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白ずきんちゃん

作者: 笹木 人志


 昨夜から降り続いていた雪は朝には止み、窓からはさんさんと朝日が入ってきました。暖炉で踊る炎の中で薪がはぜ、小さい火の粉が舞いました。アリエルは、寝ぼけまなこのままアドヴェント・カレンダーの今日の日付のところの封を破くと中から小さいチョコレートをつまみ出しました。その深い栗色の塊をみて思わず目をしっかり見開きました。

「やったぁチョコレートだ。ママ、チョコレートがでたよ」アリエルは白い息を吐きながら甲高い声をキッチンに向かって放ちました。

「よかったわね、でも未だ食べちゃためよ。先ずは顔を洗って、朝ごはんを食べてからにしなさい」母親の優しい声がキッチンから聞こえました。

 アリエルはすぐにでも食べたい思いだったので、つまらなそうに小さい声で返事をすると、チョコをテーブルに置き、冷たい水がはってある洗面器に指先だけ水をつけてそれで顔をこすってから、いかにもお手製という感じの木の椅子にちょこんと座りました。

 やがて、良い香りと共にジャガイモのスープと、硬いライ麦パンを薄く切ったものをトレイに載せて母親がやってきました。

「いただきまーす」と目の前に朝ご飯が置かれるやいなやアリエルが、颯爽とスプーンを持ちましたが、母親がそれを制しました「おやおや、忘れ物よ」

「あ…」とアリエルはもっていたスプーンをテーブルに置くと、両肘をテーブルについて両手を組んでから、小さい声で神様に感謝しました。

「さあ、いただきましょう」と二人は、音も立てずにしずしすと食事をはじめました。

「ねぇ、お父さんは?」アリエルは、何時ものように訊きました。

「牛の乳を搾っているわよ」

「ねえ、私も見てみたいな」

「そうねえ、そろそろ手伝ってもいい頃かもねぇ、あとでお父さんに訊いてごらんなさい」

「うん、そうする。ねぇ、食べたら、ケッパーと遊びに行っていい?」ケッパーは、家にいる狼でした。以前怪我をして倒れていたのを、父親が見つけてきたのですが、命の代わりに失った後ろ足と、群れの仲間は到底取り戻せるものでなく、番犬代わりに玄関前に何時も寝そべるようになっていました。

「あらら、この娘ったら、昨日言ったことをもう忘れたの?今日はお婆さんの家に行ってお泊りするのでしょう?」

「あ、そうだった。」アリエルはぽりぽりと頭を掻きました。

「あなたは、すぐに寄り道するから、食べたら早めに支度するのよ」

「アリエルは寄り道しないよ」少女は赤い頬をぷっとふくらませました。

「分かったわ、でも今日は早く行くのよ。これからお母さんとお父さんは大事なご用があるの」

「うん」アリエルは、朝食をしぶしぶと食べ続けました。



「さあ、これを持ってね。」と母親は、籐で編まれたバスケットをひとつアリエルに渡しました。上にはナプキンが掛けられていましたが、その脇からワインのボトルとパンの端っこが出ていました。

「すごく美味しそうなパン」アリエルは今朝のパンとは比べものにならない香りに鼻をくんくんと鳴らしました

「食べちゃだめよ。おばあさんは今調子が悪いみたいだから、向こうではあまりはしゃがないでね。そうそう外は寒いから」と母親は、一旦奥に引っ込むと白い毛糸の頭巾を持ってきました。暖かそうな頭巾は、これから向かう祖母が昨年孫の為に作ってくれたものでした。母親は、目線を少女に合わせながらそれを少女の頭にかぶせて、小さく頭を叩きました。頭巾からぶら下がった小さな鈴が小さくともよく通る音をちりんとならしました。

「かわいい白頭巾ちゃん、頼んだわよ」

「うん」と少女はうなずいて、ドアに向かいましたが。ドアが先に開きました。大きな体を持った父親がそこに立っていました。

「おっと、お出かけだね。」父親の太い声が上から降ってきました

「そう、おばあちゃんの家に行くの」アリエルは、上に向かって返事をしました。

「そうかい、気をつけてな、くれぐれも道草をしないようにね。」父親はそういって体を横にどけて少女の為に道を空けました。

「うん」とアリエルは、雪の中をゆっくりと進んで行きました。雪と言っても深雪ではありません、真新しい雪の中を小さい足跡を残しながら、雪に埋もれた道を進みました。自然の多いここでは、人間より動物が遥かに多いので、ウサギや狸の足跡が、雪の中に沢山残っていました。

 こういう環境で育っただけに、少女は、多くの動物の名前を覚えていましたし、また食べる事の出来る草木を覚えるのも早かったのです。しかし、今日は道すがらに出会う動物はいませんでした。それもその筈で、頭巾に付けられた鈴がここに人がいるよと知らせているようなものですから動物の方から寄ってくるはずもありません。

 木々の間を通ると、冬鳥の声がしました。そして羽音と共にどこかへ飛んで行きました。その姿を見送ってから、目を地面に落とすと、秋の間に落ち損ねたのか、どこかの枝にひかかっていたのが風で落ちたのか、枝についたままの木の実がいくつも雪の上に散らばっていました。少女は道を少し外れ、その枝から実をとるとポケットにしまいこみました。


 

 すだじい、まてばしい、くぬぎにこなら

 雪の上で凍えてる

 可愛そうなのでポケットで暖めてあげる

 

 すだじい、まてばしい、くぬぎにこなら

 雪の上で凍えてる

 すだじいは美味しいから後でたべちゃうの


 すだじい、まてばしい、くぬぎにこなら

 雪の上で凍えてる

 までばしいは、粉にしてクッキーの中


 すだじい、まてばしい、くぬぎにこなら

 雪の上で凍えてる

 くぬぎはまるくて可愛いからオーナメント


 すだじい、まてばしい、くぬぎにこなら

 雪の上で凍えてる

 こならは、小さいコマにして遊ぶの


 小さい声で歌いながら、拾ってゆくとポケットはどんどん膨れて行きました。やがてポケットが一杯になると、


 すだじい、まてばしい、くぬぎにこなら

 雪の上で凍えてる

 ポケットは一杯だから、もうさようなら


と歌を切り上げて満足そうにポケットを上から叩きました。


 そしてまた道に戻って歩き始めました。誰も歩いていない雪道を歩くのが楽しくて少女は時折道を外れて蛇行したり、太い木の幹の回ったりと遊びながら進みました。そして森の外れにある彼女でも一跨ぎできそうな小川の小さい橋の周りには沢山の水仙が花を俯かせて咲き誇って良い香りを一面に振りまいていました。

「なんて、いい香り、きっとお婆さんに持って行ってあげたら喜んでくれるわ」と少女は、摘んではバスケットの中にそれを入れてひと時の時間をすごしてしまいました。



 その頃、彼女の祖母は、まだ来ない孫の事が心配でやきもきしながらも、きっと道草でもしているのかなと、椅子に座ってなかなか進まない編み物を続けていました。だから、木でできた扉がノックがされた時もそれがアリエルだろうと疑わずに扉を開けてしまいました。

 しかし、そこに居たのは、とてつもなく大きな見たことも無い生き物でした。その姿はまるで毛むくじゃらの大きなボールのように見えました。祖母は即座にきびすを返し、暖炉の上に飾ってある銃に手を掛けようとしたその刹那、祖母の腕に何かが巻きついて体が引き戻されてしまいました。

 まん丸なくせに動作が速いな、と引き戻れさながら怪物のいたところを振り返ると、怪物の胴が縦に大きく裂けその裂け目の奥からはピンク色をした触手が何本も伸びて祖母に向かってきていました。その内一本が腕に絡みついていたのです。どうする?と思う間もなく他の触手が祖母の脚を捕らえました。

 そして倒れた彼女を引きずりながらその裂け目の中に引きずりこもうとしました。裂け目の奥は赤い肉襞に覆われ、その中の表面は粘膜のような滑りのある組織で覆われていました。

 彼女は力を込めて、踏ん張ったり、まだ自由の利く手であちこちを掴もうとしましたが、その力に抗う術もなく裂け目の中に取り込まれてしまいました。

 そしてその大きな裂け目が左右から閉まって、またひとつのまん丸な毛むくじゃらの生き物に戻りました。 

 しかし、老婆は中で生暖かい組織に覆われながらも生きていました。ただ腕や足を触手でがんじがらめに捕まれていたので、文字通り身動きが取れなくなっていました。

 粘膜の組織には酸味が無いことからどうやら消化する気も無いようでした。(わしの捕獲が目的だったのかな?)と老婆は思いました。すると、アリエルも危ないかもしれない。彼女は必死になって身動きをとろうともがきましたが、縛めは思う以上にきつく、手も足もしびれるし、体力も消耗してゆくだけでした。

 

 アリエルは、肘にかけた籠の上を水仙の花で覆って、満足そうに鼻歌を歌いながら雪道をゆっくりと進みました。やがて祖母への家が近くになってくると、向かう道が丁寧に均してあるのでだんだん進む足も速くなってきました。きっとお婆さんがわざわざ道を作ってくれたんだわ、でも最近調子が悪いっていってたけれど大丈夫だったのかしら?きっとお疲れでしょうから、急いで肩でも揉んであげましょうと、小さい脚をもっと早く動かしました。


 そして家の前に辿りついたとき、異様に大きな獣に出会ってしまいました。歩き易くなっている路はそのまんまるい生き物が作ったもののようです。どこかに口があるようでもなく、ただの大きな毛むくじゃらの玉の生き物。

「ねぇ、あなたはなんという動物なの?」アリエルは声をかけました。この森には沢山の動物が居るので、まだ知らない生き物が居ると思ったのです。ただその声は生き物の中に閉じ込められた老婆の耳にも入りました。

「アリエルお逃げ!!」老婆は中から注意しました。しかしそれはくぐもった聞き取りにくい声としか少女に伝わりませんでした。

「え、なんと言ったの?」アリエルにはまるで、その獣が人間の言葉を話したかのように思えましたので良く聞こうと生き物に近づきました。

 そして獣は、ぐるりと体を反転させて、少女を見つけると胴体を左右に大きく開きました。アリエルにはその中に、老婆の姿を認めました。老婆は大声で「逃げなさい!」と叫びましたが、裂け目から伸びたぬめぬめとした触手はたちまち少女の胴を捕らえ、悲鳴ともども老婆と中に押し込められてしまいました。

「おばあさま、私たち食べられちゃったの?」怪物の中でアリエルは泣きながら言いました。

「いいや、食べられた訳じゃないが、捕まったことは確かだね。お前、手足は動かせるかい」

「うん、動かせる。でもなんで捕まったの?食べるわけでもないのに」

「私たちを調べたいのさ」

「なんで、調べたいの?」

「さあ、分からないよ。あれ、なんか臭いね」と思った瞬間、二人の閉じ込められた場所がふわっとふくらみ、そして空気が音を立てて裂け目から出て行きました。

「この、動物おならしたをみたい」アリエルは、鼻をつまみながら言った。

「ここは肛門かい」老婆は、あきれながら言いました。「大きいのを出さないことを祈るかないな、服にそんなものが付いたら洗うのが大変だ」

「そんな事になったら、パンもワインも駄目になってしまうわ」アリエルは悲しそうに言った

「おや、ワインだって。いいねぇ。」

「ええ、山葡萄で作った新酒のワインなの。」

「アリエル、ワインはコルクで硬く栓をしているのかい?」

「ううん、お婆さんは直ぐにすぐに飲むだろうからって木で簡単に栓をしてあるだけだわ」

「アリエル、じゃあそのパンをワインで浸しなさい。」

「勿体ないわ」

「いいから言うことを聞きなさい」

「うん」アリエルは、パンを手さぐりで取り出すと、ワインの口を押さえている木片をはずしてパンに少しづつ掛けました。パンは序所にワインでびっしょりになってしまいました。

「おばあさま、できたわ」

「よし、じゃあその辺をまさぐって手が奥に差し込める場所があったら、そこに塗らしたパンを突っ込みなさい」

「はい」とアリエルは、片手でぬるぬるした壁をまさぐりました。やがて手がずぶっと奥に入る込む場所があったので、そこにパンを押し込みました。

「入れましたおばあさま、でも手が臭い・・・」

「後で綺麗に洗おうね。あとはこいつが酔っ払うのを待つだけだからね」


 暫くすると、怪物が体を揺らしているようで、二人も中で左右に揺れました。そして、老婆を束縛していたものがゆるりと取れました。

「もう、効いたか、下戸だなこいつ。こっちとら月齢が15日だから調子がいいんだ。」と老婆は両手を出口に差し込んで思い切り左右に開こうとしました。

 そのとたん、アリエルが詰め込んだ場所からワインが飛び出し。アリエルはひゃーと叫び声をあげ、目の前で肉の扉が左右に開きました。

 そこで二人とも、転げるようにして雪の中に飛び出しました。アリエルは、頭からワインをかぶってしまったので、頭巾はすっかり赤く染まって服も赤い染みが出来ていました。

 しかし、老婆の姿といったら、腕も顔も毛むくじゃらになっていて、手は大きく膨れあがり、その先にある指のつめが5本ともかぎ爪のように鋭く伸びていて、口は目尻まで大きく裂けその中にある歯は鋭く尖ったものがずらりと並んでいます。とても人間とは思えない姿になっていたのです。

「おばあさん、その姿…」とおびえるアリエルの目の前でけだものに似ていた老婆の姿はまた人間の姿に戻って行きました。

「もう少し大人になってから、お前に教えるつもりだったがね…」老婆は、白いため息をつきました。

「私たちは人狼なんだよ」

「私も?、おばあさまみたいになるの?」

「ああ、もう少し歳をとったらね」老婆は、そっとアリエルを抱きしめました。「そしてここを守るのだよ」

「守るって?」

「ここの生き物達をさ、ここは沢山の命に満ちている。そして遺伝子的な可能性も多くあるんだ。でもその可能性を求めてこいつみたいなクズどもがここの生き物達をかっさらって行こうとする。特にわしらなんか、貴重な存在ときている」

「なんか怖い・・・」

「大丈夫、心配しなくても私たちが付いているよ。」そして身動きしないでいる大きな生き物を老婆はみつめました

「さて、直腸から直にアルコールを摂取して伸びたこいつをどうするかな」

「気が付いたら、また襲ってこないかしら?」

「そうだね、私たちの代わりに何か詰めておこうかね」

「おばあさま、賢い!」

「よし、アリエル寒くて悪いが、石を沢山持っておいで、それをこいつの肛門に押し込んでやろう」


 ふたりはせっせと石を運んでは、怪物の大きな肛門に石をぐいぐいと押し込んでゆきました。老婆はその中にひとつの金属の塊もぐいと詰め込みました。やがて、それが自分たち二人分の重さになったと思われた頃に、そっと陰に隠れて様子を見ました。

 怪物は、夕暮れ時にやっと動き始め、丸い体のあちこちから触手を出してそりのそりと家から遠ざかって行きました。

「さてと、行った行った」老婆は、ずっと身をかがめていたので、疲れた腰をとんとんと叩きました。

「ねぇ、お父さんとお母さんは大丈夫かしら?」

「お前さんの両親は、優しくみえるが、わしより強いから大丈夫じゃろうて、まぁ後で様子でも見に行こうかね。でもその前に疲れたからお茶でも飲もうかね、美味しいケーキも焼いてあるよ」

「わぁ!ケーキ大好き」

「その前にきちんと石鹸で手を洗うんだよ」

 洗面所には冷たい水が張ってありました。アリエルは、一度手の匂いを嗅いでから顔をしかめると丁寧に手を石鹸で洗いました。


 ケーキは山で取れた野生の葡萄やイヌビワを干したものや、クルミやハシバミを砕いたものと一緒に焼いたパウンドケーキでした。しかもその間には、たっぷりのヤマモモのジャムが沢山塗ってあるものでした。

 二人は、それを紅茶で(お婆さんはミルクだけ、アリエルはたっぷりの野いちごのジャムを入れて)頂きました。


 しばらくして、毛皮をまとった一人の猟師がやってきて、老婆の家のドアを叩きました。老婆がドアを開けると一瞬猟師は、躊躇した様子を見せました。

「おやおや、ギャテじゃないかい、どうしたんだい?」老婆は、笑みを見せて対応をしました。

「あ、いや、不審な宇宙船が降下したのを見かけたので、様子を見にきたんだ」猟師は、肩に掛けた銃をさすりながら答えました。

「ああ、密猟者ならさっき追っ払ったよ」

「そうか、それならいい」猟師は、きびすを返そうとしました

「寒いから、お茶でも飲んでいかないかい?」

「大丈夫ならいいです。事務所が遠いし還るまでに暗くなりそうだから帰りますよ。狼に襲われたらたまったものじゃない」

「狼はそうそう人を襲わないよ。でも、そうだね暗くなったらやっかいだ。気をつけてな」

「どうも」と猟師はドアを閉めて帰って行きました。

老婆は、椅子に戻ると、カップを手にとりお茶を飲みました。

「あの、でかい毛玉みたいな密猟者はきっとギャテの手引きで来たと思うな」

「まさか、ギャテさんはここの保護区のレンジャーだし、優しい人よ」

「匂いがするのさ」老婆は、自分の鼻を指した。「あの毛玉と同じ匂いがね。」

「私、気が付かなかった。」

「それも、いずれ分かるようになるさ、それよりアリエル、お前さんはクリスマスに欲しいものはあるかい?お婆さんがプレゼントしてあげようかね」

「うん、弟が欲しいの。だからお父さんとお母さんにお願いしたの」

「おばあには、それは無理だな…」と答えながら、老婆は孫の居ない娘夫婦の家で何が起きているのかを悟りました。なら、様子を見に行くだけ野暮ってものだなと老婆は、心の中で笑いました。

「じゃあ新しい綺麗な赤い頭巾が欲しいな。これ、汚れちゃったし」アリエルは、暖炉の前で洗って乾かしているものの、ワインで染まってしまった頭巾を見ておねだりをしました。

「そうだね、じゃあおばあが新しいのを作ってあげようね」

「ありがとう、おばあちゃん大好き」アリエルは椅子から立ち上がると老婆の首に抱きつきました。

「ありがとうよ、かわいいアリエル。そういやお前なんで来るのがあんなに遅れたんだい?」

「ごめんなさい」とアリエルは頭を掻きながら答えました。「途中で綺麗な水仙が沢山あったから、おばあちゃんに持って行こうと思って寄り道しちゃったの・・・お願い、お母さんに言わないで、寄り道するなって言われていたのにしちゃったもの」

「優しい子だね、でも寄り道はあまりしないようにね。明日、晴れたらおばあちゃんがもっと素敵な秘密の場所に案内してあげようね」

「え!どんなところなの?」

「それは行ってのお楽しみさ。さて、夕飯の準備を手伝ってくれるね?」

「うん!」そしてアリエルは、じゃがいもの皮むきを手伝い、老婆はアリエルの母親の作るのと同じ味のスープを作りました。


 食事も終えた頃、祖母は思い出したようにくすくす笑いました。

「おばあちゃん、どうしたの?」

「いや、なにさ、そろそろ、時間かなと思ってさ・・・」

「なんの時間なの?」

「一緒に外に出てみようか、流れ星が見えるかもしれない」

「え、見たい見たい、私、何をお願いしようかな」

「まぁ、お願いは叶わないと思うがね」

「えーそうなの?」

「でも、私達が平穏に過ごせますようにという願いならきっと叶ったと想うよ」

「私のお願いはまさにそれよ、おばあさん、みんなとずっとここで暮らせますようにって、あと弟も・・・」


 二人は、厚いコートに身を包むと外に出て空を見上げました。やがて、ひとつの光点が地上から空に向かって飛んで行くのが見えました。

「あの密猟者め、やっと帰途についたか、ちゃんと中身まで確認したのかねぇ」祖母がぽつりと言うとやがて空に大きな光点が広がりそこから無数の流れ星が生まれました。

「綺麗だけどなんか変」アリエルは流れ星を見ながら言った

「石に混ぜて爆弾も入れておいたのさ、全く確認もしないで哀れだねえ」祖母は、さむいさむいと言いながら家に向かって歩き出しました。遠くで狼の遠吠えが聞こえました。

「ねぇ、おばあちゃん」老婆の横を歩きながらアリエルが甘い声で訊きました。

「なんだい?」

「赤頭巾と狼のお話を聞かせてちょうだい」

「いいよいいよ、まずは歯を綺麗に磨いてからね」

アリエルは白くて立派な犬歯を見せて頷きました。


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