1:ここにいたるまで
目が覚めた時、見知らぬ天井が視界に入った。
…病院のベッドに寝かされていたのだ。
しかも腕は点滴の針が刺さり、あちこちによく判らない機械が繋がっていた。
そう、機械が繋がっているのだ。
私は事故に遭い転生をした。
転生先は何故か剣と魔法と恋が織りなす、大好きな乙女ゲームの世界だった。
大好きな世界観ではあるが、何をするにも魔法を使うか手で行うかのどちらかで、現代日本で生まれ育った私には、有る意味、不便でもあった。
悪役令嬢に転生した私は、婚約者からの断罪イベントや死亡フラグを前世の記憶=ゲーム攻略情報を頼りに回避。
ここ迄は、よく有る創作作品への転生物語と同じ。
…不思議だったのは、私以外にも前世の記憶を持つ人が存在し、邪魔をされるかと思いきや実に協力的だった事。前世の記憶を思い出したのが8歳とかなり早い段階だった事。
悪役令嬢になって苦しい思いをしたくはないから良かったが、余りにも都合の良い展開に驚きを隠せなかった。だって前世の私は要領は悪い、頭の回転は悪い、人付き合いも上手く出来なかったのだから…。多分、ゲーム攻略情報を記憶力として持っていたお陰だろう。
記憶が確かならば…私は公務の合間の休憩でお茶を飲んでいた筈。珍しい茶葉が手には入ったからと、親友が遊びに来てくれたのだ。それは芳醇で、前世でよく飲んでいた紅茶と同じ味だった。
お茶にお茶菓子と大好きな親友とのお喋り。親友は聞き上手で、私はいつも話し過ぎる。充実しすぎな休憩時間。
そこで途切れて、曖昧になっている。
何故、前世の記憶…日本の病院とよく似た場所にいるのか…否、ここは日本なのか?
私はどうやってここに来たのか。
紅茶に何か入っていたのか?
親友は大丈夫なのか?
まさか転生してしまったのか?
混乱しそう…。
呼吸器を外そうと腕を動かした所で看護師がやって来た。私の様子を見て駆け寄り、気分はどうか話せるか等を質問しながら、ナースステーションに連絡をいれていた。
少しして、医師が到着。あれこれと診察しながら看護師と同様、話せるか気分はどうかを聞いて来た。喉が渇いて発声し辛いし、頭がぼ~っとしているが問題無いと伝える。
自分の置かれている状況も判らず、質問した所で、意識が途切れた。