15:想い
顔中にキスを受けている。
「エーヴィヒ…?」
ぼんやりとして、身体もぐったりしている。
服も乱され、ドレスの裾から足が見えていた。
「ティリア…苦しかった?それとも、よかったのか?」
エーヴィヒは質問しながらもキスを止めない。首筋にキスをし始める。
「ん…エーヴィヒ…好きなの…」
声が震える。
「…知っている」
エーヴィヒはチロリと私の瞳を見て、今度は胸元へのキスを始める。
「あ…貴方が、好き、大好き」
首筋にエーヴィヒの舌が這っていく。
「俺も、愛してる。ティリア」
「お願い…私のこんな声を、貴方以外に聞かれたくないの…人払いと遮断して欲しい」
昨夜、父も展開したが、空間遮断魔法はその場所の持ち主でないと使えない魔法だ。ここはエリン公爵邸だから、エーヴィヒしか展開出来ない。
「可愛いな、ティリア。大丈夫だよ。君とこの部屋に入った時点で展開する様になってるから、安心して」
唇に深いキスを受ける。なんだかよく解らない感情にまたグチャグチャにされて、涙が出て来る。
「ねぇ、エーヴィヒは、どうして私に話してくれなかったの?」
「?…何の事だ?」
瞼にキスをし、涙を吸ってくれる。
「貴方の大事な話。昨日、父から貴方の事を聞いたの」
反対の瞼も吸い取ってくれる。
「あ~…うん」
「わ、私は、全然、知らなかった」
「…え?」
キスが止まる。心底驚いた顔をしてる。
「私は知らなかったの、貴方の秘密を!…あぁぁぁ、泣くつもりは無かったのに」
決壊した様に止めどなく涙が溢れ出る。
「ティリア、君、何周もクリアしたと言っていたよね?」
エーヴィヒは私の涙を指で拭ってくれる。
「したわ、回収漏れ確認も入れて、それこそ10回はしたのよ?」
「10回…スキップ使っても10回って…どれたけ好きなんだ」
「しかもスチルが二カ所も空いてるバグ付よ?いくらこの世界があのゲームの世界だからって、全てが同じじゃないわ。私はエーヴィヒとは転生してから初めて会ったんだもん。ゲームキャラだからって貴方を好きになった訳じゃないわ!確かに一目惚れだったけど、貴方を知って好きになったの!」
一気にまくし立てる様に話す。
「貴方の秘密がもしゲームに有ったとしたら、私以外の人だって、知ってる事になるのでしょう?そんなの、嫌!貴方は、私の、私だけの人なの。貴方の悲しみも喜びも、全て私のなの!」
…あぁ、私は本当に駄目な人間だ。
あれだけ覚悟を決めて、悪役令嬢の様に悠然と毅然とした態度をすると決めていたのに。なんて幼いのか。転生しても、歳を重ねても、この幼い本質は変わらないという事か…。
「…ティリアフラウ。君は、本当に…」
エーヴィヒ、貴方のその表情は、何?
「そうか…俺は最初から君も知っているものと思ってた。確かに転生仲間にもエーヴィヒの秘密を知っている者はいる」
額に優しいキスをくれる。
「俺も、元々知っていた」
ギュッと抱き締めてくれる。
「エーヴィヒは、あのゲームの隠しルート?みたいなモノのキャラで、ルート解放条件がとても厳しかったんだ。妹も、隠しルートをたまたま見付けた。知ってる仲間達も同様」
私が知らない仲間内の話を聞かされる。
「秘密は…内容が内容だし、もし本当にゲームの世界通りなら、空間遮断出来ない場所でする話じゃないだろう?何せゲーム補正的なトラップが有った位だ。だから皆、話さなかったし、ルート解放の話もしなかった」
父から聞いた通りなら、恐ろしい事になっていた可能性は有る。
「解放した仲間達も俺と同様に、君もルート解放していると思っていたよ。…思ってたが、そうか。やはりコミュニケーションは大事だな」
そう言いながら、エーヴィヒは微笑む。
「俺だから、好き…か」
ぽそりと独白した。
「ティリア、今日エリン邸に来た理由は、エーヴィヒの秘密、この話だけか?」
エーヴィヒはじっと見詰めてくれる。
「…そうよ」
「他には、本当に何も無い?」
「…エーヴィヒに逢いたかった」
恥ずかしくて、エーヴィヒの視線から逃れる様にうつぶせになる。
「あぁ…可愛い。ティリア、愛してる」
首筋にキスされ、そのまま背筋にもキスを受ける。服の上からだというのに、何故こんなに触れられた所が熱く感じるのか…。
胸に触れられた所で、動きが止まる。
「…また暴走しそうになった。ティリアが可愛い過ぎる」
私の右側にエーヴィヒは寝転がる。抱き寄せてくれ、囁く様に愛してると、言ってくれる。
「ティリア。前にも伝えたが、俺は君の全てが欲しい。…引かないで欲しいんだが、俺以外を見ない様に監禁してしまいたい位に君に溺れているんだ」
「監禁…」
「…ん。エーヴィヒルートにもティリアフラウを監禁して溺れさせるルートが有ったな…だから難易度高く設定して有ったのか…?」
「溺れる…」
「あぁ。ルートによっては、ティリアフラウはエーヴィヒに執着されて、断罪イベント直後に拉致、別宅の一室に監禁されるんだ」
「拉致…」
「狂愛ルートって呼ばれてたな…皆ティリアフラウが好きだから、傷付いたティリアフラウをグチャグチャに愛して幸せにして欲しいって言ってたな…エーヴィヒが壊れる前に」
「狂愛…」
「あぁ…まさに今の俺がそうなんだが、…怖いか?」
不穏な鈍い光を瞳に宿して私を見詰めるエーヴィヒ。微笑んで視線を受け止める。
「いいえ。それも貴方なら受け止める。大好きよ」
噛み付く様に深いキスを受ける。呼吸が乱れてしまう。
「なら、俺のモノに…ティリア」
左手を持ち上げて、薬指に赤い宝石の着いた指輪を嵌めてくれる。
「何が有っても俺からは決して離れないと…死ぬまで、いや死んでも俺から離れないと、誓え」
エーヴィヒは鈍い光を湛えたまま強く見詰める。
「ええ。誓うわ、エーヴィヒ。私が貴方の邪魔にならない限りはずっと貴方の側にいる」