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凜理たちは平坂高校の門をくぐり、一直線に旧校舎の裏手へ向かった。
放課後ということもあって、校庭で部活動をしている生徒以外、校舎のほうに人影はあまりない。
凜理は目の前に広がる、陰鬱とした林を見て、いかにも満夜が好きそうな雰囲気だと思った。
「へぇ、半分原生林のままなんだね」
「先生は平坂高校の出身じゃないんですか?」
「ボクは平坂町外の出身だよ。平坂大学の院に編入して博士号をとって、そのまま大学にいるわけ」
外部ならわざわざ平坂大学に来なくても他に大学があっただろうにと凜理が思っていると、それに感づいた八橋がにっこり笑って付け加えた。
「教授がボクの研究の先駆者でね。教授の論文を読んで憧れて志望したんだ」
「そうなんや。そういえば八橋先生の研究てなんなん?」
「平坂町の古代信仰。ほら古墳群とか遺跡とかを調べるんだ」
鵺が古代の平坂町を守護していたことを話したことがあるだろうかと考え巡らせていたら、
「古墳群の出土品からいくつか土偶も発掘されててね、形は崩れてるけど、動物型のものがあるんだよ。レッサーパンダちゃんがたまに守護せしっていってるから、もしかするとレッサーパンダちゃんの土偶かもね」
「なんや先生知ってたんか」
「知っていると言っても推察だけど」
「古代の平坂の地を守護する神やていうてたよ」
「やっぱりそうか。でも、証拠がないと『こうですよ』って言えないのが残念だよね」
ムニュッとボストンバッグから顔を出した鵺が一喝する。
「誰がなんといおうとわしはこの地の守護神なるぞ!」
「はいはい、鵺の言うとおりやな」
「レッサーパンダちゃんが治める地かぁ……ドリームランドだね。そういう国に住みたい。毎日もふもふできるよね!」
何か勘違いしたまま、目をキラキラさせて八橋が言った。
「わたしももふもふちゃんが治める国に住みたいです!」
「だよねー」
「ですー」
何やら意気投合した様子で、菊瑠と八橋が顔を合わせた。
「本来のわしを目の当たりにすれば、おのれら恐れ戦いて顔も上げられぬわ!」
「本来の鵺ってどんなんやろ?」
「天を突くほどの巨躯なるぞ!」
「「巨大なもふもふ!!」」
興奮した様子で菊瑠と八橋が声を上げた。
「あんた、きっと元に戻ってももふられるんとちゃう?」
「ぬうう……我が威光を畏れぬ者どもが」
鵺が「きしゃああ」と吠え声を上げる度に二人は黄色い歓声を上げた。
林の中に入るにつれて、次第に辺りが暗くなる。凜理が見上げると、梢で空が遮られていた。
満夜が石を見つけた場所はすぐにわかった。雷が地面をこそぎ、周囲の木の幹が少し焦げていたからだ。
泥が辺りに散っていて、地面は相変わらずぬかるんでいる。
八橋が近くにあった手頃な木の棒を持って、一番酷く雷が落ちた場所を探った。
「ほんとだ。石のかけらが転がってるね。でも、この石、まだ深く埋もれてるみたいだ」
「泥で見えへんな」
「シャベルがないと無理かな……はけとスコップを持ってくれば良かった」
「スコップを大学に置いてるんですか?」
「発掘が主な仕事だからね。持ってるよ。でもここまでぬかるんでたら、発掘も大変だと思うけど……それに校内だから、勝手に掘っちゃいけないしね。でも、ここまで来たんだから、このかけらは持って帰って調べるよ」
「調べるて、何ヶ月もかかるんやないの?」
「そこは教授の力だよ。権力にものを言わせるし、ボクは専門家だからね」
「ほな、その石のかけら、鬼石なのか調べてくれるんやな」
「まかせて」
そう言って、八橋は泥にまみれた石のかけらを拾い集めてリュックから取り出したパウチ袋に入れた。
結局収穫は石のかけらだけで、三人は解散することになったのだった。
自分の部屋のドアを閉めて、凜理はため息をついた。
「何をため息をついておるのだ」
「あんたのことでため息をついとるんや」
「わしに何か問題でもあるのか?」
「うちはまともな家庭やから、レッサーパンダでしかも尾が蛇の動物とか、お父さんが見たら失神するわ」
「わしは従者の家に帰る。おまえの父に会うこともない」
「それ聞いて安心したわ。満夜に連絡して迎えに来てもらうように言うたるわ」
「そうしてくれ」
早速満夜に電話をすると、満夜も電話をしようと思っていたらしく、驚いている。
『おお、良いタイミングだ! 今日の話を聞こうと思っていたところだ』
「はよ、鵺を迎えに来てぇな」
『どうした? 鵺とけんかでもしたのか?』
「ううん、せやないんやけど……」
『鵺が凜理を困らせているんだな。俺がガツンと一発言ってやるから安心しろ。ところで、今日はどうだった?』
「石は八橋先生が調べるゆうて持って帰ったわ」
『そうか……鵺のまぬけに砕かれたので、もう使い物にならんと思っていたが……』
「そうそう、先生がおもろいことゆうてたで」
そう言って、図書館で話したことを言って聞かせた。
『ほう、あの先生も思ったより役に立つな。しかし、いろいろな文献が手元にあるならば、最初から見せてくれれば良いのだ。無駄骨をとらせおって』
「無駄とは思わへんけど、もったいぶってるかもしれへんな」
『もしかすると先生は先生で何かわかっているのかもしれんな。情報は共有すべきだが、先生にも確証がないのかもしれん』
「そないなこともゆうてたわ」
『とりあえず、オレたちにできることは待つことなのか? だが、このオレが時間を無駄にするなどよしとはせん。鬼石についてばっちゃんに聞いておいてくれ』
「そやな、竹子おばあちゃんなら、なんやしっとるかもしれへんな」
『それでは、おまえの家に向かうので、その間に頼む!』
「了解」
スマホを切ると、鵺を自分の部屋に残し、階下のリビングでお茶を飲んでいる竹子に鬼石のことを聞きに下りていった。
「鬼石?」
竹子が凜理の言葉に反応して聞き返した。
「うん。平坂高校の辺りで言い伝えられてる鬼石のことや」
「そやなぁ……大昔はあそこら編埋め立て地やから、家建てたりはようせんかったけど……鬼石ねぇ……」
「なんで、埋め立て地やと家を建てへんの?」
「あそこは沼地やったから、雨が降ると地面がゆるゆるになるんやで。せやから、学校が建ったときはやっぱりなぁ、住めへんもんなぁってうちらの世代は思うとった。人が暮らせへん土地なんや」
「なんで」
「湿気とるからか、家がすぐ腐るし、人がすぐ病気で亡くなるんや。うちが子供やったころも人が住んどったけどすぐ引っ越しはったわ」
「人が住めへんの……それじゃ、鬼を封じた岩の話は? 丘があったとかは?」
「ああ、弘法大師さんが鬼を封じたって昔話は聞いたことがあるわ。あそこらへんに妖怪が出るゆうて、夜は近づいたらアカンていわれたわ」
「妖怪?」
「ガシャドクロてゆう妖怪や」
「なに、そのガシャドクロて?」
「大きなドクロのお化けでな、人をさらって食うんやで。せやから夜はあそこらへんを出歩く人はおらんかったんや」
「初めて聞いたわ」
「そりゃ、今は学校があるしな、もう妖怪とかゆう時代やあらへんやろ」
「そうやろか……」
「凜理は満夜くんに影響受けとるさかい、簡単に妖怪ゆうもんを信じるところがあるんやな」
「それはしょうがないて」
凜理は竹子にからかわれて苦笑いを浮かべた。
「あ、そろそろ満夜が来る時間や」
凜理は時計を見て気付いた。
「満夜くん、来るんか。また勉強会か?」
「ううん、オカルト研究部のことでうちにくることになっとるんや」
「またまた満夜くんの影響か。凜理は満夜くんと相変わらず仲がええな」
「仲がええとかそうゆうもんやないで。腐れ縁や」
「ふふふ」
竹子がふくみ笑いながら立ち上がり、茶箪笥からお菓子を取り出して、凜理に渡した。
「満夜くんが来たら食べたらええ。美千代さんがおらんから自分でお茶入れてな」
「わかった」
とここまで話したところで満夜がやってきた。
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