カレーラーメンの思い出
在来線一本の鉄道駅から通学定期を使い県庁所在地までたどり着くには往復千円あれば事足りた。
限られた資金をやりくりし県庁所在地にある数件の書店を巡り、至高の数冊を求め訴えたるこの儀式こそが、当時私の生きることの本分であったのかもしれない。
地元の本屋で耳の悪い主人に、生まれて初めてなけなしの勇気を振り絞り発注した「○○○一刻の三巻」を後日「メゾンイッコクの賛歌」という書籍は存在しないと居丈高に告げられた時から個人経営の書店へは入れなくなった。小学校高学年の出来事であったと記憶する。
そんな書籍あさり(複数書店を何度もめぐり限られた予算内で最大限の欲求を満たすための書籍の購入リストを練り上げるのだ、”あさる”という表現が適切であろ)最中の食事は、取る・取らないを含めかなり重要なウエイトを占める。食欲と読書欲そして資金力のせめぎ合いである。
デパ地下喫茶店の今となっては店名も正確な値段も思い出せないのだが、県庁所在地までの電車代-高校通学定期+追加電車賃×往復+キオスク白黒アンパンセット=ジャスト千円。
そのアンパンセットに数百円足せば食べることが出来たカレーラーメン。
喫茶店の二人席の一端に座り込み。無心で熱いカレーラーメンを啜る自分の姿を鮮明に思い出し脳内に絵描けるのだ。
輪ゴムの様な食感の麺、醤油ラーメンにカレーをかけただけのラーメン。
普通のラーメンより安価だった気がするのだが(それくらいのコスパがなければ当時の私が書籍購入費を削ってまで食べようとはしない、空腹を満たすだけならアンパンセットで十分なのだから)ランチメニューか何かだったのだろうか…。
覚えている、育ち盛りの腹を熱いラーメンで満たし、本を読みながら帰る電車の内は最高にして至福の時間であったことを。
気が付けばデパ地下の喫茶店は無くなっていた。
書籍もラーメンも好きな時好きなだけ手に入れられるようになった。
でも時々思い出す、あの輪ゴムの様なラーメンの食感を。
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