11:声
学園時代振りにエーヴィヒと長い時間を過ごせた私は、彼には悪いが、自分が思っていたよりもずっと嬉しかったみたいだ。
いつも以上に効率良く午後の仕事を終える事が出来、優先順位の低い少し先の予定だった案件もまとめる事も出来た。やっぱり予定よりも前に終える事が出来るのは気持ちが良い。エーヴィヒマジックか。
途中、ベヒューテンがエーヴィヒに会いに凄い勢いで執務室へやって来たが、既にエーヴィヒは帰った後だった。エーヴィヒが倒れた事を噂で知ったが、仕事の関係で直ぐに来れなかったと、悔やんでいた。担当業務がかなり立て込んでいて直ぐに戻るようだ、とも…。
「エーヴィヒに、もし何かあったら私に連絡を。あぁ、戻らないと。暫くティリアともお茶出来なくなるのが、辛い…。じゃ、また!」
駆け出した腕を引き止める。
「どうした?」
「ベヒューテン、貴方も無理しないでね。心配だから」
ベヒューテンの好きなお菓子を入れた籠を渡す。
「でも応援してるわ。少しだけど、皆で食べて」
びっくりした後にふんわりと微笑み、礼を言いながら来た時と同じ勢いで去っていく。
ベヒューテンも無理を押して仕事をしているふしが有る。身体を壊さないといいけど…。
帰宅すると、自室に大きい花束が届いていた。エーヴィヒからだという。
ゆっくり過ごせばいいのに、わざわざ私の為に用意してくれたのが嬉しくて、ニヤニヤしてしまう。
「エーヴィヒ…好き、大好き」
花束をそっと抱いて花の匂いをかぐ…甘いけれど優しい匂い。
以前エーヴィヒがくれた花瓶に飾って、昨日貰ったお花と並べて置く。
綺麗な花束と可愛いお花。
私は、幸せだ。
「…」
話声が聞こえる。
「…」
自室には私しかいない。
「…」
気のせい?
「…」
?
「…!」
廊下に出るが、誰もいない。自室の扉を閉めて階下の応接室へと向かうが、使用していない。
首をひねるが、晩餐の時間になったので、晩餐室へと向かった。
帰宅直後だった為、着替えていない非礼を詫びて晩餐室に入る。両親は咎めず、労ってくれた。
今夜も美味しい晩餐を頂き、嬉しい。メインディッシュの鶏肉のグリルは私の大好物だ。
本来、私くらいの年齢の女性は、社交に明け暮れる、という精神的にも肉体的にも辛い慣習の中で過ごすのが普通の姿で、登城しての政務は男子がすべき仕事だ。
しかし私達が学園を卒業する際、優秀な女性は王城で政務に参加すべき、という国王陛下の一言で改革が起こり、何故か優秀でもない私もその中に組み込まれてしまった。
公爵令嬢たるもの社交界の華であれ、となるだろうが、私はあの慣習的な社交世界が嫌いだ。有る意味、渡りに船だった。
組み込まれたメンバーは知っている面々だったので良かったが、転生仲間が皆、選ばれていて嬉しかったのを覚えている。
私は一人娘だし、父の兄…伯父とはいえ、国王陛下に能力を認められたと両親はとても喜んでくれたのも嬉しかった。
両親から最近の仕事状況について聞かれる。当たり障りの無い部分だけ伝える。いくら親だと言っても守秘義務は有るのだ。
両親は嬉しそうに私の話を聞いてくれている。
晩餐を終え、退出を告げる。
いつもならそのまま就寝の挨拶になる。
しかし…話が有ると、両親から父の書斎に呼ばれたのだった。