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帰還  作者: ろぜ C-ruby
29/73

29:侍女

 婚約式の前日、夕方。

 遠方からの訪問者が続々と訪れた。なんと国境を守護する辺境伯もこの婚約式に来て下さったという。代理の方が訪問なさると思っていたので、びっくり嬉しい。

 私は式本番の準備で前日から動いている為、訪問者のお迎えが出来ず。心苦しかったので、事前に手紙をそれぞれの方々の部屋に添えた。

 今夜も屋敷の皆は、忙しく動いてくれている。にも関わらず、嫌な顔や疲れた顔を見せずにキビキビ働いてくれている。公爵家の使用人だしお給料も高給なのだから当たり前、という人も居るだろう。確かにそうだが、こんなにやわらかい表情でこなす事は難しいと私は思う。

 いつも私は皆に助けられてる…こんな私を助けてくれる使用人の皆に、何かお返しをしたい。

「ティリア様、お疲れ様でした。明日は婚約式ですね。ゆっくりお休み下さい」

「ありがとう。私は自分の事だから良いのだけれど…。通常業務の他にも、私の為に忙しくさせてしまってごめんなさい。貴方がたも早めにゆっくり休んでね。いつも、助けてくれてありがとう」

 精一杯の感謝の気持ちを伝えた。

「あぁ…ティリア様。私達はグルック公爵家にお勤め出来る事を誇りに思っております」

「他家で勤務している者達から羨ましがられる程です」

「使用人に優しくして下さる、グルック公爵ご一家のお陰でいつも、お仕事が楽しいです」

 口々に言ってくれる彼女達に、感謝の気持ちが溢れた。

「ありがとう…皆にお世話になれるのがあと少しだと思うと、寂しいわ。どうぞ宜しくね」

「ティリア様、そんな勿体ないお言葉を」

「お嫁にゆかれる迄、ティリア様をサポートさせてください」

 寂しくなって、皆で泣いてしまった…。



 侍女達がさがり、自室のベッドでぼーっとしていた。

 今夜も月がとても綺麗。明日は満月を迎えるという。そういえば、こちらの世界も前世と同じく月が一つだ。

 夜間は通常こちらの世界でもカーテンを閉める。しかし私は一部分だけレースのカーテンを使用している。その方が、夜間は夜空を楽しめ、月明かりで室内が明るいので余計な明かりは不要になる。朝方は日の光ですっきりと目覚められるからだ。

 明日も晴れる…雨の中の式ではお客様が大変な思いをしてしまうので、よかったと心底思う。

「…」

 声が聞こえる。

「…?」

 気のせいか?

「…!」

 聞いた事の有る様な…?

「…」

 …もう遅い時間だ。耳鳴りが声みたいに聞こえたのかもしれない。もしくは、音は上に響くというから、下の階のお客様の話し声が聞こえるのかもしれない。

 ベッドに潜り込む。シーツがお日様にいい匂いがした。こんなに忙しい日に、わざわざ私の為にシーツ交換までしてくれた事が、その気遣いが嬉しくて、涙が出た。

 私はきっと、この世で一番しあわせな公爵令嬢だろう。

 疲れからか、いつの間にか眠っていた。

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