29:侍女
婚約式の前日、夕方。
遠方からの訪問者が続々と訪れた。なんと国境を守護する辺境伯もこの婚約式に来て下さったという。代理の方が訪問なさると思っていたので、びっくり嬉しい。
私は式本番の準備で前日から動いている為、訪問者のお迎えが出来ず。心苦しかったので、事前に手紙をそれぞれの方々の部屋に添えた。
今夜も屋敷の皆は、忙しく動いてくれている。にも関わらず、嫌な顔や疲れた顔を見せずにキビキビ働いてくれている。公爵家の使用人だしお給料も高給なのだから当たり前、という人も居るだろう。確かにそうだが、こんなにやわらかい表情でこなす事は難しいと私は思う。
いつも私は皆に助けられてる…こんな私を助けてくれる使用人の皆に、何かお返しをしたい。
「ティリア様、お疲れ様でした。明日は婚約式ですね。ゆっくりお休み下さい」
「ありがとう。私は自分の事だから良いのだけれど…。通常業務の他にも、私の為に忙しくさせてしまってごめんなさい。貴方がたも早めにゆっくり休んでね。いつも、助けてくれてありがとう」
精一杯の感謝の気持ちを伝えた。
「あぁ…ティリア様。私達はグルック公爵家にお勤め出来る事を誇りに思っております」
「他家で勤務している者達から羨ましがられる程です」
「使用人に優しくして下さる、グルック公爵ご一家のお陰でいつも、お仕事が楽しいです」
口々に言ってくれる彼女達に、感謝の気持ちが溢れた。
「ありがとう…皆にお世話になれるのがあと少しだと思うと、寂しいわ。どうぞ宜しくね」
「ティリア様、そんな勿体ないお言葉を」
「お嫁にゆかれる迄、ティリア様をサポートさせてください」
寂しくなって、皆で泣いてしまった…。
侍女達がさがり、自室のベッドでぼーっとしていた。
今夜も月がとても綺麗。明日は満月を迎えるという。そういえば、こちらの世界も前世と同じく月が一つだ。
夜間は通常こちらの世界でもカーテンを閉める。しかし私は一部分だけレースのカーテンを使用している。その方が、夜間は夜空を楽しめ、月明かりで室内が明るいので余計な明かりは不要になる。朝方は日の光ですっきりと目覚められるからだ。
明日も晴れる…雨の中の式ではお客様が大変な思いをしてしまうので、よかったと心底思う。
「…」
声が聞こえる。
「…?」
気のせいか?
「…!」
聞いた事の有る様な…?
「…」
…もう遅い時間だ。耳鳴りが声みたいに聞こえたのかもしれない。もしくは、音は上に響くというから、下の階のお客様の話し声が聞こえるのかもしれない。
ベッドに潜り込む。シーツがお日様にいい匂いがした。こんなに忙しい日に、わざわざ私の為にシーツ交換までしてくれた事が、その気遣いが嬉しくて、涙が出た。
私はきっと、この世で一番しあわせな公爵令嬢だろう。
疲れからか、いつの間にか眠っていた。




