13:秘密
人払いされた父の書斎。魔法でロックだけでなく、空間切り離しまで行われた。流れる様な父の美しい所作に、尊敬の念が増した。
そこまでする必要の有る話…そう思うと聞くのが怖い。しかしそれだけの話を私にしてもらえる事が嬉しい。
その時はそう誇らしく思っていたが、突き落とされた。
両親から聞かされた話は、結論から言うとエーヴィヒとのお付き合いは許されないという内容だった。
温厚で私に対して甘い両親が、こんな事を言うなんて信じられなかった。今までだってエーヴィヒとのお付き合いについて一切、口出しせず、私達の交際を応援してくれてもいたのだ。
今日だって、エーヴィヒからの花束をどんな顔をして預かってくれたのか?
それを急に掌を返されるとは、私に落ち度が有ったに違いない。何が私に足りないのかを父に質問する。
すると、とんでもない方向からの話が出て来たのだ。
内容が内容だけに我が国では最重要機密情報扱いと成っているが…エーヴィヒの実親は国王陛下と、今は国交断絶した隣国の姫君。エーヴィヒは王の非嫡出子=庶子であり、エリン公爵家の養子だが実際は嫡男となっている。隣国継承権一位の姫の実子だから継承権をも本来は有する事になる。我が国でも本来は第一位継承権を持つ立場だが庶子であり、現王妃は他国の公女だが隣国の姫君と元々折り合いが悪く、性格的にもエーヴィヒの秘密を知られると命の危険と外交問題に発展する可能性の示唆も有った。
もしエーヴィヒと婚姻となった場合、本来の意味で行くと従兄妹同士になる。過去、王室からの再三にわたる婚約申込を退けて来た理由と矛盾してしまう事、何よりも王室よりも権力が強くなる為に危険視されてきている等…。
エリン公爵がエーヴィヒに話した時、動揺は見られたが、既に知っている様子すら有ったという。当時の事を知っている者は一握りで既にこの世を去っている者もいる。情報源が判らず、エリン公爵は戦慄したという。
このままエーヴィヒとのお付き合いを続ける事は、私の命にも関わる為に親としても許されないと言われ、真っ白になった私はどうやって自室ベッドに戻ったのか解らない。
エーヴィヒは名前のみゲームに出ていた。重要でもないキャラにキチンとした名前を付与するだろうか…?
完全クリアしたと思っていたのは私の記憶違いか。確かにスチルが二枚回収出来ていない部分が有った。何度も周回したが未選択部分は無かったから、バグかと思っていた。
もしそれがバグじゃなかったら…?
…この世界がゲームの世界だと知っているから、こういう考えに至ってしまうのだ。
エーヴィヒの事はゲームキャラだから好きになった訳じゃない。確かに再会時の一目惚れでは有った。お互いにゲーム補正の可能性も考えた。でもここはゲーム世界と同じ世界でもゲームじゃないし、お互いを知る事で想い合う様になった。ここは転生した私達が生きている世界だ。…これは、私が思っている考え。
でもエーヴィヒは?
本当のエーヴィヒは、私をどう思ってくれてるの?
何故、エーヴィヒは私に話をしてくれなかったの?
私を好きだと、私を欲しいと言ってくれたのは嘘だったの?
どうして?
どうして?
…違う、そうじゃない。
私は、今、自分の事しか考えていない。自分が可哀想だと思っているから、こんな考えに陥るのだ。
両親がどんな思いで、私にこんな重要な話をしてくれたのかを考えるのだ。両親はどんな表情だった?父は?母は?…母は私を想って泣いてくれていたではないか。
落ち着いて、気を静めなくては。
こう、直ぐに混乱するから、多角的に見えなくなる。落ち着くのだ。
もうたっぷり泣いた。
ただ泣いていたって、何も解決しない。泣いて、責めて…何が変わる?
自分が駄目に成るだけだ。
大事な人達を傷付けるだけだ。
エーヴィヒの話を聞かず、彼を信じず、私は彼の恋人だと胸を張って言えるのか?
父は「許されない」と言った。「許さない」ではない。そこにヒントも有るだろう。父の話を精査するのだ。
私は悲劇のヒロインではない。
私は[悪役令嬢]なのだ。
例えどんなに自分の真意を理解されずに悲しみ、傷付き、苦しんでも…自分の選んだ道を悠然と毅然と微笑みすら浮かべて歩くのが、悪役令嬢なのだ。