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八橋のいない間も発掘作業は続けられた。朝から作業服を着た満夜たちは現場に集まり、蛇塚の中の土を取り除いていく。作業に慣れてない満夜はその土を運ぶ役目だ。
中腰のまま何往復も同じ作業を繰り返し、いい加減腰が痛くなってきた。
「ひぃはぁ……オレは頭脳戦には強いが、健脚の呪符なしには体力に自信がないのだ……おい、鵺。何かマッスル的な呪符を教えろ!」
「まっするとはなんだ? 体力に自信がないならば、このような苦役に志願することなどなかったのだ」
勝手気ままにあちこち歩き回っている鵺が答えた。
「だが、おまえも神の端くれ、何か知っていよう」
「端くれとは失敬な! 金剛の呪符なら知っておるが、そのような態度のものに教えぬ」
「ぬぅ……金剛の呪符だな! それならば、この明晰なる頭脳の中に収められているぞ! しかし……紙と筆がない!」
「では諦めるのだな」
「くううう……!」
結局小休止をとって、再び、作業に戻った。
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凜理は昨日の晩に父親の嵩に蛇塚の発掘の件を相談して、入院中の八橋に一筆を書いてもらい、学校から許可してもらっても良いか訊ねた。
「そりゃ、構わないが、蛇塚かぁ……お父さんが小さい頃は祟られるからっておばあちゃんに脅されて近寄ったこともなかったけど……それに都市開発で公園になったときも作業中に何人か亡くなったって聞いてるぞ。大丈夫か?」
「大丈夫かていわれてもうちにはよう分からんけど、この間満夜が閉じ込められて助けたときは満夜には何もなかったやないの? 大丈夫て思うよ」
「そうか……ならお父さんに反対する理由はないな。八橋先生は確か平坂大学の先生だったな。オープンキャンパスのときにお世話になった先生なのか?」
「そうやで。うちはまだ決めとらんけど、民俗学科の先生や」
「満夜くんの影響かな? 社会活動に貢献するのも良い勉強になると思うし、学校にはお父さんから電話をしておくから、先生のお見舞いがてら病院に行ってきなさい」
美千代がいくらかお金を凜理に手渡して、
「お見舞い品を買って行きなさいね」
「はぁい」
凜理は家を出て早速平坂病院へ向かった。
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「君もかぁ。まぁ、ボランティアは何人いても良いけどね」
高熱の割には元気そうな八橋がベッドのリクライニングを動かして体を起こした。
元気そうに見えるが頬はげっそりとやつれて、大きな点滴袋が腕にチューブで繋がっている。
凜理の持ってきたお菓子を悲しそうに見つめて言った。
「何も食べられないんだよね……食べても戻しちゃうし」
「ごめんな、食べ物やない方が良かったな。せやけど大変やないの。原因はわかったのん?」
「いろいろと調べてもらったけどやっぱりわからないらしくて、こうして点滴以外に手の施しようがないんだ。それで、一筆を書けば良いんだよね?」
凜理は手がブルブル震えている八橋を見て、申し訳ない気持ちになる。
「先生、大丈夫?」
「書くのは大丈夫だよ。あぁ……レッサーパンダちゃんがいてくれたら死んでもいいけど……病院だからなぁ」
「病気の体であんなもん抱きしめとったら精気吸われるで」
この期に及んでも鵺を恋しがっている八橋に呆れた目を向けた。
「あ、そうや……」
凜理は思いついたように、もう一筆書いてもらって、それぞれ封筒に入れた。
凜理は学校に着くとすぐに一年の教室へ向かい、教室に一人でぼんやりとしている菊瑠を呼び出してもらった。
「どうしたんですか?」
たった一人で寂しそうにしていた菊瑠が嬉しそうに凜理のそばに寄ってきた。
周囲では一年先輩の美少女が菊瑠を訪ねてきたのを見た男子や女子生徒が、うらやましげに遠巻きに眺めている。
趣の違う美少女同士が顔をくっつけ合ってひそひそと内緒話をするのを見ていると、何やら背徳的な雰囲気になる。
しかも、凜理が一通の封筒を菊瑠に渡したのを見て、周囲はどよめいた。
「なんや、周りが騒がしなぁ」
「そうですね?」
何も知らないのは本人ばかりなり。
「じゃあ、これ持って、先生に社会活動をする旨を伝えて許可証をもらったら良いんですね」
「そうや。待ってるで」
「はい!」
廊下を颯爽と去って行く凜理の後ろ姿を惚れ惚れとした目つきで一年の生徒たちは見つめた後、どよどよと菊瑠の元に駆けつけた。
「あの人誰? 白山さんにどんな話があってきたの!?」
「あ、わたし、先生のところに行かなきゃ……」
逃げるようにして菊瑠は職員室に行くと、担任に事情を話し、意外に簡単に許可をもらえた。
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待ち合わせていた凜理と菊瑠が合流して公園にある蛇塚の発掘現場に着いたのは、昼近くになってからだった。
ちょうど昼休みで、みんなテントの下で食事をとっている。満夜もその一人だ。鵺と弁当のおかず攻防戦を繰り広げているのが見える。
「満夜!」
「芦屋せんぱーい!」
「おお、諸君。来てくれたか」
と、目を離した隙に鵺が弁当のおかずに顔を突っ込んで食ってしまった。
「ぬぉお! キサマ! これはオレの弁当だぞ!」
鵺はメインのおかずの焼きサバをくわえたまま、さっさと逃げてしまった。
「焼きサバくらいええやないの。ジュルリ……」
凜理の意思とは関係なく、魚の香ばしい香りに口の端から涎が垂れて、耳がピンと立った。
「おまえが焼きサバを我慢できるとは思えんがな……まぁいい。今から作業に参加するならば、作業長に必要なものを聞いておくといい。制服では作業できん」
かく言う満夜は他のボランティアと一緒のナイロン製の上下を着ていて、体中土だらけだ。
「長靴も必要だそうだ」
意外にまめにいろいろと教えてくれる満夜の横に、凜理と菊瑠が座った。
「あら、ガールフレンド?」
ボランティアの女性が満夜をからかってきた。
「違う! こいつらはオカルト研究部部員だ。オレの配下なのだ」
「なんが配下やの……」
「そういえば、千曳の岩は発掘できたんですか?」
「まだだ。やっと積もった土を取り除いたところだ。これから本格的に発掘作業に移るそうだ。おまえ達も昼飯を食って、作業服に着替えてきたら良い。作業道具は貸してくれる」
「了解」
満夜に促されて、二人はおのおの準備のために家に戻った。
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午後も遅くなり、ようやく蛇塚内部に埋もれていた古代の遺跡の一部が頭を出した。それらは人の形をした土偶で、意味まではわからなかったが、おそらく副葬されるはずの人々を模して土偶という形で埋葬したのだろうと、作業長が話してくれた。
「でも、はっきりとしたことは専門家じゃないとわからない。わたしは郷土史家だけど、この手の専門家じゃないからな」
作業長は謙遜しながら、テント下の青いシートに土偶を集めるように指示した。土偶一つ一つに番号を付けて、塚内部の地図にどこから発掘されたか印を付けていく。
とうとう、土偶が円形に配置されているところまで突き止めた。
「作業長、何か埋まってます」
土偶などを刷毛で探っていた女性が作業長を呼んだ。
「骨か?」
白いものが土の中に埋もれていて、刷毛で作業するには難しいと判断し、他の道具を持ってくることになり、女性たちと作業長は外に出ることにした。
外はもう夕暮れで、そろそろ作業を中断し、明日また作業するかという話し声が蛇塚の中にいる満夜にまで聞こえてきた。
「む……せっかくここまで発掘できたのに、作業中断か……残念至極。しかし、この白いもの本当に骨なのか? ガシャドクロの埋もれた骨によく似ているが……」
満夜は試しにその石をつまんでみた。
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