10:レモン水
やわらかい日差しが室内を照らす。
コチコチ秒針の音と、ページをめくる音。静謐なこの感じが、私は、好き。
この役職に就いてから、考える事や調べなくてはいけない事が増えたけれど、不思議と難なくこなせている。私をサポートしてくれてる人々が優秀だからだろう。有り難い。
そのサポートメンバーがそれぞれ執務室に訪れては、エーヴィヒの姿をみると驚くが、最近のエーヴィヒの仕事状況を知ってるせいか、咎めず、心底心配してくれる。
城内にはテーブルと椅子がある休憩室は有るが、そこには横になれるような椅子も無い。勿論、医務室は無い。怪我をした場合は魔法で塞いでしまうからだ。
登城中の体調不良時はどうしてるのか聞くと、微妙に噛み合わない回答が返ってくる。学園に有った保健室みたいな場所が無いのは何故か聞くと、それは学園だから有るのだ、で終了される。
しかし城内に医務室創設について聞くと皆、目を輝かせて話を聞き、創設に同意する。何だろう…違和感を感じる。
気を取り直し、近々行われる定例会議にて提案する事を伝え、創設費用等の計算や資料についてと、モデルケースとして学園へ相談依頼等、アポイント準備をお願いした。
「ティリア…?」
「エーヴィヒ、起きられる?辛い所はない?」
目を開けたエーヴィヒの側にしゃがんで、髪を撫でる。その手を掴まれそのまま、掌にキスされた。
「問題ないよ、ありがとう。すまない。仕事の邪魔ばかりして」
瞳に光が有る。大丈夫そうだ、とレモン水を渡す。
「少しは眠れたみたいね、良かった。食欲は?」
レモン水は一気にエーヴィヒの中へと消えてゆく。
「有るが…、これ以上、邪魔したくないから、帰るよ」
エーヴィヒはブランケットを綺麗にたたみながら微笑する。
「…一緒に食べたかったから、用意して貰ってたのだけど…そう」
久し振りに一緒のお昼が出来ると思ってたので、少しガッカリした。そんな私の額にキスをくれる。
「そうか。有り難く頂いていくよ」
唇にもキス。
「もぅ、エーヴィヒはすぐキスする」
「嫌、か?」
「嫌じゃない…今は二人きりだから。以前の貴方も、恋人にはこんな風にしてたのか…と思っただけ。ごめんなさい。嬉しいのに、よく判らない、変な気持ちなの」
チュッと音を立てたキスを受ける。
「あぁ前世の話か。以前も言ったが剣道一筋だったから、女性に告白されても興味も無かった。剣道の方が大事だったな。だから彼女もいないし、…初恋すらしてなかった。後にも先にもティリアだけだ。キスしたいのも、欲しいのも」
男としては、つまらないだろう?と苦笑してるが、私だけの人だと思うと優越感が湧いた。
つくづくエーヴィヒは、私の理想なのだ。