2
***
その頃、凜理は——。
「ただいまぁ」
リビングに入り、早速テレビを見ている竹子の隣に座った。
「お帰り、凜理ちゃん」
「なぁ、蛇塚のことなんやけど」
「また、満夜くんに誘われたんか?」
「ううん、満夜が銅鏡を見つけたていう記事読んだやろ?」
「見た見た。あないなところに銅鏡て、あるもんなんやなぁ」
「竹子おばあちゃん、前に蛇塚のことでなんやいうてなかった?」
「昔から満夜くんには話してたで」
そう言って、竹子がお茶をすすった。
「どないなこと話したん?」
「そやなぁ、弘法大師さんが悪い蛇をあの塚に封じたこととか、あそこで遊んだり触ったりものを持って帰ったら祟られるとか。いたずらした子供や大人が、原因不明の熱でなくなったこととかな」
「え……触ったら死んでまうん?」
「そういう言い伝えや。でも迷信やろ。満夜くんはしなんかったわけやし。でも、うちが小さい頃とかに亡くなった人もおるけどな」
「うーん、満夜、大丈夫やろか……」
「なんや、満夜くんが心配なんか」
「そら心配や。あいつ、ほっといたら何しでかすかわからへんもん」
「そやなぁ。小さい頃から忠志さんの後付いて拝み屋さんごっこしとったからなぁ」
「そういえば、満夜のお父さん、なんで拝み屋なんかしとったん?」
「ん? 凜理ちゃんはしらんのか? 里海さんは拝み屋をやめて欲しいて思うとったみたいやし、満夜くんに話してなかったんかな」
「どういうこと?」
「忠志さん、若い頃に急に霊力に目覚めたいうて、神主さんになる勉強をしながら、知り合いの人の失せ物探しとかしとったんよ」
「失せ物探し……それ、いざなみ教と同じ事か?」
「いや、神さんは下ろしたりせんし、そういうこともいうてなかったよ? その代わり、神通力ちゅうんかな? ああいう感じのはあったみたいやで。忠志さんの作るお札はよく利くいうて有名やったしな。かく言ううちのお札も一時期は忠志さんが作ってはったからね」
「うちのお札も?」
「魔払いやけど。あとは魔封じとかな。幽霊屋敷の後始末もやっとったな。家が不動産関係やったし、事故物件の処理を主にやっとったようやで?」
「そうやったんか」
不動産の仕事をしているのに、拝み屋もすると言うのはなんだかちぐはぐだと思っていただけに、事故物件の処理をする繋がりがあるとは思ってもみなかった。
「満夜はしっとるん?」
「さぁなぁ? 里海さんが話さんかったならしらんとちゃうのん?」
「……」
凜理は満夜がどうしてあんなに父親にこだわるのか、なんとなくわかった気がした。家族の中で父親の話がタブーになっていたら、余計に知りたくなると言うものだ。
「蛇塚のこと、聞きたかったんやないのん?」
「あ、そうやった。満夜、今日から手伝い行くいうて蛇塚にいってもうた」
「へぇ、銅鏡以外であそこから発掘されるんかいな? 夏前に満夜くんが閉じ込められたときはえらい騒ぎになったけど」
「人骨くらいはぎょうさんでるんやないの?」
「人骨だけやろか……うちが若い頃は人を誘って引っ張り込む幽霊がおるいう噂があったしなぁ」
「人を誘って引っ張り込む?」
「そうや。なんや知り合いに化けた幽霊に誘い込まれるいう話やで。平坂町は今じゃこんなに明るうなったけど、昔は真っ暗闇になるくらい暗かったんやで。うちが小さかったときは狸や狐がでて人を化かすとか、夕暮れ時にお化けが出る言う話がぎょうさんあったで」
「そうか……満夜はしっとるの?」
「しっとるもなにも。満夜くんが小さいときは耳にたこができんのかいなと思うくらいに話せいうてうるさかったわ」
「そやったんかぁ」
小さい頃は凜理にも普通の友達がいた。クロが死んで以来、親友と言えるのは満夜くらいになってしまった。それが良いのことなのか悪いことなのかわからないけど……。
高校に上がってからは土日も満夜に付き合ってやってるものだから、普通の友人との付き合いから遠ざかっていた。
「あかん……このままやと、うちも変人やて思われてまうわ」
「なんや?」
「いや、こっちのはなしや。ありがとう、竹子おばあちゃん」
この話を満夜に伝えなければと思いつつ、なんだかんだと満夜のために情報収集している自分は奇特だと思った。
「それにしても……」
美虹がいっていた言葉……。
——満夜くんがいざなぎ様の生まれ変わり……。
あれは本当のことなのだろうか。それが気がかりで仕方なかった。
部屋に入り着替えると早速満夜に電話してみた。
「満夜? 凜理やけど」
『どうした』
「美虹さんのことなんやけど」
『うっ……』
「苦手なんはわかるけど、この話だけは聞いて欲しいねん」
『一体何だ』
「美虹さんがな、あんたがいざなぎの生まれ変わりやていうてたで」
『なんだと!? オレが……? うーーむ……』
さすがの満夜も言葉が出ないと見える。
「だからいざなみが満夜のこと気に入ってるんやて」
『迷惑だ! それにいざなぎはオレの先祖ではあるだろうが、オレではないと思うぞ!』
「え? 満夜にはわかるのん?」
『いや、これはカンだ。オレの未知なる第六感が、オレがいざなぎではないと告げている。もしも前世がいざなぎならば、いざなみ教本部に行ったときに気付いているはずだからな!』
「確かにそうやな……あ、それとな」
『なんだ?』
「蛇塚のこと、竹子おばあちゃんに聞いたんやけど」
『蛇塚に関わると死ぬとか祟られるとか言う話か』
「やっぱ、満夜はそのくらいのことはしっとるな。じゃあ、人に化けた幽霊に誘い込まれるいうんは?」
『ほう! まさにおまえが偽白山くんに騙されて誘い込まれたのと同じだな』
「やっぱりそう思うたよね?」
『昔散々聞きまくっていたしな。その幽霊、もしかすると身代わり観音像とも深い関わりがあるやもしれん』
「また、身代わり観音像のとこに行くんか?」
凜理がうんざりしたように言った。
『いや、今回はダイレクトに発掘の手伝いのために中に入ることができる。このことで他のものたちにも同様のことが起こるか、観察せねばならん』
「注意喚起とかせんの?」
『おまえはオレを狼少年にしたいのか!』
「狼少年?」
『もしも何度も注意喚起したあげくことごとく何も起きなかったとき、オレの言うことを誰も信じなくなってしまうだろう。そうなれば、オレが本当に危ないと察知したときにはすでに遅しなのだ』
「まぁ、確かにそうやな」
満夜の言うことにも一理ある。
『それにな、オレが感じたことだが、今回発掘に携わっているものたち、あいつらは町外の人間としか思えん。町内のボランティアはなんだかんだと理由を付けて休み、発掘に参加していないと見た!』
「へぇ」
『誰も蛇塚の祟りを信じていない様子だったから、おそらくビンゴだろう! それよりも凜理。八橋先生が倒れたぞ』
「ええ!?」
『蛇塚の祟りが直撃したのだろう。平坂病院に入院している。オレは明日から発掘に携わるため学校を休むことにした。おまえ達も八橋先生に一筆書かせて、学校に届け出るのだ』
「え? どういうこと?」
『どういうことなどどうでも良い。今こそ! オカルト研究部の真の力を発揮するときなのだ!』
耳元で喚かれて凜理はスマホを耳から離した。それでも満夜の声はよく聞こえてくる。
「せやな……お父さんにそのこと説明して許可を取ってくる」
『と言うわけで、オレは』とここまで満夜が話した後ろで、里海の「満夜、夕ご飯よ!」という声が響き、『ではさらばだ!』と満夜は慌てて電話を切った。
凜理は満夜に忠志のことを話したかったが、電話を切られたのでかなわなかった。
「発掘かぁ……」
凜理がそう言ってベッドに寝転がると、階下から「ご飯よ」と呼ばれた。
「明日になってから考えよ……はぁい!」
そう言って、凜理はダイニングへ下りていった。
面白かったら、是非、一番下にある☆で評価を教えてください!
よろしくお願いします。




