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三が日の最後の日、公園の前で満夜たちは八橋と待ち合わせていた。
朝から雪が降る中、オカルト研究部部員全員、鼻の頭を赤くして小刻みに震えている。さすがに凜理も菊瑠もパンツスタイルだ。美虹だけが長いスカートにタイツをはいている。
「蛇塚に潜入するのに、スカートをはいてくるとは覚悟ができてないな」
「あたしは用心して外で待ってるつもりなんだ。菊瑠ちゃんは絶対入らないといけないし、満夜くんもそうでしょ。一番わからないのは凜理ちゃんだけど」
「うちは寒いからパンツをはいただけ。さすがにマイナス一度でスカートはようはかんわ」
「女の子としての覚悟ができてないぞ!」
美虹が人差し指を立ててウィンクした。
「女の子の覚悟てなんやの……」
寒さでやる気をなくしている女子二人は足踏みしながら、ガクガクと震えた。
満夜も震えてはいるが、首回りに鵺がいるおかげで女子よりましな様子だ。いつものごとく七つ道具を入れたボストンバッグを持っている。
「俺は覚悟ができているぞ。スカートだのパンツだのとくだらんことで覚悟の無駄遣いはせん。しっかり地面に寝っ転がれるように寝袋も持ってきた! 白山くんも寝袋は持ってきただろうな!?」
「はいっ! この通り持ってきました!」
菊瑠が巨大なトートバッグを掲げてみせた。寝袋が発動するのは千本鳥居以来だ。
「今日の温度はマイナス一度だ。透視しないように準備は万端か!?」
「はいっ! 服の下に何枚も重ね着してます!」
「あんたら、元気良いなぁ……うちは家でこたつの中で丸まってたいわ……」
「それにしても八橋先生は何をしているのだ」
「準備とか許可とかいろいろと大変やないの?」
オカルト研究部全員であの蛇塚の内部に入り、黄泉の入り口へ魂を誘導する術法をおこなうのだから、唯一の責任者としては何らかの対処が必要になるのかもしれない。と、全員勝手に思っていたが——。
道の向こうから、分厚いダウンジャケットでもこもこの八橋が片手を挙げて走ってきた。
「やぁ、明けましておめでとう! わぁ、レッサーパンダちゃんも明けましておめでとう!」
「明けましておめでとうございます」
満夜と鵺以外は丁寧に頭を下げて新年の挨拶をした。
「おい、先生。準備はできてるだろうな」
「明けましておめでとう」
「あけおめ」
八橋がしつこく挨拶すると、面倒くさそうな顔で満夜が挨拶を返した。
鵺に至っては、冷たい視線を八橋に向けている。
「くりくりしたお目々が冷淡にボクを見ててゾクゾクするよ!」
「この変態先生が……」
「でも、もふもふちゃんの目で冷たく睨まれても全然怖くないですし、むしろほんわかしますよね!」
「だよねぇ! くりくりお目々が堪らない〜」
触らせてと手を伸ばす八橋と菊瑠から逃げるように、鵺が満夜の肩から飛び退いた。
公園の入り口の柵の上に器用に二本足で仁王立ちになり、前足の爪をギラリと見せつけた。
「鵺なるわしを見て畏怖せぬか! わしは愛玩動物ではないぞ! 気高くも恐ろしい平坂の守護神、鵺なるぞ!」
シャーッと息巻いているが、蛇尾をのけて全長五十センチ強のもふもふの塊に、可愛い以外の言葉が見つからない。萌えの極みである。
「茶番に興じている場合ではない。先生、蛇塚には入れるのか?」
「入れるよ。ただし、ボクの監督がなければ無理だけど。冬休みの間は発掘もお休みだしね。何かあったらボクの責任だから」
「蛇塚にはオレと白山くんと戦闘部員の凜理と鵺が入る。先生と美虹くんは塚の外で待機していてくれ。何かあれば、凜理が知らせてくれるだろう。今回はいざなみの妨害もないはずだしな。そうだな?」
と言って、満夜は美虹に目をやった。
「大丈夫。くくりひめ様の言葉をいざなみ様も聞きたがってるし。むしろヨモツシコメから守ってくれると思うよ」
「うむ。ならば、いざゆかん!」
満夜が先頭切って、蛇塚に向かった。
入り口が崩れたはずの蛇塚も今は修復されて、だいぶん発掘も進み、整備されていた。
満夜が八橋を眠りの淵から呼び戻した後は祟りなどもなく、滞りなく発掘できているらしい。
すでにいくつもの不思議な土偶や首飾りや土器がでてきている。
八橋が蛇塚の入り口に設けた柵の錠を外して、満夜たちを導き入れた。
「真っ暗やな」
「懐中電灯を付けろ。ランタンでは心許ないぞ」
「そやな」
「ゲジゲジがいます〜」
泣きそうな声で菊瑠が言った。
「ゲジゲジなど構うな! 奥に入るぞ」
「よもや何度もここに来るとは思わんかったぞ」
四つん這いになって塚の中心まで這ってきた。
「さぁ、ぐだぐだいわずにくくりひめと交信をする方法を教えるのだ」
「まぁ、わしの言うことをよく聞くのだ。くくりひめは平坂の地から連れ出され、いざなぎとともに処刑された」
「ええっ!? 酷い。まだ子供なのに!」
「裏切り者は一族郎党殺すのが天つ神のやり方だからの」
「それで? くくりひめはどうなったのだ」
「なんといっても生と死の狭間で生まれた子供だ、死んだ後も自分の魂を自由にできた」
「死んだら自由にならへんの?」
「死ねば人は輪廻転生する仕掛けになっておる。あっという間に生まれる体を割り振られてしまうのだ」
「じゃあ、くくりひめ様は輪廻転生せずに死んだ後も彷徨っていたんですか?」
「自分が生まれるべき場所が見つかるのを待っていたのだ。いざなみと交信する娘のそばに生まれ、自分の母親のことを見守っている」
「美虹くんが聞いたら泣いて喜びそうな言葉だ」
「自分の意思でお姉ちゃんの妹として生まれたって言うんですか」
「おそらくな」
「なんでそないなことが鵺にわかるのん」
「おまえ達はわしには何の力もないと思っておるようだが、そのものの魂を視る力くらいはあるのだ」
「だからオレがキサマの従者の子孫だとわかったのか」
「そういうことだ。娘と従者、ならんで横になれ」
満夜と菊瑠は鵺に言われた通りに寝袋に潜り込んで寝転がった。
「従者はそのまま幽体離脱すればよい。わしは娘の魂を呼び出す」
鵺が右前足をぽふんと菊瑠の額に載せた。
「もふもふです〜」
うっとりとした様子で菊瑠がつぶやいたが、ストンと落ちるように寝入ってしまった。
目をつぶり、満夜も精神集中する。目の前に細くて暗いトンネルが現れた。赤と黒と紫に染まったトンネルの壁がぐるぐると渦巻きを作り、奥へ奥へと続いている。
自分の意思でそのトンネルを進み、どんどん先へ行くと、とうとう小さな出口が見つかった。満夜はためらわず、その穴をくぐった。
満夜を心配そうに見下ろす凜理の顔が目の前に現れた。
体を起こしてみると、鵺が自分を見据えていた。くりくりした瞳が可愛い。
「魂が抜けたようだな。では、この娘の中に入るのだ。いま、娘は本来の魂のみになっておるはずだ。おまえにくくりひめであったときの記憶を見せてくれよう」
満夜はこくりと頷き、ためらうことなく菊瑠の体に覆い被さって中へと入っていった。
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