2:いつもの場所
目を開けるとそこはいつもの執務室。
あたたかい湯気が立つ紅茶を持っていた。気持ちを落ち着かせる為に、ひとくち紅茶を飲み、ソーサーに戻してから、置いた。
辺りを見回す。いつもの部屋。いつもの場所。何も問題は無い。
親友-ベヒューテン=ブォバッハ-の不思議そうな表情と問い掛けに、何でも無いと返事をし、笑顔を返した。
ふと、時計を見やる。時間は全く進んでおらず、先程の前世の世界のだろう病院での出来事は一瞬の出来事だった様だ。
一体、何だったのだろう…。
気になる部分も有ったが、休憩は終わり。仕事を再開した。
夕闇が迫って来た。本日の仕事も予定通りに終了。後は帰宅するのみ。
帰りの準備をしていると、ノック音。扉を開けると花を一輪持った恋人のエーヴィヒ=エタールマ=エリンが立っていた。
エーヴィヒは私が前世の記憶を持っている事を知っているし、彼もまた前世の記憶を持っている事を話してくれた。
彼の前世は転落事故で死亡。趣味ではゲームはやらないが、年の離れた妹にせがまれてこのゲームを一緒にプレイ。転生してゲームの世界と気付いた時は、やっぱり混乱したそう。
彼の他にも数人転生者を知っているが、詳しく聞かない様にしている。どうあがいても、泣き叫んで喚いても、もう戻れない世界だ…。前世に捕らわれて現世を見失ってしまう可能性が濃厚だからだ。転生者は皆それを解っているから詳しくは聞かないし、聞けない。現世の為に生きている。
しかし私は前世に凄く心残りが有る。残してきてしまったがちゃんと生きていてくれているだろうか…いつも思い出している。
エーヴィヒは食事に誘いに来てくれたそう。いそいそと帰り支度をして、執務室を後にした。