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怨霊鏡ねこむすめ! 〜オカルト研究部へようこそ〜  作者: あいうえ
22 鵺の正体はなんだ!?
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「おまえはやはり邪神だ!」

「わしは守護神であって、(よこし)まなる神ではないぞ!」

「今更しらばっくれるな!」


 そのとき、突然祈祷所の引き戸が開いた。


「ご飯ですよ!」


 そこには天ぷらの大皿を手に持った光子が立っていた。その背後にはお盆にご飯や取り皿を盛った信者たちがいる。


「お母さん、ここから先はあたしたちがするから」


 美虹が急いで立ち上がった。


「八橋先生に話があるんだけど」

「八橋先生もお母さんに話が聞きたいんだって」


 鵺に一升瓶を渡していた菊瑠が光子から大皿を受け取りながら、八橋を振り返った。


「そうそう、白山さんにいざなみ教の口伝なんかを聞きたくて。もしお時間があれば、ご飯を食べながらお話をしませんか?」

「あら……じゃあ、信者さんたちも一緒に。あらあら、美虹と八橋先生たら、ずいぶんお酒を飲んだのね」

「え? ボクたちはお酒なんて飲んでないですけど……」

「だよね?」


 八橋と美虹が不思議そうに一升瓶を見た。

 鵺がでんと座り込む座敷に臆することなく入ってきた光子たちに、満夜はいぶかしげな視線を向ける。


「おばさんはこの化け物が見えてないのか?」


 小さくつぶやいたつもりだったが、凜理には聞こえていた。


「今更言うのん? 千本鳥居から帰ってきてる途中も誰も鵺にきづかんかったやん」

「むぅ。言われてみれば……では、我がオカルト研究部部員たちだけに見えるというのか?」

「そやな」


 テーブルに天ぷらの大皿が置かれる。エビやサツマイモ、タマネギにシメジ、ピーマンにとり天も並んでいる。


「おお、うまそうだ!」


 揚げ物好きの満夜は目の色を変えて大皿を見つめた。


「ほほう、おまえの家のてんぷらより品数が多いな」


 満夜の頭上からジュルリと舌なめずりする音が聞こえて、テーブルの上にぼたりと涎が落ちた。

 上を向くと、今にも一口に皿を食ってしまおうとする鵺のあぎとが見えた。


「そうはさせるか!」

 それを満夜が八束の剣でガキッと防いだ。


「くっ。キサマに天ぷらを食われて溜まるか!」


 満夜と鵺がテーブルから飛び退()いて、祈祷所の真ん中で天ぷらを巡る争いを始めた。それを横目に、朗らかに光子が笑っている。


「あら、満夜くん。剣術の稽古なんて始めちゃって」

「お母さん、芦屋先輩は大好物をもふもふちゃんから守ってるだけだよ」

「そうそう」

「そうなの? 天ぷらならまだたくさんあるから心配しなくて大丈夫なのに」

「だそうですよ、芦屋くん」

「満夜も鵺も遊んでないで食べぇな」


 満夜から先に八束の剣を降ろすと、鵺に念を押した。


「さっきチョコを死ぬほど食って、酒も死ぬほど飲んだんだ。天ぷらだけはキサマには一つたりともやらんからな!」

「そうやって吠えておれ! そのてんぷらも我が口中に収める!」

「そうはさせるか!」


 満夜は席について、取り皿に食べたい天ぷらを次々に盛り合わせていく。その箸を鵺が前足で狙い定めてくる。


 シュッシュッシュッ!


 目にもとまらぬ速さで端と前足が皿の上で交差した。鵺が見えない人間からは満夜が天ぷら皿の上で箸をめまぐるしく動かしているようにしか見えない。


「よっ! はっ! とうっ!」

「がっつかんと、落ち着きや」


 凜理は呆れたように満夜たちを見た。光子もホホホと笑っている。


「そんなに急いで食べなくてもまだあるわよ」

「おばさん、これは天ぷらを巡る死闘なのだ!」

「死闘て大袈裟やなぁ」


 八橋が箸を置いて光子に尋ねる。


「そういえばさっきの話ですけど、いざなみ教の口伝というのはどういったものがあるんですか?」

「口伝と言うほどのものではないですけど……例えば、いざなみ様に仕えるヨモツシコメの話などは表にも話せる内容ですかねぇ」

「ヨモツシコメはいざなみに仕えているのですか?」

「そうです。いざなみ様が黄泉に赴いたときに出迎えたのがヨモツシコメだったんですよ」

「ヨモツシコメはいざなみよりも前に黄泉にいたんですねぇ」

「黄泉の出現と同時にヨモツシコメは生まれたと言っておられました」

「ではそれまでは黄泉は……?」

「なかったそうです」

「レッサーパンダちゃんが言っていたとおりかぁ……じゃあ、ヨモツシコメは元々なんだったのか、知ってますか?」

「いざなみ様はヨモツシコメは元は人間だったと教えてくださいました」

「人間……」

「はい。あら、そろそろ天ぷらがなくなりそうね。ちょっと作って持って来ますね」


 そう言って光子と信者たちは祈祷所から出て行った。

 いつの間にやら、満夜と鵺が両手と前足を上げて、威嚇し合っている。器用に箸で宙を切り裂くように動かした。鵺も負けじと前足の爪をギラリと輝かせる。


「やはり捧げ物とは生け贄のこと。人間を食って生きながらえてきたのだ!」


 満夜が勝ち誇ったように二本足で立つ鵺を見上げる形で人差し指を向けた。


「それがどうしたというのだ、些細なことではないか」

「この魔物が!! 開き直るのか!?」


 そんな二人を尻目に八橋が鵺を見ながら考え込む。


「不思議なのは、いざなみのときに先に死なせてから肉体を食べたことかな……魂は黄泉に行くというのは前に聞いたけど、肉体を食べたらその肉体も黄泉に行けるって事だよね?」

「そのとおりだ」


 鵺が八橋の言葉に頷いた。


「生け贄として捧げられた人間は生きたまま食べたんだよね?」

「その通りだ。でなければうまくない」

「レッサーパンダちゃんは、一体人間の何を食べてるの?」

「魂だ」


 鵺が鋭い牙を見せて笑った。


「魂はうまいぞ」

「もしや……ヨモツシコメは魂のない、生け贄のなれの果てなのか!?」


 満夜はあの恐ろしい化け物たちを思い出して愕然とした。


「意図せずそうなった」

「だから、あいつらはキサマを恐れるんだな!」

「わしに何度も食われたくないのだろうが、あのような肉塊、わしには何の魅力もない」

「罪のない娘たちを食っておきながらその言い方はないだろう!?」


 怒りに震えながら満夜は言い放った。


「元々人間やったのに、なんで人間を襲うのん?」

「魂が欲しいのだ。心がない鬼になってしまったからな」

「それでヨモツシコメは人間を襲ったり、黄泉で亡者を追いかけたりしてるんか……」

「黄泉の出口で人間が近づくのを待っているのだろう……だが、それもおまえの封印が完全に解けた暁には閉じられるのだろうな?」

「無論」


 満夜は畳にあぐらをかいて、ドスンと座る。


「最後の封印……」


 考え込んでいたが、いきなりポンと手を打った。


「わかったぞ! おい、先生。石像と土偶を出すのだ」

「どうして?」

「未知なるオレの力が、オレに囁くのだ! 最後の封印のヒントは土偶にあると!」

「どういうこと?」

「学者のくせにわからんのか! 土偶がどんな形で配置されていたか! 石像がなぜいらず山の祠にあったのか!」

「レッサーパンダちゃんを崇拝していたから?」

「ちがーーう! オレの先祖、いざなぎはその石像に封印を施したのだ。埴輪という生け贄を捧げてな!」

「ええ?」

「八橋先生、紙に土偶の向きや位置を書き出してくれないか」

「わかった」


 八橋が鞄から取り出した紙とボールペンで、平坂の簡単な地図を書き始めた。

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