼女の側にいたい。

 この学園で私は彼女の親友の立場を得て、彼女の側に居る事を選んだ。

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