12:祖父母
人生、楽あれば苦もある。
前世で母方の祖父母とよく一緒に観ていた、ある有名な時代劇の主題歌の歌詞。それを思い出した。
既に亡い祖父母を…とても可愛がってくれた祖父母を今頃になって思い出した。薄情な孫娘だ。
前世の両親は姉弟を可愛がり、私に対してはそれなりに大切にしてくれていたと思うが、…私は居場所が無いと感じていた。
信頼できる友人も無く、虚しさを埋めてくれたのが祖父母だった。
「大丈夫だよぉ。あんたはいつも頑張ってるんだから。ばぁちゃん、応援してるから!な、じぃさん!じぃさんもいつも応援してるもんなぁ!」
昭和初期生まれで激動の時代を生き、若くして祖父の介護と、色々苦労して来た筈の祖母だが、私達にはいつも笑顔で底抜けに明るく優しかった。
「う~!うんうぇ~!」
祖父は働き盛りの頃に病気で右半身不随に。暫くして舌が動かなくなり話も出来なくなってしまった。幼い頃、話が出来た頃の祖父は直ぐ怒鳴る為、恐怖の対象だった。本当は照れ屋で、今でいうツンデレ。優しい眼差しを向けてくれていた事に、私は気付くのが遅過ぎた。あの頃の私をひっぱたいてやりたい。
転生しても二人に会えなかった事が悲しくて、何十年も経ったのに二人の姿と声がハッキリと思い出せた事が嬉しくて、泣いた。
今はもう会えない祖父母に、沢山の感謝と謝罪、心から冥福を祈った。
涙は祖父母の事だけではない。
両親から聞いた話がショックで、涙が止まらない。
…今までが平坦だったのだ。平坦過ぎる程に。
どうして、こうも、ままならないのだろう。
何故、私はいつも、こうなんだろう。
転生した事や、前世の記憶を取り戻した事…。その事だって私達にはとても苦しい事なのに。
悪役令嬢役なのに、悪役令嬢らしからぬ行動をして来たからいけないの?
転生仲間を見付けてしまったのがいけなかったの?
苦しむ人をなるべく出さない様にと、行動したのが駄目だったの?
悪役令嬢なのに、あの人を好きになり、側にいたからいけなかったの?
私が、我が儘過ぎたのか?
私は愚鈍過ぎる。
…何故、気付かなかったのだろう、彼の事を。
気付かなかったというか、気付かなかいフリを私はしてたのだろう。この幸せを壊したくなくて。
確かにゲーム内で彼の名前は見ていた。だがそれだけだった。
彼がどんな人で、どんな立場なのかは一切ゲーム内では語られておらず、私は出会ってからの彼しか知らない。
だって必要ないでしょう?本来、人と人が出会うのなんて殆どの場合は前情報なんてないのだから。色眼鏡なんか付けずにまっさらな状態で出会い、お互いを知り合って行けばいい。
それで十分だ、十分な筈だ!
でも、これは酷い。
余りにも、酷い。
前世の…ゲームプレイした記憶が有るから尚更、辛く感じる。
エーヴィヒ、エーヴィヒ、エーヴィヒ!
貴方は何故、私に話してくれなかったの?