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帰還  作者: ろぜ C-ruby
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4:髪飾り

 お店を出るとエーヴィヒは直ぐに私の手を取り引き寄せた。すっぽりと彼の腕の中に収まる。

「駄目だな。一緒の食事は好きだが君に触れられないのが、辛い。やっと触れられた」

 スキンシップは嫌いではないが街中でこういう事をされるのは恥ずかしい。身じろいだ所で直ぐに解放、と同時に手を繋がれた。いわゆる恋人つなぎだ。

「すまない。余りに可愛くて調子に乗ってしまった。君は人前でこういう事は苦手なのに」

「苦手だけど、次から気を付けてくれればいいわ」

「ああ」

 ちょっと上から目線な返答をした私に、エーヴィヒは嬉しそうに微笑む。こんなに柔らかく優しく微笑む人が、在学中には冷徹だとか、今は騎士達に冷たい鬼神と恐れられ、それが世間に広まってしまっていると言うのだから、世の中はよく解らないものだ。


 彼は幼い頃から剣の才能が有、彼のご両親は国益になると、その才能を伸ばすように教育をしたという。

 剣の修練を進めるにあたり違和感を感じ、前世では剣道を嗜んでいた事を思い出した時には、自分にはこれしかないのか、と苦笑いしたそうだ。

 剣道は己の心身を錬磨し礼節を尊ぶものであり、国の為とはいえ、他人の命を散らすものではない。

 違和感にたどり着いた時、彼は何を思ったのだろう…この話をしてくれた時のエーヴィヒの表情を思い出すと、苦しい。

 それでもエーヴィヒは学園を卒業後、騎士として王城に勤め、今では誰もがその才能を認める騎士となった。

 休憩時に少し様子を見に行った事が有るが、その剣捌きは見事で、目を奪われた。

 私も真似して剣を振ろうと持たせて貰ったが、真剣は余りにも重くて持ち上がらなかった。レイピアならきっと持てる筈だ!と言ったが、この世界にはレイピアは存在していなかった。残念。


「これ、君が好きそうだ。見てみないか?」

 食後の散歩がてら街中を歩いていたが、エーヴィヒがあるお店を示した。確かに、私の好みの髪飾りが展示されていた。

「入ろう」

 そのまま店内に入り、髪飾りを見る。繊細な作りで素敵。

 細身の店主が慌ててやってくる。

「エリン様、グルック様、いらっしゃいませ。しかし当店にはお二方にお召し頂く様な上等な品物はございません…」

「邪魔する。そんな事は言わないでくれ。髪飾りを見たい。手にとって試してもいいか?」

 無表情にそう応えるエーヴィヒに、冷や汗を流している店主。

 とって食う訳ではないから大丈夫…と言ってあげたいが、私たちの地位や立場などを考えると、それは無理な話なのかもしれない。

「はい、それは勿論です」

 エーヴィヒはそっと髪飾りを持ち上げて渡してくれる。

「ティリア。君に似合うと俺は思うのだけど」

 ふわりとエーヴィヒは私に微笑む…店主が目が飛び出そうな位に驚いている。

 両手で受け取った髪飾りを持って鏡の前で合わせようともたつく私に、店主がわざわざ鏡を持ってよく見える様に写してくれる。その心遣いが嬉しい。

「素敵ね…。作りもしっかりしていて。毎日でも使いたいわ」

 赤いビーズがちりばめられた銀の髪飾り。華美でもないが地味でも無い。なんて愛らしいのか。

「過大な評価を、ありがとうございます。職人が喜びます」

 店主の後方で男性が恐縮そうに頭を下げる。それに軽く首を横に倒して返礼する。

「いいえ、本心よ。頂くわ」

 素敵な買い物が出来る事に思わず興奮。お財布を出し掛けたが、エーヴィヒに止められる。

「君の物は俺が買う。ティリアが毎日使ってくれるなら俺も嬉しい。このまま付けるかい?」

「ええ」

 私が髪飾りを付けいている間に会計を済ませ、一緒にお店を出る。

「ありがとうございました」

 先程の職人さんと一緒に見送りまでしてくれた。

「こちらこそ。彼女がとても喜んでいる。良い買い物が出来た」

 お店を離れると、二人の話し声が聞こえてきた。

「噂は本当だったんだなぁ。4大公爵家の内でも王家にとても近いお血筋のエリン公爵家の若様とグルック公爵家のお嬢様が市井でよく過ごされているって」

「気に入られた店にいらっしゃるとは聞いていたが、オレのを買ってくださるとは、嬉しいなぁ」

「良かったなぁ」

 …そう、本来は護衛も付けずに街中を歩く身分ではない私達。しかし前世の記憶も有るし、自国の民が害をなす様な愚か者でも無い事を知っているので気にせずにいる。

 他の貴族達は眉をひそめているが、私達の両親は市井の事を解らないのは嫌だという意見に賛成してくれた。

 お互いの両親が理解の有る人物で良かったと思う。

「エーヴィヒ、髪飾り、ありがとう」

「どういたしまして」

 お花をくれ、ご飯の他に髪飾りまで。嬉しいが申し訳ない気持ちが有る。

「…ティリア、君の性格は判ってる。でも君を構成しているものに関わりたい、関わっていたい。本当は全部を俺が占めていたいんだ。…こんな風に異性に対して思うのは初めてだ。一緒になれるまでの間、許容してくれ」

 こんな俺は気持ち悪いよな…とひとりごちる。

「私の事を考えてくれてありがとう。解った。甘えさせて頂くわね」

「ティリア!」

 抱き締められ、唇を奪われた。


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